サントミューゼ(上田市交流文化芸術センター・上田市立美術館) おかげさまでサントミューゼは10周年

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【レポート】大山大輔 バリトン・ミュージアム・コンサート

みる・きく

大山大輔 バリトン・ミュージアム・コンサート
2023年10月25日(水) 19:00~
サントミューゼ 美術館 2F展示室

9月から11月の約2か月間、上田市立美術館で開催されていた「うるおうアジア ―近代アジアの芸術、その多様性―」。その関連イベントとして、展示室でバリトン歌手・大山大輔さんのミュージアム・コンサートが開かれました。

大山さんはオペラだけでなく、演劇、ミュージカルなどでも活躍する、実力と独特の存在感を兼ね備えたバリトン歌手です。大山さんと同じ鹿児島県出身の折田夏菜さんがピアノを演奏します。

拍手で出迎えられた大山さんと折田さんは、一礼して1曲目の『What a Wonderful World(この素晴らしき世界)』へ。会場に響き渡る歌声と、歌詞に合わせるような大山さんの手の表現が印象的です。この歌には「木の緑」「バラの赤」「空の青」というように色が印象的に表現されていて、会場を見守るカラフルなリキシャや大判の絵画とリンクするようです。

「今日は展示に合わせてアジアの曲をいつもより多めに歌います。音楽も美術作品のひとつだと思って、一曲一曲楽しんでください」と大山さんが挨拶して、『蘇州夜曲』と昭和を代表する歌手・美空ひばりのメドレーを続けて披露します。

李香蘭のためにつくられた『蘇州夜曲』は、大山さんのしっとりしたバリトンで、新鮮な表情を見せてくれます。メドレーは『リンゴ追分』『柔(やわら)』『悲しい酒』『愛燦燦』の4曲で、ひばりファンでなくとも心に染み入る絶妙な選曲。大山さんの声によって、曲に込められた心情がより深く感じられるようです。特に『リンゴ追分』の「エエエ~」と節を回す部分は圧巻でした。

大山さんからは9月にヴェトナムのハノイで、新作オペラ『アニオー姫』の世界初演に立ち会った時の話も飛び出しました。日本とヴェトナムの外交関係樹立50周年を記念して、大山さんが台本執筆と演出を手がけた作品です。しばしヴェトナムと日本の繋がりに思いを馳せ、滝廉太郎の『秋の月』へ。

「高校時代の先生にすすめられて16歳で声楽の道に入りました。『秋の月』は私が人前で初めて歌った曲です」と、オペラ歌手を志した当時を大山さんが回想します。

そして5曲目はワーグナーのオペラ『タンホイザー』から『夕星(ゆうづつ)の歌』。「『タンホイザー』は清い世界と乱れた世界のせめぎ合いを描いていて、バリトンは主人公タンホイザーの親友の騎士・ヴォルフラムを演じます。オペラではかっこいい主人公はテノールで、バリトンはだいたい“おっさん”役なんです」と大山さんが茶目っ気たっぷりに解説します。大山さんは一瞬にしてヴォルフラムになり、歌い込んできたことがうかがえました。

次は、イタリア映画『ニュー・シネマ・パラダイス』から『Se(If)』。「もし」からはじまる、愛をテーマにした歌です。切ないメロディに乗せたシンプルな歌詞が胸を打ちます。

7曲目の『愛せぬならば』(劇場版『美女と野獣』)ではメガネを外し、ウェーブのかかったロングヘアと相まって、娘ベルへの愛を歌う野獣そのものです。大山さんは19歳から役者としての顔も持ち、ミュージカル俳優としても活躍しています。劇団四季の『オンディーヌ』劇中劇「マトーとサランボー」で呼ばれたのをきっかけに、演出の浅利慶太さんに見出されミュージカル『オペラ座の怪人』で10人目の怪人役に抜擢されました。

最後は、その『オペラ座の怪人』から『Music of the Night』。怪人がヒロインを歌声で魅了する場面で歌われる曲は大山さんの歌唱が冴えに冴え、圧倒されます。会場全体が『オペラ座の怪人』一色に染まり、大きな拍手が沸き起こりました。

アンコールは、武満徹が作詞作曲した『小さな空』です。美しく親しみやすいメロディと懐かしさがこみ上げる歌詞を、大山さんが客席を巡りながら丁寧に歌います。

再度拍手が送られると、大山さんと折田さんが「展示を見に行きましょう」と手振りで誘います。大山さんの歌声の余韻に浸りながら、お客様は展示室へと向かっていました。

初めてオペラを聴いたという高校生のお客様は、「初めてでこんなに近くで聴けてよかったです。知らない曲も多かったけど、楽しめました」と、笑顔で感想を教えてくれました。

【プログラム】
What a Wonderful World(この素晴らしき世界)
蘇州夜曲
美空ひばりメドレー
瀧廉太郎:秋の月
ワーグナー:夕星の歌(オペラ『タンホイザー』より)
Se (If) (映画『ニュー・シネマ・パラダイス』より)
愛せぬならば(劇場版『美女と野獣』より)
Music of the Night(ミュージカル『オペラ座の怪人』より)
【アンコール】
武満徹:小さな空