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【レポート】高校生と創る実験的演劇工房7th「Be with you」

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サントミューゼ

2020.12.5(土)~2020.12.13(日)

 

上田市内の高校の演劇班の生徒たちが、学校の垣根を越えて出会い、プロの演出家による指導のもとで一つの舞台を作り上げる「実験的演劇工房」。コロナ禍という演劇にとって困難な状況の中ではありましたが、2014年度のスタートから7回目となる今回は、総勢19名の女子生徒が参加しました。

 

脚本・演出・指導は、1年目と2年目の「実験的演劇工房」で講師を務めた劇作家・演出家の岩崎正裕(いわさき まさひろ)さん。アシスタントとして演出家の橋本匡市(はしもと ただし)さんにもご参加いただきました。

 

岩崎さんが今回掲げたテーマは「ウィズコロナ演劇」。全員がマスクをつけたまま、演技者最大の武器である表情をあえて封じて、2020年の今を最大限投影した演劇に挑みます。

 

 

⬛︎演劇でコロナを笑いに変えていこう

 

12月5日、稽古初日。上田東、上田染谷丘、上田、丸子修学館の5校の演劇班から集結した高校生たちと岩崎さん、橋本さんが初めて顔を合わせました。

 

稽古はわずか7日間。通常の学校公演とは比べものにならないほど短いのはもちろん、「実験的演劇工房」史上でも最短です。一体どんな劇を作るのか・・・。不安と期待が入り混じった表情の高校生たちを見渡した岩崎さんは、こう話しました。

 

「1年目の『実験的演劇工房』は台本がなく、自分たちで2週間かけて作っていきました。今回もそうなると思います。つまり、みなさんの中にあるものが台本になるんです」

今回やりたいことは僕の頭の中になんとなくありますが、みなさんのことを知る前に決めてしまっても仕方がない。今日はまず、いろいろな“実験”をしていこうと思います」

 

そして始まったのは、体や言葉を使ったさまざまなワークショップです。まずは輪になって座り、一人ずつ「自分の名前の由来」を話していく時間。自分の言葉でいきいきと話す姿からは一人ひとりの個性のみならず、彼女たちの家族の空気感まで伝わってきました。

 

さらに一人ずつ順に手を叩き、途中で誰かが足をドンと鳴らしたら逆回しになるゲームや、隣の人の動きを伝言ゲームのように伝えながら少しずつ自分流のアレンジを加えていくゲーム、「休校中にハマったゲーム」を尋ね合って仲間を見つけていくゲームなどが続き、少しずつ緊張がほぐれていきます。

 

休憩中、岩崎さんが高校生たちに話しかけました。

 

「春の緊急事態宣言で学校が休校になって、変わったことはあった?」

 

人に会えなくなった。気軽に遊びに行けなくなった。手洗いや消毒の回数が増えた。マスクを常につけるから肌が荒れた・・・。

 

高校生たちの率直な声を聞いた岩崎さんは頷き、こう語りかけました。

 

「今回は、全員マスク着用で上演しようと思っています。テーマは“ウィズコロナ演劇”。そろそろ、コロナを“笑い”に変えていかなければいけないんじゃないかなと思っているんです」

 

マスクをつけて演じる、前代未聞の演劇。一体どんなものになるのでしょうか。

 

 

⬛︎「即興」で今の気持ちを表現する

 

休憩後は、他校生同士でペアになって「お互いを漫才風に他己紹介」するコーナー。コンビ名も決め、最後に一発ギャグを披露する(!)のがルールです。大笑いしながら楽しそうに練習する高校生たち。発表タイムでは登場シーンから笑いが起き、個性豊かなセリフや構成でどのコンビも場を沸かせました。

 

さらに、全員で歩き回りながら「今朝ここに来るまでに見たもの」を一人ずつ挙げていくことから始まる不思議なゲーム。コロナ禍の今、身近な物にも人にも「触れること」が敬遠されるようになってしまいましたが、そんな世相を反映して、初めに挙げた言葉を「〇〇に触れたい」と言い換えていきます。

 

「卵かけごはんに触れたい」

「コインロッカーに触れたい」

「天井に触れたい」

「おでんに触れたい」etc.

 

日常のありふれた存在が何だか遠く、愛おしく感じられるようでした。

 

続いては「コロナ」という言葉を使った「あいうえお作文」。一節ずつ「コ」「ロ」「ナ」の文字を全身で表現しながら

 

「コ、今世紀最大の」

「ロ、ロマンティックな」

「ナ、なんかやばいやつ」etc.

