【レポート】群馬交響楽団 上田定期演奏会 -2023夏-
6月25日(日)15:00開演 サントミューゼ大ホール
サントミューゼで恒例となった群馬交響楽団の定期演奏会。日本の地方管弦楽団の草分け的存在である「群響」は、2020年に創立75周年を迎えました。
今回は、異なる作曲家によるパリにちなんだ3曲のプログラムです。指揮を務めるのは日本のオーケストラ界の重鎮、秋山和慶さん。ソリストに、2021年ジュネーヴ国際コンクール・チェロ部門で日本人として初優勝した上野通明さんを迎えます。客席は、多くのお客様で埋め尽くされていました。
1曲目はモーツァルトの『交響曲 第31番「パリ」』。故郷ザルツブルクを離れ、新しい就職先を求めてパリを旅した彼が音楽監督ジョゼフ・ルグロの依頼で作曲したこの曲は、当時のパリの聴衆を大いに喜ばせました。
全楽器のユニゾン演奏で力強く始まる第1楽章。きびきびとしたテンポが心地よく、パリの華やかさ、勢いを感じさせます。第2楽章は叙情的で美しいメロディーから始まり、強弱のコントラストで魅了しました。そして第3楽章。静かなパートを経て、全楽器が合流する部分には驚嘆。プログラムノートによれば、モーツァルトは当時の演奏を振り返り「フォルテが聴こえるのと拍手が沸き起こるのが同時でした」と語ったそう。往時のパリの聴衆を熱狂させた素晴らしい音楽は、今も堂々と華やかに、客席を魅了していました。
続いてはフランス北部に生まれ、パリに移って作曲活動を行ったラロによる『チェロ協奏曲 ニ短調』。ステージにはソリストの上野さんが登場しました。
ラロの祖父がスペイン人だった影響か、この曲にはスペインの民族色が漂い、当時のパリで流行した異国趣味の要素が散りばめられています。
第1楽章はどっしりと力強いオーケストラ演奏に続いて、チェロの独奏が歌声のように響きます。哀愁や慈愛を感じる、語りかけてくるような澄んだ音色。弓と弦が触れ合う音も響き、体温が伝わってきます。フルートや弦楽器の落ち着きと優しさが寄り添い、甘美な時間を紡いでいました。
第2楽章も、生き生きと歌うチェロの音色が惹きつけます。特にフルートと独奏チェロが重なる部分は青空で小鳥が遊んでいるかのように軽やかで美しく、包む込むようなオーケストラで楽しませてくれました。
第3楽章。スペインの民俗色を映し出す独奏チェロがなんとも格好よく活気に満ちて、鮮やかな無数の色がステージに広がっていくようでした。リズムも軽快。休みなく音を奏でるソリストとオーケストラの音の重なりも楽しく、躍動感あふれる世界が広がっていました。
演奏後は嵐のような大拍手。たくさんの人が頭上で大きな拍手を送り、「ブラボー!」という賛美の声もあがりました。
拍手に応えて、上野さんがアンコール演奏を届けてくれました。カサドによる『無伴奏チェロ組曲 第2楽章』。音の粒が見えるように美しく、厚みのある音色です。民俗的なエッセンスも織り交ぜた軽快な楽しいメロディー。演奏後、再び大きな拍手が降り注ぎました。
休憩を挟んで最後のプログラムは、ベルリオーズ作曲『幻想交響曲 作品14』。家族の反対を押し切ってパリに出たベルリオーズは、ある人気女優に一目惚れの末、手痛い失恋を経験します。この交響曲は、恋に敗れた芸術家が服毒自殺を図るものの死にきれず、さまざまな幻覚を見る……という設定で書かれたもの。まさにベルリオーズ自身を投影しているように感じます。
ロマンティックなメロディーが夢うつつの様子を描いているような第1楽章。恋の情熱が激しく盛り上がる部分とのコントラストが鮮やかです。咲き乱れる花のように強く響くフルートと弦楽器、心拍のように響くティンパニ。華やかな舞踏会を描いた第2楽章は、ハープが響く優雅な音色に心が浮き立ち、芸術家のざわめく心が伝わってきました。
切なさが宿る第3楽章は、イングリッシュホルンとオーボエの二重奏が悲しげに響きます。芸術家の不安や孤独がのぞくようで、第2楽章とは対照的。徐々に悲しみが増していき、最後は優しいハーモニーが訪れました。第4楽章は、芸術家が自殺を図るシーン。絶望を感じさせる不気味なリズム、迫り来る恐怖のような激しい音色に圧倒されました。
そして第5楽章、魔女や亡霊たちがいる宴にやってきた芸術家。不気味な笑い声や、おどけたような音色を奏でる管楽器。弔いの鐘が鳴り、死の訪れを告げます。しかし不思議な明るさがあり、美しく華やかな音色は祝祭感も感じさせました。迫り来る足音のようなリズム、狂乱のハーモニーの末に、華々しくフィナーレが訪れます。
演奏後、客席からは今日一番の拍手が送られました。指揮を務めた秋山さんも晴れ晴れとした笑顔です。3人の作曲家による、パリを舞台にした彩り豊かなプログラム。聴いている私たちにさまざまな感情を湧きあがらせる、充実のひとときとなりました。
〈プログラム〉
モーツァルト/交響曲 第31番 ニ長調 K.297 「パリ」
ラロ/チェロ協奏曲 ニ短調
ベルリオーズ/幻想交響曲 作品14
【アンコール】
▼ソリストアンコール(チェロ:上野通明)
カサド/無伴奏チェロ組曲 第2楽章