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【レポート】金子三勇士 ピアノ・リサイタル

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金子三勇士 ピアノ・リサイタル

開催日
時間
14:00~
会場
サントミューゼ 小ホール

金子三勇士 ピアノ・リサイタル 

2023年5月14日(日)14:00~ サントミューゼ小ホール

9年目となるピアニスト・金子三勇士さんのリサイタル。今回は2部構成で、前半は金子三勇士の「本格」クラシック2023と銘打ちラフマニノフ、バッハ、ショパンを、後半はヴァイオリニスト・川久保賜紀さんをスペシャル・ゲストに迎えたヴァイオリンとピアノのアンサンブルです。

拍手で迎えられた金子さんは、間髪を入れず1曲目のラフマニノフへ。『前奏曲「鐘」』です。力強いタッチと教会の鐘の音を思わせる響きには、「本格クラシック」にふさわしい充実感があります。

金子さんは「今日は、3年半ぶりのヨーロッパ・ツアーから帰国して初のリサイタルです」と切り出します。今は、ロシアのウクライナ侵攻を受けてロシアの作曲家作品の演奏に否定的な意見もあるのだとか。「芸術家はどんな時でも発信できる存在」と言う金子さんの、今年生誕150周年で同じように厳しい時代を生きたラフマニノフがどんな思いで作曲・演奏したのか届けたい、という思いが伝わってきます。

2曲目はバッハの『フランス組曲』です。金子さんは2020年秋に新型コロナウイルス感染症にかかり、入院しました。高熱にうなされる中、唯一聴きたいと思える音楽がバッハだったそうです。「バッハの楽曲には特別な周波数があるのかもしれません」という金子さんの確かな演奏は、音楽を浴びて浸りきる幸福感に満ちていました。

前半最後はショパンの『ピアノ・ソナタ 第2番「葬送」』。過日、パリの教会で演奏した金子さんは、大きな残響に苦労したそうです。サントミューゼでのリハーサルでは、試しにいつもと違う位置にピアノを置いたところ、パリの教会を思い出すような残響が得られたのだとか。激情とショパンならではの甘美さが混じる第1楽章、第2楽章から、非常に有名な葬送行進曲の第3楽章へ。両手が忙しく動く技巧的な第4楽章は、ショパンの他の曲にはないテイストです。堂々とした演奏で貫かれた約20分でした。

後半は「ピアノで届ける隠れた名曲」として、今年生誕180周年のノルウェーの作曲家グリーグからはじまります。グリーグは、その国・地域・民族の民謡や昔話を取り込む作風の国民楽派の先駆者です。金子さんは「人間的でピュア」と評します。『抒情小品集』から「小妖精パック」「トロルドハウゲンの婚礼の日」「小人の行進」の3曲が、金子さんの演奏によって物語として目の前に現れるようでした。

川久保賜紀さんが登場します。川久保さんも演奏会やアウトリーチで何度も上田を訪れています。1曲目のブラームス『ハンガリー舞曲 第5番』では、金子さんが「とてもハンガリアンな演奏でした。」と言うように、情熱的なヴァイオリンを聴かせてくれました。

「川久保さんはフランスの作曲家作品をよく弾いているイメージがあります。」という金子さんは、川久保さんにドビュッシーの『月の光』とラヴェルの『ツィガーヌ』を提案したそうです。ピアノ単独で演奏されることの多い『月の光』は、フランス印象派ならではのさざ波のようなピアノの音色に、繊細でのびやかなヴァイオリンの音が乗り、違う容貌を見せてくれました。『ツィガーヌ』はフランス語で「ロマ(ジプシー)」を指し、後半4曲目の『ハンガリー舞曲 第5番』と同じく、情熱的で技巧的なロマ音楽に触発された作品です。ピアノもヴァイオリンに負けず劣らず難しく、緊張感とカタルシスが心地よい素晴らしい演奏でした。おふたりが共演を心から楽しんでいる様子が伝わってきます。

大きな拍手はなかなか鳴りやまず、アンコールとして2曲演奏してくれました。マスネの『タイスの瞑想曲』と、モンティの『チャルダッシュ』です。対照的な2曲が、今日だけのアンサンブルという特別な響きで奏でられます。

終演後は、久しぶりにサイン会が開催されました。

お客様に感想を伺いました。

金子さんのリサイタルには、ワンコインマチネの時からほぼ毎回来ているという女性です。「名曲を正統に弾く金子さんの表現がとてもよかったです。本格クラシック2024も期待したいですね。」

ピアノ教室を主宰している女性と小学6年生のお嬢さんは「金子さんはいつものように素晴らしくて、初めての川久保さんはとてもいい音色で驚きました。生演奏で初めて聴く曲は、迫力がありました。」と話してくれました。

【プログラム】

〈第1部 金子三勇士の「本格」クラシック2023〉

ラフマニノフ/前奏曲「鐘」

バッハ/フランス組曲 第6番 ホ長調 BWV817

ショパン/ピアノ・ソナタ 第2番 変ロ短調 作品35「葬送」

〈第2部 ヴァイオリンとピアノで届ける”The 名曲”!〉

グリーグ/抒情小品集 第10集より 小妖精パック 作品71-3

グリーグ/抒情小品集 第8集より トロルドハウゲンの婚礼の日 作品65-6

グリーグ/抒情小品集 第5集より 小人の行進 作品54-3

ブラームス/ハンガリー舞曲 第5番

ドビュッシー/月の光

ラヴェル/ツィガーヌ

【アンコール】

マスネ/タイスの瞑想曲

モンティ/チャルダッシュ