 

といった調子で叫んでいくと、不思議な文章ができあがります。

最後に全員で声を合わせて、こう叫びました。

 

「なくなれ!コロナ!」

 

それだけで、一つのクライマックスシーンのように胸を打ちます。

 

「感動しますね。これだけ多くの人が一斉に『コロナなくなれ!』と叫ぶシーンは、日本中見回しても珍しいかもしれません」(岩崎さん)

 

 

グループに分かれて即興で一人一音ずつ発し、つないで文章を作る「一音詩」にもトライ。一人が言葉を発しながら目指すフレーズを身振りで次の人に伝え、次の音を引き出すのがポイントです。例えば「さ」と言いながらサルのポーズをすると次の人は「る」と続ける、というように。

ところがうまく伝わらず、結果的におかしな文章が生まれることも。生まれた文章を最後にグループ全員で叫ぶと、どっと笑いが起こりました。これぞ即興の醍醐味。

 

即興劇にも挑戦しました。テーマは「コロナ禍のありがた迷惑な人」。3人一組になり、自分たちの日常経験から短いストーリーを作って発表します。やたらとマスクをくれる人、アルコール消毒をしたがる人、自粛警察・・・。アイデア出しはスムーズながら起承転結の「結」、つまりオチ作りには苦労するグループも。岩崎さんと橋本さんがグループを回り、「こんなオチはどう?」などとアドバイスします。

 

「ここまで徹底的にコロナを取り上げている芝居は、日本中どこにもないよね」(岩崎さん)

 

できた即興劇をグループごとに発表。リアルながらうまくデフォルメしたりアドリブで盛り上げたり、見ていて笑いが起きるものばかり。しっかりオチをつけるのも見事です。

 

ユニークだったのが、別グループが作った劇をアレンジする「リメイク(二次創作)」。キャラクター設定がより強烈になったり新しいエピソードが加わったり、別視点ならではのおもしろさが生まれていました。

 

初日だけで、高校生たちからは胸を打つ言葉やおもしろい即興劇がたくさん生まれました。稽古を振り返った岩崎さんは、

 

「上田の高校生たちは、『全員で合わせよう』という※グルーヴ感が素晴らしい。今日ですでに、いいシーンができていますね」

※グルーヴ感:主に音楽について用いられるノリの良さ、一体感、高揚感などを指す表現

 

と話してくれました。

 

1日目を終えた高校生に話を聞きました。

 

「他校の皆さんと演劇を作るのは初めてですが、自分の学校とは違う雰囲気の演劇ができそうで楽しみです」(上田高等学校2年生)

 

「今回は台本がなく、みんなで一から作っていくのが新鮮でワクワクしています。『実験的演劇工房』は作る過程が重要なので、しっかり楽しみたい」(丸子修学館高等学校3年生)

 

 

⬛︎相手に反応し、つないで芝居を作る

 

稽古と並行して3日間ですべての台本をまとめあげた岩崎さん。全16本のコンテンツは、稽古のワークショップから生まれたパフォーマンスや即興劇を中心にまとめたドキュメンタリー短編集のような作品です。流れは決まっているものの、その時々に即興で演じる部分もあり、まさに19人の高校生の「今」が投影された作品です。

 

「稽古2日目の朝にはなんとなく構成ができて、3日目には『これはいける』という感覚がありました。上田の高校生を見ていると、『実験的演劇工房』を何年も続けてきた成果を感じます。うまくいった要因として、それが大きかったですね」(岩崎さん)

 

本番が3日後に迫ったこの日の稽古は、照明や音楽も本番さながら。場面転換に重点を置いて練習を進めました。

 

自分たちが作ったものがベースだからか、短い期間でも構成やセリフをしっかり掴んで進めていく高校生たち。とはいえ、まだまだ細部の作り込みが必要です。特に今回は小道具を使わないため、動きと言葉でストーリーや感情を分かりやすく、おもしろく伝えなくてはなりません。

 

「相手がこんな動きをしたら、どう感じる?その気持ちは反応に出していいよ」(橋本さん)

 

この日は橋本さんの指導のもとで細かい動きやセリフを練ったり、役柄の年代や職業などの細かい設定を決めて「この人ならこんな時、何ていうだろう?」と問いかけたりして、肉付けをしていきます。

 

「即興だから、何かが起こっている時は反応するようにして。相手の芝居を受け取って反応すれば、芝居は成立するから」

「もし友達が咳をして『この子コロナかも?』と思ったら、距離感が少し変わるよね。自分ならどう反応するか? 離れるのか抱きしめるか、抱きしめたいけどできなくて歯痒いのか。この距離感で、いろんなことを表現できるよね」(橋本さん)

 

高校生たちに想像を促し、表現に落とし込んでいきます。さらに、マスク越しでも声が聞こえやすいよう響かせる発声、歩くときの目線や歩く方向などにも細かく演出が入りました。

 

