サントミューゼ(上田市交流文化芸術センター・上田市立美術館) おかげさまでサントミューゼは10周年

JA

【レポート】アナリーゼ(楽曲解析)・ワークショップ vol.47~新倉瞳(チェロ)&佐藤卓史(ピアノ)

体験する
会場
サントミューゼ

2021年1月24日(日) 19:00~20:00 サントミューゼ小ホール

 

今年度のレジデント・アーティストであるチェリストの新倉瞳さんとピアニストの佐藤卓史さんは、2021年1月の最終週から上田での活動をスタートさせました。

 

まず、1月24日の夜にアナリーゼ・ワークショップを開催。3月13日に予定されているデュオ・リサイタルの楽曲を、おふたりならではの視点で分かりやすく解説しました。

 

チェロを抱えたニット姿の新倉さんと、ブラックコーディネートで決めた佐藤さんが登場。挨拶のあと、新型コロナウイルス対策が取られた会場に向かって「距離はありますが、質問などありましたら、どんどん出してくださいね」と新倉さんが笑顔で呼びかけます。

 

 

今回のプログラムは、前半がフランスの作曲家の作品で固められています。

1曲目は、今年没後100年を迎えるサン=サーンスの「白鳥」。新倉さんが初めての発表会でお母様のピアノ伴奏で弾いた思い出の曲で、14曲からなる組曲の第13曲になります。

本来ピアノ2台で、いろんな楽器と共演するこの組曲について、佐藤さんは、「『動物の謝肉祭』という組曲なんですが、中には下手なピアニストをおちょくるような皮肉の効いた『ピアニスト』という曲もあるんですよ」と教えてくれました。

 

演奏の前に、最初の質問コーナーとして、会場から質問を受け付けます。

男性が手を挙げ、「佐藤さんにはデュオの醍醐味を、新倉さんにはチェロのどんなところが好きか教えてください」と質問。

まずは佐藤さんが、「楽器によって違うところでしょうか。まず、楽器によって音域が違いますし、その人の持っている音楽もあります。かっちり決めずに都度つくりあげていく面白さがあります」と回答。

続いて新倉さんは、「人の声に近い通奏低音楽器ですが、デュオでや演奏すると旋律も支える側も両方できるところが好きです。チェロ以外の楽器のために書かれた楽曲をチェロでやりたい気持ちもあって、作曲家が意図した“景色”を、チェロを通して見てみたいと思っています」と答えました。

 

次に話は新倉さんのチェロに移ります。テーマは「新しい楽器と古い楽器の違い」。「新しい楽器は何と言っても木が健康で鳴りがいい。一方、古い楽器はいろんなことを知っていて倍音がよく鳴り、オーケストラと共演すると強さがよくわかる」と奏者としての体験を交えて解説。ちなみに、新倉さんが現在使用しているのは、1694年にイタリアでつくられた「ジョヴァンニ・グランチーノ」という名器だそうです。

 

 

さて、いよいよ演奏に入ります。「白鳥」はピアノが湖の水面を、チェロがその上を優雅に滑る白鳥を表現していると言われています。2015年の初共演からたびたび共演しているおふたりの音色には、この名曲の普遍的な美しさが宿っていました。

 

次は、佐藤さんのピアノ・ソロでシャミナードの曲です。シャミナードはフランスの作曲家で、コンポーザーピアニストとして初めて経済的に自立した女性作曲家として知られています。佐藤さんが演奏する「森の精」という曲を聞いた新倉さんは、「佐藤さんがシャミナードをとても大事にしていることが伝わってきます。いつも、舞台裏で聴いて胸がいっぱいになるんです」と感想を伝えます。

 

3曲目は、シャミナードと同じく作曲も手掛ける佐藤さんによる自作曲「夜想」です。新倉さんが佐藤さんに「チェロの曲を書いていただけますか?」と話したことがきっかけで、コロナ禍の外出自粛期間中に書き上げられた曲で、動画配信で初演されました。

 

続いて2回目の質問コーナー。今度は2つの質問が飛び出しました。

 

まず、「お互いの演奏家としての特徴はどう捉えていますか?」との問いに、新倉さんは佐藤さんのことを「超正統派、真面目、コンクールの覇者というイメージです。でも柔軟で面白い方で、定型文にハマりこまないユニークさとユーモアがあります。ご自分が素敵だと感じる人やモノに対して正直な方ですね」と回答。また、佐藤さんは新倉さんのことを「音楽も、音楽以外も興味の幅が広いですね。しかも全身で没入して、必ず何かつかんできます。人生を楽しんでいるなと思います」と回答しました。

 

 

また、「ステージに立って何曲も演奏する時、集中力はどんな感じですか?」という質問に対しては、

「『集中しないと』とは思っていなくて、日常の延長でステージできたらいいなと思っています。日によって浮き沈みはあって当然で、もちろん音楽として成立させますが、あまり決めこまず演奏しています」と佐藤さん。

「プログラミングする段階で、その時の空気感を想像しています。今日のように、その時になってみないと分からない柔軟なやりとりを楽しんで、たとえハプニングが起きたとしてもいい思い出にできるようにしたいです」と新倉さん。

 

4曲目はウェーベルンの「3つの小品」。佐藤さんが「点描画のよう」と表現するこの曲は、私たちが見知ったチェロの特徴とはまた違った“景色”を見せてくれます。ウェーベルンはオーストリアの作曲家で、前衛的な作風を特徴としています。

「摩訶不思議な中にファンタジックな味わいがあり、わかりやすい美しさではないものの、作曲家が表現した“景色”を感じられた時に喜びがある。少ない音で世界をつくるところは、日本の俳句にも似ており、日本美術に影響を受けたドビュッシーのチェロ・ソナタにも通じるものがある」と佐藤さん。

 

そして最後は、ベートーヴェンの「チェロ・ソナタ第2番」。ピアノとチェロの二重奏を歴史的に見ていくと、当初はピアノにチェロがついてくる曲が多かったものが、時代とともに対等に書かれた曲が増えていったとのこと。ですが、この曲の第2楽章は「チェロがオブリガード(助奏)のつもりでいます」と新倉さんが言う通り、どちらかというとチェロは支える側に回ります。

「最後、遊びましょうか」という新倉さんの茶目っ気たっぷりの言葉で、演奏がはじまります。

流麗に旋律が移ろう中に、スピード感や躍動感が同居し、さまざまなニュアンスが現われます。まるでチェロとピアノで対話しているよう。

 

 

今回はアナリーゼなので客席にも照明がつき、一人ひとりの顔が見えます。完成品を披露するのとは違った裏話を打ち明けるような親密さがあり、おふたりは「楽しかった」「あっという間でした」と、今夜のお客様との出会いを噛みしめていました。