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【レポート】伊藤文乃・高橋多佳子 アナリーゼ(楽曲解析)ワークショップ Vol.51

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アナリーゼ(楽曲解析)ワークショップ Vol.51

お話:伊藤文乃さん/高橋多佳子さん

6月10日(木) 19:00~ at サントミューゼ小ホール

 

7月2日にサントミューゼでヴァイオリン・リサイタルを行う伊藤文乃さんと、ピアノで共演する高橋多佳子さん。お二人がリサイタルで演奏する楽曲の魅力を分かりやすく解説するアナリーゼが、公演に先がけて行われました。

 

 

 

 

お話の中心は、ブラームスのヴァイオリン・ソナタについて。7月2日のリサイタルでは、第1番と第3番を演奏します。ブラームスという作曲家を語る上で重要な存在であるシューマンとその妻クララにも触れながら、楽曲の魅力を紐解いていきました。

 

昔から、ブラームスの音楽が大好きだという伊藤さん。

「弾いてみたいと思わせる魔力のようなものがあるんですよね。心の奥底の感情表現がうまくて、音楽によって心の奥深くにぐっと入ってくる。でも、それを狙って曲を書いているようには思えなくて。まじめで完璧主義な性格の影響もあったのかもしれません」(伊藤さん)

 

ここでブラームス、シューマン、クララの写真を紹介。二十歳の時のブラームスは意外なほど美男子(!)。「この姿で、シューマンの家を訪れるようになったわけです。イケメンですね」との伊藤さんの言葉に、客席に笑いが起こりました。

 

 

 

シューマンはブラームスの音楽と演奏を高く評価し、彼の名前を広めるために尽力しました。ブラームスはそんな彼を深く尊敬していた一方、恩人の妻にあたる14歳年上のクララとも心を通わせ、生涯交流を続けます。

 

「遺されている手紙を読むと、ブラームスはクララのことが相当好きだったようです。2人は、精神的に深いところで結ばれていたのでしょうか。ブラームスとシューマンが交流したのはわずか1年半ほどなので、音楽的には、作曲家だったクララから受けた影響の方がブラームスにとって大きかったかもしれません」(伊藤さん)

 

ヴァイオリン・ソナタ第1番「雨の歌」の第1楽章はソナタ形式。楽曲構成をホワイトボードで説明し、冒頭を実際にヴァイオリンとピアノで演奏します。美しく繊細なメロディーに、客席から拍手が起こりました。

 

「私、最初のテーマが好きすぎるほど好きなんです(笑)」(伊藤さん)

「ピアノの細かい音が水を連想させますね。『雨の歌』だからでしょうか」(高橋さん)

 

伊藤さんが意識してリズムを保っている部分や、高橋さんがアクセントをつけすぎないよう気をつけているところなども演奏しながら解説。

 

 

 

ソナタ形式の構成に沿って楽曲を紹介していきます。続いては展開部。最初のテーマは、ヴァイオリンの弦を直接指で弾くピチカート奏法で演奏します。比較のために弓を使った演奏も披露し、どちらも魅力的ですが、「やっぱりここはピチカートがいい。ブラームスはすごいです」と伊藤さん。

 

第2楽章は3部形式。この曲には、クララとのエピソードが伝えられています。

「8番目の子フェリックスが病床にあってつらい思いをしていたクララに、ブラームスが手紙を送ったんです。そこに、第2楽章冒頭のメロディーが添えられていました。それを見たクララは『天国へ持って行きたい』と言ったそうです」(伊藤さん)

 

しっとりとした美しい旋律。その後、亡くなってしまったフェリックスを偲んだとされる葬送行進曲も悲しみを誘います。そこから、まるで天国へ行けたことを想像するかのような穏やかな曲調へ変化していき、最後は祈るような音で終わる。「クララへの想いが詰まった曲だと思います」と伊藤さんが言うと、「ブラームスの気持ちを思うと、演奏していても泣いてしまいそうですよね」と高橋さん。

 

「シューマンもブラームスも、音楽の中に『クララが大好き』というメッセージを暗号のように散りばめています。クララという名前の綴りをドイツ音階に変換して使ったり、クララが自身の曲に使っていた音形を取り入れたり。『雨の歌』の第1テーマは、ブラームスとクララの会話のようなんです」(高橋さん)

 

続いてヴァイオリン・ソナタ第3番へ。ブラームスの友人が亡くなり、喪失感に包まれていた時期に書かれた作品で、重厚な響きが特徴です。

 

ソナタ形式の第1楽章は少し暗い雰囲気で始まり、三部形式の第2楽章は叙情的で穏やか。かと思えば少しおどけたような部分もあり、「苦悩を隠しているのかもしれません」と伊藤さん。

 

そして第4楽章。情熱的で激しさを感じさせる音の世界は、「雨の歌」にはなかったものです。ヴァイオリンも重音(複数の音を同時に発生させる演奏)で激しく弾くところが多く、難しいと言います。「音の厚みを出すことで、重厚さを描きたかったのかも」と伊藤さん。

 

「激しいフレーズですが、もの悲しい。でもどこか叙情的な部分があって、それが弾きたいと思わせるポイントだと思います」(伊藤さん)

 

 

 

今回のリサイタルとアナリーゼにあたり、クララという女性について多くのことを知ったという伊藤さん。ブラームスの曲には、クララへの想いが詰まっていることを再確認したそうです。そんな背景に思いを馳せれば、リサイタルをより深く楽しめることでしょう。