「演劇は立体表現です。音や照明の光、人の体。お客さんはそれらをトータルで受け取って『すごいな』『こんなに豊かなものができるんだな』と感じるんです」(橋本さん)

 

演じる自分たちが考えることで台本にない演出やアドリブがどんどん加わって表現に厚みが増し、リアリティとおもしろさが増していく。今しかできない経験です。

 

「アドリブが多いから、舞台上で突然セリフや動きが変わるんです。ドキドキしますが、本番にお客さんが入るとまた空気が変わりそうなので、それも楽しみです」(上田東高等学校3年生)

 

稽古場の空気は和やかそのもの。いつも誰かの笑い声が響き、意外にも公演直前の緊張感や焦りはそれほど感じられません。即興ベースであることや岩崎さんや橋本さんの指導方針もその理由ですが、3回目の参加となる3年生の一人は、別の理由をこんなふうに話してくれました。

 

「今までは先輩たちが楽しそうな姿を見せてくれたから、私たちも『楽しくやっていいんだ』と思えました。だから3年生になった今年は、私が楽しむ姿を後輩に見せる番だ!と。ピリッと引き締める役割をしてくれる人は他にもいるので、私はのびのびやろうと思っているんです」(上田染谷丘高等学校3年生)

 

こうした空気感があるからこそ他校生同士がすぐに打ち解け、さらに「来年もやりたい!」と思う気持ちにつながっているのでしょう。

 

 

⬛︎16の世界で、今の自分たちを表現する

 

いよいよ迎えた公演の日。タイトルは「Be with you」です。例年は2日に分けて公演を行っていましたが、今回は感染対策のため1日のみとし、午前と午後の2回の公演を席数を大幅に減らして実施することとなりました。

 

舞台と客席の間には4枚の透明なパネル。コロナ時代を象徴するようなこのパネルが、小道具としてさまざまなシーンを作ります。

 

「きよしこの夜」が流れる中、稽古中と同じジャージ姿にマスクをつけた高校生19人が静かに登場し、舞台上をぐるぐると歩き回り始めました。

 

「ツナマヨおにぎりに触れたい」

「コインロッカーに触れたい」

「スマホに触れたい」etc.

 

稽古初日のワークショップで何気なく挙げた、彼らの日常を取り巻くものたち。それらが今、意味を持って迫ってきます。

 

全員がぴたりと立ち止まり、一斉に言います。

 

「みんな、触れたい!」

 

会場にいる誰もが共感する、今の世界の空気。それを端的に表現し、舞台が幕を開けました。

 

 

そして一転、コミカルな即興劇が始まります。やたらと手作りマスクを渡してくるおばさん、過剰な自粛警察。シニカルな内容ながら稽古を重ねて表現がおもしろくなっていて、「こういう人いる!」と客席からも笑い声が。稽古とは違うアドリブもどんどん飛び出します。さらに「コロナ」をテーマにした「あいうえお作文」へ。巧みな切り替えで、飽きさせない構成です。

 

ユニークなのが、演じている人以外の役者が同じ舞台の袖で笑ったり驚いたり、普段通りにリアクションすること。それが舞台全体にリラックスした一体感を生んでいました。

 

「高校生たちには、『演じている人以外の役者も見ているし、全体の反応も含めて今回の作品なんだよ』と伝えました」(岩崎さん)

 

ここからは上田東高等学校3年生の一人が司会役となって進行。始まったのは「一音詩バトル」です。4チームに分かれた高校生が代わるがわる登場して即興で一音詩を披露。客席のお客様1人を指名して「どちらが良かったか」を判定してもらいます。

 

演技者もぶっつけ本番。お互いの腹を探り合う素顔の反応が見どころです。きれいな文章ができそう・・・と思いきや、あえて違う言葉をぶつけて流れを変えるメンバーも。マスクをつけているものの、目もとの表情や動きから、迷いや盛り上がりが伝わってきます。できあがった文章は不思議でおもしろく、客席を沸かせました。

 

 

続いては「即興ドラえもん」。

「ドラえもんにあったらいいなと思う道具は?」というテーマのワークショップで高校生たちが作った即興劇です。登場するのはドラえもんにのび太、ジャイアンといったおなじみのメンバーですが、演技者の個性がにじみ出てちょっとクールなドラえもんだったり大人しめなジャイアンだったりと、微妙なおかしみがありました。アドリブにアドリブを重ねる応酬に、高校生たちの仲の良さが伝わってきます。ジャイアンの歌声を美声に変えるはずのカプセルになんと新型コロナウイルスが仕込まれていた、というブラックジョークの展開には驚かされました。

 

