サントミューゼ(上田市交流文化芸術センター・上田市立美術館) おかげさまでサントミューゼは10周年

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【レポート】仲道郁代 ピアノ・リサイタル ― ブラームスの想念 ―

みる・きく

仲道郁代 ピアノ・リサイタル ― ブラームスの想念 ―
2023年9月16日(土) 14:00~
サントミューゼ小ホール

ベートーヴェン没後200年と自身の演奏活動40周年が重なる2027年のメモリアル・イヤーに向けて、独自のプログラムを組んでいるピアニストの仲道郁代さん。2023年秋は「ブラームスの想念」をテーマに4つのピアノ小品集を取り上げ、その初日をサントミューゼで迎えました。

控えめな光に照らされたステージへ、仲道さんが登場します。

「ブラームスが亡くなる5年ほど前に作曲された作品集です。その1年前にブラームスは身辺整理として遺書を書きました。今日演奏する4曲は、ブラームスが人生を振り返って思う、良きことも悲しきことも音にした作品ではないかと思っています」

仲道さんはこれらの曲に20代の頃から親しみ、当時から聴いても弾いても泣ける思いだったそうです。ブラームスが作曲した年齢に達した今もその思いは変わらないと言います。

『7つの幻想曲 作品116』は友人や身内の死が続いた時期に書かれており、ブラームスの暗く沈んだ心が反映されています。赤い照明に照らされたステージに響く第1曲目の冒頭は衝撃的で、「人生の終わりを意識した人の動揺が伝わってくるよう」だと仲道さんは語ります。第4曲と第6曲以外は短調で全体的にシリアスな雰囲気が漂いますが、ときどき顔を出す安寧や希望を感じさせる美しいハーモニーに、ひと色ではないブラームスの心を感じます。

『3つの間奏曲 作品117』について、ブラームスは「私の苦しみの子守歌」と述べていたそうで、仲道さんは「さまざまな悲しみ、後悔、懺悔といった心持ちを扱っているのではないか」と、さらに深く分析していました。1曲目に引き続き、素晴らしい集中力から導き出される精緻(せいち)な演奏に引き込まれます。

後半1曲目は、『6つの小品 作品118』です。

「第3曲は『バラード』、第5曲は『ロマンス』と名付けられています。ブラームスの人生を考えた時に、恩師シューマンの妻クララ・シューマンとの関係を考えずにはいられません」

ふたりは44年間もの長きにわたって手紙のやりとりを続けていたと言います。仲違いすることもありましたが、「この美しい曲(作品118、119)に免じて私たちの友情を元のさやに収めましょう」とクララが和解を受け入れたというエピソードがあります。色恋におさまらないクララとの愛に満ちた仲を反映したような作品118ですが、最後の第6曲は寂しさが横溢(おういつ)しており、愛の悲しみという側面を感じさせます。

4曲目の『4つの小品 作品119』に、クララは“灰色の真珠”という表現を与えました。硬派で厳しいブラームスの悲哀の中にある甘美なものを見抜き、そう評したのでしょうか。退廃的な雰囲気が漂う気だるい第1曲、4分の3拍子の中で揺れるリズムに危うさが潜む第2曲、最後の第4曲は決然とはじまり、短調で終わります。「人生は割り切れない。しかしそれを含めて人生であり、人生は讃えるべきものなのだ。そう分かっていても、心の行き場はない」と表現する仲道さんの演奏に、ブラームスが人生を振り返って感じる複雑な想念がにじみます。

ブラームスの心情と同期しているような圧倒的な演奏に、お客様から惜しみない拍手が送られます。

アンコールは、ブラームスの『子守歌』です。死を意識した曲集の後に、生まれたばかりの赤子に歌いかける曲が続くことで、悲しみや絶望と幸福や希望が同居する人生の真理が鮮明に伝わって来るようです。

「これらの曲集を弾いていると悄然(しょうぜん)とした気持ちになりますが、皆様の拍手で元気をいただきました」と笑顔を見せた仲道さんは、来年もまたこの時期に上田を訪れることをお客様に約束し、ステージを後にしました。

お客様の感想です。

仲道さんもブラームスも好きという女性は、「アナリーゼ・ワークショップにも参加しました。実際の演奏を聴いてこんな風に解釈されるのかと、感動しました」と、嬉しそうに話してくださいました。

山梨県北杜市からいらした女性は、「素敵でした。表現できないほど強いエネルギーを感じました」と、リサイタルの余韻を味わっていました。

【プログラム】
ブラームス:7つの幻想曲 Op.116
ブラームス:3つの間奏曲 Op.117
ブラームス:6つの小品 Op.118
ブラームス:4つの小品 Op.119
【アンコール】
ブラームス:子守歌 Op.49-4