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【レポート】伊藤文乃 ヴァイオリン・リサイタル ~美しきロマン派音楽の世界~

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7月2日(金) 19:00~ at サントミューゼ小ホール

 

群馬交響楽団のコンサートマスターとして活躍するヴァイオリニスト、伊藤文乃さんのリサイタルが開催されました。共演はピアニストの高橋多佳子さん。伊藤さんは赤、高橋さんは水色と、鮮やかなコントラストの衣装で登場です。

 

最初に演奏したのはシューマン作曲「3つのロマンス」。妻クララへのクリスマスプレゼントとして作られた、愛情が詰まった3つの曲です。

第1曲。切なく情緒あふれるメロディー、伸びやかなヴァイオリンの音色が、満席近い会場を魅了します。第2曲は、穏やかな調子から激しさを増していくストーリーが印象的。そして、美しさの中に憂いも感じさせる第3曲へ。

 

 

 

 

リサイタル全体を通して光を放ったのが、ヴァイオリンとピアノの見事な調和です。二つの楽器でありながら、まるで一人の人間が喜んだり悲しんだりしているような、そんな印象を受けました。

 

「今日のプログラムは、シューマン、シューマンの妻クララ、そしてブラームスの曲を中心に、ドイツロマン派の音楽をたっぷり聴いていただきたいと思います」とあいさつした伊藤さん。

 

「先ほど演奏した『3つのロマンス』は、随所に美しい部分がありますね。まるで歌曲のよう。文乃さんのヴァイオリンが歌のようで、素敵だなと思いました」(高橋さん)

「これはもともと、オーボエとピアノのために書かれた曲なんです。叙情的で、歌が詰まっていますね」(伊藤さん)

 

6月から上田市内の小学校や公民館で演奏会を10数回行ってきたお二人。「いつもお客様や子どもたちが熱心に聴いてくれて、感激しました」と振り返ります。「何日か滞在したのですが、その間は本当に“上田ライフ”を満喫しました」と伊藤さんが笑うと、「上田愛が止まらないですよね」と高橋さん。

 

続いてはブラームスのヴァイオリン・ソナタ第1番「雨の歌」。彼がこの曲より前に書いた歌曲「雨の歌」冒頭のテーマが引用されています。

 

クララがこの歌曲をとても気に入っていたことから、彼女の誕生日にブラームスが曲をプレゼントしたというエピソードも。「クララはたくさんの曲をもらっていますね!」と高橋さん。ブラームスが14歳年上のクララのことを考えに考えて作った曲であり、彼の繊細な部分が表現されていると話してくれました。

 

伊藤さんが愛してやまないという、第1楽章の最初のテーマ。きらきら輝く水音を思わせるピアノと、爽やかでありながら切ないヴァイオリンの音が重なり、響き合います。第2楽章は葬送行進曲が登場するなど暗い美しさがあり、苦悩や妖しさを抱えています。そして歌曲のメロディーを使った第3楽章はドラマティックに展開し、音の豊かな表情を見せてくれました。

 

 

 

演奏後、充実した表情で顔を見合わせたお二人は、笑顔でステージをあとにします。鳴りやまない拍手が会場を包みました。

 

休憩を挟んで後半は、クララ・シューマンの「3つのロマンス」第1番から。クララはシューマンの妻であるとともに当時の人気ピアニストであり、さらに作曲家としても優れた作品を多く残しています。しかし当時は、女性が作曲家として活躍することがなかなか世間に受け入れられなかった時代。彼女の曲は、残念ながら現在もあまり知られていません。

 

「この曲を聴くと、クララがどれほど才能のあった人か分かります。時代を先取りしている音楽だと感じるんですよね。どこかマーラーの音楽を思わせるような」(高橋さん)

 

ロマンティックで、色香を感じさせるメロディー。甘やかな部分もあり、クララが生み出した多面的な美しさに魅了されます。「一回聴いただけではなかなかメロディーを追えない」とお二人が話していた通り、入り組んだ構成も魅惑的でした。

 

続いて、ヴァイオリン曲として有名なマスネの「タイスの瞑想曲」。歌劇の間奏曲として作られたもので、享楽の生活を送る娼婦タイスを、僧侶が神の教えにより改心させようとしながらも、彼女の美しさに惹かれる葛藤を表しています(プログラムノートより)。ピアノのアルペジオの上で、踊るように歌うヴァイオリン。高音も美しく、伸びやかに響き渡ります。

 

ラストは、ブラームスのヴァイオリン・ソナタ第3番です。演奏前に曲の解説をした伊藤さんは、

「ブラームス55歳。晩年と言っていい時期に作った曲です。暗く重厚で、とてもブラームスらしい。一方で、激しさもありますね。この頃彼は親しい友人を亡くし、孤独感にさいなまれていました。そんな心情も影響しているのかと思います」

 

美しくも寂しさが漂う第1楽章。静かな中に激情を感じます。第2楽章に漂うしみじみとした哀愁と滋味深いメロディーは、プログラムノートにあるように「ブラームス晩年の枯淡の境地を色濃く反映」していて、歳を重ねたゆえの厚みを感じさせます。激しさと凛々しさが入り混じる第3楽章は、暗く美しく。妖しさをはらんだ不思議な和音も印象的でした。

 

 

 

 

そして、お二人の呼吸を合わせて始まった第4楽章。情熱的でドラマティックで、運命が動き出すことを予感させます。一方で、どこか物悲しく叙情的なのが、ブラームスらしさなのでしょう。重音(複数の音を同時に発生させる演奏)を使った起伏あるメロディーが丁寧に紡がれ、美しいフィナーレへと誘います。

 

演奏後、大きな大きな拍手がホールを包みました。一礼したのち、互いに小さな拍手を贈り合ったお二人。やまない拍手に応え、アンコールで披露した2曲も素晴らしいコンビネーションでした。

 

 

 

 

訪れたお客様からは、「お二人の演奏が大好きなので、今日は大満足でした。シューマンとクララとブラームスの話をもっと聞いてみたくなりました」「クララの曲がとても素敵でしたね。マーラーの響きも感じる、という高橋さんのコメントに納得しました」という感想を聞くことができました。

 

シューマンとクララ、そしてブラームス。3人が織りなすそれぞれの世界と、互いに影響し合った部分を感じさせる充実のプログラムを美しい演奏で堪能することができました。

 

 

 

【プログラム】

R.シューマン:3つのロマンス Op.94

ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ 第1番 ト長調 Op.78「雨の歌」

C.シューマン:3つのロマンス Op.22より 第1番

マスネ:タイスの瞑想曲

ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ 第3番 ニ短調 Op.108

 

〈アンコール〉

クライスラー:愛の悲しみ

モンティ:チャルダッシュ