「長野県感染症対策」の朗読コーナーで現実に引き戻されたかと思えば、朗読と演技を組み合わせた劇「※おにたのぼうし」へ。やさしさと孤独感が胸にしみる、短い物語です。

※おにたのぼうし:あまんきみこ作の絵本。鬼に対する偏見に満ちた人間の世界で、人間の幸せのために尽くしながら、人間に傷つけられ消えていく心優しい鬼の子どもの物語

 

そして3人の高校生が分担して脚本を書いた「現代版ロミオ&ジュリエット」。バルコニーの上と下で呼びかけ合うおなじみのシーンはソーシャルディスタンスが十分にとれて、今の時代にぴったりです。

 

『花を捧ぐ〜ワーニャの一生』は、「ワーニャ」という人物の一生を花との関わりでたどる劇。コロナがあってもなくても続く普遍的な人の営みや関わりに、思いを馳せるものでした。こうした会話劇と、コロナをテーマにした即興劇を交互に織り交ぜる構成。高校生たちは、それぞれで違う輝きを見せてくれます。

 

観客にさまざまな感情を呼び起こしてくれた最後。19人が一斉に「アフターコロナ!」と叫びます。

 

「私は、友達と向かい合ってお弁当を食べている」

「私は、大きな劇場でミュージカルを見ている」

「私は、友達と一緒にカラオケに行っている」

「私は、友達と笑っている」etc.

 

これはすべて、彼女たちが稽古中のワークショップで挙げたリアルな言葉たち。彼女たちの思いがそのままセリフとなっているからこそ、胸を打ちました。一年前には想像もしなかったこと、普通の暮らしを変えてしまったこと。まだまだ出口が見えない今だから、そして、客席に座る私たちも同じ想いを共有しているから、尚のこと胸に迫ります

 

「バイバイ、消えるね」

 

先ほどの劇で鬼を演じた役者が言うと、全員がこう言って見送りました。

 

「さよなら、コロナ」

 

ラストシーン。全員が初めてマスクを外し、客席を振り向きます。言葉は発しませんが満ち足りた、そして、未来を変えたいと願う表情。強く心に残りました。

 

岩崎さんは「表情は、演技者最大の武器」だと言います。それを封じても演劇は成立するのか? この大きな問いに、彼女たちは身をもって「成立する」と答えてくれました。

 

カーテンコールは一人ずつ名前を呼び合い、マスクを取って言葉なく一礼。舞台上で初めて見せてくれた表情は、一様に晴れやかでした。

 

 

︎駆け抜けた9日間、2020年の今だから表現できたこと

 

公演後、岩崎さんと橋本さんは全員にこんなことを語りかけました。

 

「まだまだこの演劇を発展させたい、という欲求がみんなの中にある。それが素晴らしいと思いました。今日やったことが定番ではなく、明日またおもしろいことができる。その想いでやっていくと、もっと発展させることができます。僕にとっても、一生忘れられない公演になったと思います」(岩崎さん)

 

高校生たちも満面の笑顔で、この9日間を振り返ってくれました。

 

「今回はいろいろな劇があり、内容もコントからシリアスな話に急に変わったりするので気持ちの切り替えが難しかったです。即興の芝居はためらってはいけない、思いっ切りやらないとやりたいことが表現できないと分かりました。学んだことを自分の学校に持ち帰りたいです」(上田染谷丘高等学校2年生)

 

「毎日みんなと会うことが当たり前だったので、とても寂しい。これが私の最後の演劇です。今まで『実験的演劇工房』は通過点だったけど、今回は終着点だったんだなと。最後の演劇がこれで良かったと、すごく思います」(上田染谷丘高等学校3年生)

 

岩崎さんは上田での日々を振り返り、こう話しました。

 

「上田の高校生たちはすごく度胸がありました。ぶれることなく、お稽古でやったことを発展させていった。今回、僕は特に技術指導はしていません。日常の高校生に説得力があるので、特定の色で固めちゃダメだと思ったからです。だからこそ、それぞれの個性がよく見えました」

 

「彼女たちがこんなに思い切り演劇をやれるのは、2020年に入って初めてだったでしょう。きっと、溜まっているものがあったと思う。自分たちが思っていることを吐き出す、それだけはやってほしいと思って今回僕は上田に来ました。コロナに関してタブーを一切設けず、笑いに変える。高校生たちみんなが、それを自然に受け止めてくれたからできたことです」

 

「最後に高校生たちがマスクを取ってこちらを振り返る、あの場面は僕、稽古でいつも泣いてしまいましたね」(笑)

 

「僕もこんな作り方は初めてしたし、お客さんも『やっていいの?』と思ったと思います。だからこそ、『実験的演劇工房』ですよね。今年で7年目、その積み重ねが生きているなとすごく感じました。ここに来れば楽しく演劇ができるという空気が各校の後輩につながっているし、上田で演劇が文化として根付いている。その予感が今回、実感に変わりました」