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【レポート】長谷川陽子 チェロ・リサイタル チェロの魅力満載でお贈りするプログラム―あたたかな音色を楽しむ、冬のひととき―

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サントミューゼ

長谷川陽子 チェロ・リサイタル チェロの魅力満載でお贈りするプログラム―あたたかな音色を楽しむ、冬のひととき―

1月20日(金) 19:00~ at サントミューゼ小ホール

 

日本を代表するチェロ奏者であり、2022年にはデビュー35周年を迎えた長谷川陽子さん。サントミューゼで初めてのリサイタルを行いました。

 

ピアニストの松本和将さんとともにステージに登場した長谷川さんは、鮮やかな赤いドレス姿。チェロのボディの深い飴色によく映えます。ステージ中央にチェロとピアノが隣り合う配置で、どちらの姿も客席からよく見えます。

 

最初に演奏したのはウクライナで生まれた作曲家、プロコフィエフによる「チェロ・ソナタ ハ長調 作品119」。プログラムノートによれば、プロフィエフはこの曲に「人間―それは誇らかに鳴り響く」という表題を考えていたそう。その言葉通り、チェロとピアノが対話しながら人間のような豊かな表情を表現する、壮大な世界に没入させてくれました。

 

しっとりと始まった第1楽章、チェロとピアノが一体になって豊かな表情を奏でます。第2楽章は朗々と伸びやかな音から軽快な音、激しい音まで歌声のように響かせ、ピチカート奏法も印象的でした。第3楽章も、変幻自在の音色や躍動感に心が躍ります。演奏後、客席から大きな拍手が沸き起こりました。

 

 

「今日は寒い中お越しいただき、ありがとうございます。11月にも上田市の小学校を訪ねてクラスコンサートを開いたので、今朝上田に着いた時は『ただいま』という感覚でした」と笑顔で挨拶した長谷川さん。「プロコフィエフのソナタは歌心あるチェロらしいメロディーで、大好きな曲です」と語りました。

 

続いてはベートーヴェン。5曲が残るチェロ・ソナタの中でも最高傑作として知られる「チェロ・ソナタ 第3番 イ長調 作品69」です。

「使い古された表現ですが、ベートーヴェンはどんな状況も乗り越える、不屈の精神がある作曲家であると感じます」(松本さん)

「色々な苦悩を乗り越えながら、最後は人類愛を音楽に込めた音楽家ですね」(長谷川さん)

 

 

第1章、華麗な中に暗さや緊張感をたたえる壮大な音楽。チェロ、ピアノそれぞれの音の魅力が際立ちつつ重なり合い、いつまでも聴いていたくなります。第2楽章はリズミカルで情熱的。11月のアナリーゼで長谷川さんたちが紹介した、2004年の改訂版の楽譜で変更された部分も登場しました。第3楽章は穏やかに響く低音、めくるめくような美しいハーモニーに魅せられました。気持ちを込めて演奏するお二人の表情も印象的です。

 

休憩を挟んで後半は、日本の作曲界を代表する一人、三善晃による「母と子のための音楽」から。「素朴な“うた”をも芸術の薫り高い作品へと高める仕事を数多く残した(プログラムノートより)」彼によるこの曲は、国立成育医療センターの院内で流れる音楽として完成した隠れた名曲。チェロとピアノによる5曲の小品で構成されています。

 

子どもと母親にそっと語りかけるような柔らかなチェロの音色に、優しさと心強さを感じます。切なさを内包した美しい音が、きらめきながら降り注ぎました。第4曲「Ⅳ. お話―幻想」は、暖かいストーブの前でお話を聴いている心地良い情景が目に浮かびます。

 

「三善先生は私の母校、桐朋女子高等学校の当時の学長でした。音楽コンクールに入賞した時に直筆のハガキをくださって『いい演奏だった、頑張るように』と温かい言葉をくださった思い出があります。この曲は、傷ついた子どもたちを慰めるような温かな音楽ですね」(長谷川さん)

 

プログラムのラストは、ラフマニノフ作曲による「チェロ・ソナタ ト短調 作品19」。名ピアニストでもあったラフマニノフは手が大きかったことで知られ、ドから1オクターブ上のラまで片手で届いたのだそう。「だから彼の曲には、当たり前のようにものすごい和音が出てくるんです」と松本さん。

 

「力強く心を突き刺すような和音や、なんとも繊細な和声が魅力。同時に彼は感情の起伏が大きかったのか、ピアニッシモの次がフォルテッシモだったりと大変ドラマティックな1曲です。なにせピアノが大変なので(笑)、ぜひ松本さんの名演奏をお聞きください!」(長谷川さん)

 

ドラマティックに始まった第1楽章。華麗なピアノの迫力と速さは、しなやかなダンスを見ているよう。その熱に圧倒されると同時に、歌うように鳴り響くチェロの音の豊かさに驚かされます。暗く、妖しい美しさをたたえた第2楽章。二人の息ぴったりの美しいリズムが圧巻でした。第3楽章は甘くたゆたうように。チェロの伸びやかな音色が心地良く響き、優しい世界を紡ぎます。

 

 

 

第4楽章は雪解けを経て春が訪れたかのような明るさをもって始まり、暗さや温もり、優しさや憂いといった豊かな感情を込めて朗々と歌い上げます。きらびやかなフィナーレは、音が輝いて見えるかのよう。すべての楽章を通して、新しい時代に向かう大きな光が音の中に見えた感覚さえありました。

 

演奏後は大きな拍手、拍手。声は出せませんが、頭上に手を上げて拍手を送るお客様がたくさんいらっしゃいました。ものすごい熱気です。

 

 

笑顔で挨拶した長谷川さん。「今日は非常に“カロリーの高い”プログラムでしたので、この後おいしいものを食べることを楽しみに(笑)、アンコールをお送りしたいと思います」。そして演奏したのはカサド作曲「親愛なる言葉」。甘美で洒脱なメロディーは、先ほどのラフマニノフのソナタとは違う表情で明るく響きます。チェロでありながらヴァイオリンのような表情を感じる瞬間も。ラスト、チェロのボディを叩く奏法も素敵でした。

 

こちらも大きな拍手が鳴り止まず、もう1曲アンコールを披露してくれました。カザルスによる「鳥の歌」。歌い上げるようなチェロにピアノの音色が溶け合い、短い旋律の中に美しさが凝縮されていました。チェロとピアノが織りなす、深く色彩に富んだ音の世界を堪能した夜でした。

 

 

 

【プログラム】

プロコフィエフ:チェロ・ソナタ ハ長調 作品119

ベートーヴェン:チェロ・ソナタ 第3番 イ長調 作品69

三善晃:母と子のための音楽

ラフマニノフ:チェロ・ソナタ ト短調 作品19

 

〈アンコール〉

カサド:親愛なる言葉

カザルス:鳥の歌

 

(END)

より「星の世界」