サントミューゼ(上田市交流文化芸術センター・上田市立美術館) おかげさまでサントミューゼは10周年

JA

【レポート】群馬交響楽団 上田定期演奏会ー2020秋ー(第562回群響定期演奏会プログラム)

みる・きく
会場
サントミューゼ

2020.10.18(日)

 

1945年、戦後の荒廃の中で「文化を通した復興」を目指し創立された群馬交響楽団。

地方オーケストラの草分け的存在として人気を誇る同楽団は、サントミューゼ開館当時から何度も公演に訪れ、上田にも素晴らしい音楽を届けてくれています。

 

今回指揮を務めるのは2008年度まで群響音楽監督を務め、現在は名誉指揮者である高関 健さん。

開演前にはプレトークでステージに登場し、今日演奏するスメタナの連作交響詩《わが祖国》の背景や聴きどころを話してくれました。

 

 

新型コロナウイルス感染症拡大を防ぐため、サントミューゼに限らず多くの演奏会が中止となってしまった今年。今回は座席数を50%に抑えての開催です。

 

開演の瞬間の大きな大きな拍手には、久しぶりのオーケストラ生演奏を待ち望んでいたお客様の喜びが現れているようでした。

 

チェコ近代音楽の父と呼ばれるべドルジフ・スメタナが晩年に書き上げた《わが祖国》は6曲から構成されます。日本で有名なのは「第2曲 ヴルタヴァ(モルダウ)」。ぱっとメロディーが浮かぶ方も多いのではないでしょうか。

 

第1曲は「ヴィシェフラド」。タイトルはプラハの岩上に立つ城の名前で、プラハ市民の心のよりどころとなる存在です。

 

美しいハープの音色で幕を開けた曲は、ヴィシェフラドの栄光や戦乱、そして荒廃し見捨てられるまでの物語を表現しています。ホルンの温もり、繊細さと勢いを併せ持つヴァイオリンの響き、そしてすべての楽器が出会った重厚なハーモニーと、1曲目からオーケストラの迫力を十分に堪能させてくれました。

 

そして第2曲。タイトル「ヴルタヴァ(モルダウ)」は、プラハ市の象徴とも言える川の名前です。スメタナが生きた時代に「チェコ」という国はまだなく、オーストリア帝国の一地域でした。当時の公用語はチェコ語でなくドイツ語だったため、楽譜を刊行する際に現地の人々の呼び名「ヴルタヴァ」からドイツ語の「モルダウ」に変更したのだといいます。

 

高関さんはプレトークでこの曲について「最初から最後まで川の流れが描かれている」と話していました。雄大な川がボヘミアの森を通って激しい急流になり、再び豊かな流れに戻って教会の下を通っていく。

そんな様子を想像しながら聴く雄大なハーモニーは、いっそう深みを増して響くようでした。中盤には、村のにぎやかな結婚式のシーンや真夜中の妖精を描いた幻想的な箇所も。故郷ボヘミアの生活や人々の豊かな感情への、スメタナの思いが伝わってきます。

 

第3曲のタイトルは、プラハの谷の名前「シャールカ」。この曲が描くのは、古代この地にいたと言われる少女シャールカの物語です。

 

シャールカは恋人に裏切られて全男性に復讐を誓い、暴れ回った勇ましい少女。冒頭からドラマチックなメロディーが展開し、クラリネットが奏でる女性のテーマとチェロによる男性のテーマの対比も聴きどころ。酒宴で酔いつぶれた男たちのいびきを表すファゴットのユーモラスな音や戦いの合図のホルンなどの音色も楽しむことができました。

 

 

ここで休憩を挟み、第二部がスタート。

 

第4曲「ボヘミアの森と草原から」は、タイトル通り大きな森に風が吹き、草木を揺らす情景を描いた曲です。鳥のさえずりや風を思わせる音色、農作業に勤しむ人々を描いた穏やかなハーモニー。

プレトークで高関さんが話してくれた通りボヘミア地方の美しい風景が目の前に広がるようで、ゆったりと楽しむことができました。

 

第5曲は一転、不穏さを漂わせながらゆっくり曲が始まります。タイトル「ターボル」は南ボヘミアの街の名前。宗教改革者ヤン・フスとその教徒が拠点とした場所で、この曲は彼らフス教徒の聖歌を基本主題とする一種の変奏曲なのだそう。

国王に反旗を翻したフス教徒の戦いを思わせる躍動的なパート、研ぎ澄まされた緊張感を経て、終盤では彼らの聖歌が力強いファンファーレとして鳴り響きました。

 

続く第6曲は、なんと第5曲の最後と同じファンファーレから始まります。スメタナはこの2曲を続けて演奏されることを希望し、楽譜にもそのように書き残しているそう。

タイトルの「ブラニーク」は、フス教徒が最後に立てこもったとされる山の名前です。

 

低音が美しい静かなパート、金管楽器の音色が澄み渡る優雅なパート、勇壮な響きと、次々にシーンが移り変わります。曲の最後にはフス教徒の聖歌が再び現れ、さらに第1曲の主題など《わが祖国》の様々な要素が登場。華麗で壮大なフィナーレへとつながっていきました。

 

 

終了後の拍手は通常の満席時と同じぐらい、むしろそれ以上に大きく、いつまでも鳴り止みませんでした。

誰もが不安な時を過ごす今、音楽に感動し、力をもらえた喜び。観客の皆さんの純粋な思いが伝わってくるようでした。

 

 

【プログラム】

スメタナ:連作交響詩《わが祖国》

第1曲 ヴィシェフラド(高い城)

第2曲 ヴルタヴァ(モルダウ)

第3曲 シャールカ

第4曲 ボヘミアの森と草原から

第5曲 ターボル

第6曲 ブラニーク