【レポート】アナリーゼ・ワークショップVol.72~飯森範親(群響常任指揮者)〜
- 開催日
- 時間
- 19:00~
- 会場
- サントミューゼ 大スタジオ
7月28日にサントミューゼで行われた「群馬交響楽団 上田定期演奏会 -2024夏-」。それに先駆けて、指揮を務める飯森範親さんによるアナリーゼワークショップが開催されました。
今回は群馬交響楽団にとって第600回目の定期演奏会。サントミューゼにとっても開館10周年、かつ群馬交響楽団の10回目の定期演奏会という節目です。
600回という数字にインスピレーションを得て飯森さんがプログラムに選んだのが、モーツァルト作曲「6つのドイツ舞曲 K.600」。「K.」はモーツァルトの作品につけられた年代順の通し番号で、本作はモーツァルトが亡くなった年に書かれた作品です。
6曲で構成され、すべて明るい調性で書かれています。ト長調の第5番のタイトルは「カナリア」。ピッコロの高音でカナリアの鳴き声を表現する部分があるそう。
「当時は演奏する人たちがあって初めて曲が成り立った時代なので、メンバーを見て曲を書いた部分があるんですね。きっと、ピッコロがうまい奏者がいたのだろうと思います」
続いてコルンゴルト作曲「ヴァイオリン協奏曲 ニ⾧調 作品35」を解説しました。モーツァルトと同じ「ヴォルフガンク」をミドルネームとして名づけられたコルンゴルトは、その名に負けず幼い頃から音楽の才能を発揮。9歳で宗教曲のカンタータを作曲し、「同じチェコ出身のマーラーは、天才だと大騒ぎしたそうです」。
30代でオペラ作曲家として頂点を迎えた後、オペラ「こうもり」のミュージカル編曲を手掛けてブロードウェイで成功。ウィーンとハリウッドを往復しながら映画音楽でも大活躍し、アカデミー作曲賞を二度授賞します。しかしナチス台頭により、ユダヤ系だった彼はアメリカへ亡命することに。
戦後、クラシックに戻りたいとウィーンに帰ったものの当地では映画音楽に対する評価が低く、「魂を売った男」と揶揄されたことも。しかし亡命仲間のヴァイオリニストに「あなたのメロディーと和音は美しいのだから」と頼み込まれて作曲したのが、このヴァイオリン協奏曲です。
冒頭部分を弾いてくださいました。美しい風景が目の前に広がり、壮大な物語が始まるかのような高揚感を覚えます。
「どこに連れていかれるんだろうと思うような、独特のハーモニー。映画音楽で培われた、場面のイメージをかき立てる和音がたくさん使われています」
最後にR.シュトラウス作曲「家庭交響曲 作品53, TrV 209」を解説しました。シュトラウス自身の結婚生活と家庭がテーマの作品で、人や物、場所などのキャラクターを音符に表す手法「ライトモティーフ」が多く使われているそう。
例えばシュトラウス自身のテーマは、ロマンティストな部分から不機嫌さが現れた感情的な部分、さらに「5歳の息子フランツがわめき出した」場面では声を荒げるような激しい部分も登場します。さらに気性が激しい妻のパウリーヌがフランツを叱り、それをシュトラウスがなだめるといったように、音で場面や心情を表現する様子を解説してくれました。
「シュトラウスのテーマはへ長調、パウリーヌのテーマはロ長調と、とても遠い関係の調。仲が悪い前提ですね(笑)」
夜を告げる鐘の音を合図にフランツが眠りにつくと、夜は夫妻のテーマが重なり、愛を深めます。朝が訪れると鳥の声が響き、夫妻は今後の子どもの教育について議論。徐々に激しくなり、夫妻の争いを止めようとするフランツのトランペットの音色が響いてハッピーエンドを迎えます。
「私と群馬交響楽団や高崎市、上田の皆さんと良いファミリーになれたらという思いで、この曲を取り上げました」と飯森さん。当日の実際の演奏に期待が高まるアナリーゼでした。