サントミューゼ(上田市交流文化芸術センター・上田市立美術館) おかげさまでサントミューゼは10周年

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上田第一中学演劇部での演劇ワークショップ

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サントミューゼ

上田第一中学演劇部が“演じる”を体験しました。

 

内藤さんの紹介上田第一中学校は市内で唯一の演劇部がある中学校です。そんな第一中で平成25年に演劇ワークショップを開催した「南河内万歳一座」座長で演出家の内藤裕敬さん。その別れ際に、名残惜しそうな生徒たちに向かって「また来るよ」と伝えた約束を果たすように、再び演劇ワークショップの講師として第一中演劇部の前にやってきました。迎えたのは1~2年生の部員13名。「南河内万歳一座」に所属する俳優・木村基秀さん、上田市内を拠点に活動する「劇団モカイコZ」代表・篠原拓夢さんが内藤さんのアシスタントを務めました。
まずは生徒全員が椅子で囲んだフロアを舞台に見立て、人とぶつからないように歩くことからスタートです。歩く生徒たち 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「舞台は観客に見せるためにつくるもの。だから役者は、常に誰かに見られている意識をもって動くことが大切」と内藤さん。生徒たちは人に見られていることを意識して、空いているスペースを探してまんべんなく広がり、大きく手を振ってさっそうと歩きます。舞台上の限られた広さの中では、この空間認識が重要なのです。

 

歩く生徒たち続いて内藤さんは、生徒たちそれぞれに、海が見えるイメージを思い浮かべるように課題を出します。「海が見ている『フリ』ではなく、本当に見えているイメージで。その想像力ができないと、本当は仲良くない人と仲良くなるような演技など芝居の中でできない」と内藤さん。風の音、海の匂い、波の気配……。内藤さんの声に誘導されるように、生徒たちの目の前には次第に広大な海が広がってきたようです。次に、深い森に迷い込んだイメージを浮かべます。「ちゃんとイメージすることができたら、自然と気持ちが生まれて森を感じることができる」。内藤さんの言葉はすんなりと生徒たちに入っていきます。

さて、次は複雑な動きでフロアを舞台に見立てて動き始めます。まずは2ステップの歩き方で空いているスペースを探しながら動きます。続いて同じ側の手足が同時に出る歩き方(右手と右脚、左手と左脚を同時に出す同側型動作)の「ナンバ」をします。内藤さんの指示で「普通の歩き方」「2ステップ」「ナンバ」を繰り返すと、笑いが起こりながらも、生徒たちは真剣そのものな表情で動いていました。

続いてプログラムは、内藤さんのワークショップでおなじみの、手足をひらいたりとじたりしてチグハグに動かすジャンプに移ります。手は2拍で「ひらく・とじる」を繰り返しながら、足は「ひらく・とじる・とじる」と3拍の動きになるのがポイント。これがとにかく難しい! 生徒の皆さん、大苦戦です。

ジャンプの練習

 

 

 

 

 

そして、発表の時間。4人1組になって全員の前に立ち、1人ずつそれぞれに違う動きを声に出しながら披露します。
発表会
練習中は全然できなかったのに本番で成功する人もいれば、最後の最後で間違える人がいたり……。独特の緊張感もほのかに漂っていたフロアですが、この発表会のおかげで笑いが生まれ、一気に和やかな空気に包まれました。この動きを通じて、内藤さんが伝えたかったのは「同じ芝居でも、演じるグループによってぜんぜん違う」ということです。

次に呼吸法の練習をします。息を吐くときにお腹をへこませて、ゆっくりと息を吸いながらお腹を大きくする「腹式呼吸」です。この呼吸法で、同じ声量のまま10カウント、次に20カウントを数えながら、自分の中の高音、低音と、発声が楽な音階を掴みます。さらに30までのカウントにも挑戦します。
「舞台の上では動きながら、ときには走りながらセリフを言います。だから、動いていても息が整えられる腹式呼吸の発声法で声を出すことが大事なのです」と内藤さん。そのためにも、20分間止まらずに走り続ける体力面と、声を出しながら走る技術面の両方が必要になるのです。

カウントする生徒 カウントする生徒

今度は床に横になり、足を床から45°上げて、誰かが「1」と言ったら、続いてほかの誰かが「2」「3」「4」……と、誰ともかぶらずに「20」まで言えるように続けるゲームをします。誰かと同時に同じ数字を発声したら最初からやり直し。このゲームを通じて、周囲の空気を読む力を鍛えます。その間、生徒たちは足を下ろすことができないので、プレッシャーがどんどん高まります。無事、誰ともかぶらずに「20」まで言い終えたときは、なんともいえぬ達成感が溢れていました。

足上げする生徒 達成感

 

 

 

休憩を挟んだあとは、いよいよセリフを使ったワークショップです。

演技

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「学校でいまだかつてないほどの巨大台風に襲われた生徒たちが、台風が過ぎ去った頃に屋上に上がり、思い思いの言葉を話す」という1シーンを全員で演じます。
内藤さんが用意した台本に従い、生徒たち全員で話し合って配役を決めてから、実際に椅子で囲んだフロアを舞台に見立て、講師陣を観客と捉えて演じます。

最初は恐る恐る正解を探るように演じる生徒たちでしたが、
「セリフはイメージが言わせてくれる。さっきの海や森のイメージを思い出して」
「教室で実際に前代未聞の台風に見舞われると、どんな気持ちになるか。そこから屋上に出てくると、どんな雰囲気なのか」
「本番の芝居では役者の表現に対して説明はしないので、観客が役者の動きを見て『どうしたのかな』と見入ってしまうような演技を考えて」
「前の人のセリフを受けて、自分の中で生まれる言葉がセリフになる。『うん』という言葉ひとつも自分のイメージから生まれる」
など、内藤さんの具体的なアドバイスによって生徒たちの演技がみるみる変わっていくのがわかります。
ひとつひとつのセリフに対し、自分の中に生まれた感想や気持ちを込めていくイメージです。生徒たちのなかには、台風が過ぎるまで不安そうに教室で過ごしていた人もいれば、どことなく興味本位な表情をしていた人もいる……。演じている彼らからはそんな雰囲気が伝わってきました。

 

演技 演技 演技

「イメージがないセリフはおもしろくない。大切なのは『うまい演技』ではなく、いかに豊かなイメージを浮かべているか。イメージがないのに、イメージしているように整えている演技が一番ダメ。おもしろい芝居は、役者が会話を楽しんでいること。それは、フィジカル面の鍛錬と豊かな想像力の両方ができたときに成立するのです」と内藤さん。

内藤さん

2時間という短い時間のワークショップでしたが、目に見える変化を遂げた生徒たち。彼らが今後、さらにどのような成長を見せるのか、期待せずにはいられません。