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【レポート】生で聴く のだめカンタービレの音楽会 ピアノ版(ピアノ:菊池洋子)

みる・きく
会場
サントミューゼ

2020.12.18(金)

 

『のだめカンタービレ』の世界をピアノ演奏とわかりやすい音楽解説、原作の名シーンと共にお届けする「生で聴く『のだめカンタービレ』の音楽会」【ピアノ版】コンサートが、今年も開催されました。

演奏は実力・人気ともに日本を代表するピアニストである菊池洋子さん。菊池さんは、2021年1月16日にサントミューゼで開催する「生で聴く『のだめカンタービレ』の音楽会【オーケストラ版】」でも演奏します。

 

「生で聴く『のだめカンタービレ』の音楽会(以下「のだめ音楽会」。)シリーズでは、演奏中に背後のスクリーンに楽曲に関連する漫画のシーンや楽曲解説が映し出されます。「知識があることでクラシック音楽の入り口が開かれ、もっと面白さを体感できる」という、のだめ音楽会を企画した茂木大輔さん(オーケストラ版の指揮者)のアイデアです。

私たちの興味を惹き楽曲に対する理解を助けてくれるこの仕掛けの効果もあり、のだめ音楽会は、本格的なコンサートが初めての人でも楽しむことができます。この日は子どもたちの来場も多く、満席の人気ぶりでした。

 

 

冒頭、スポットライトが照らしたのは、鮮やかな赤いドレスをまとった菊池さん。演奏したのはドビュッシーの「月の光」です。静寂の中、神々しいほどに清らかな音色が溢れてきました。曲の力はもちろん、胸に染み入るような優しい音は菊池さんの個性なのでしょう。スクリーンには日本画家・古澤洋子さんによる月をモチーフにした絵が映され、静かな夜を歩いているような浮遊感を感じました。

 

演奏が終わると菊池さんは

「今日はさまざまな作曲家の作品を演奏します。中にはあまり演奏される機会がないけれど素敵なのでご紹介したい曲、クリスマスの雰囲気を取り入れた曲も選びました」

と挨拶しました。

 

2曲目は「キラキラ星変奏曲」。モーツァルトがパリを旅した際、現地で流行っていたシャンソンをテーマに作ったと言われています。

おなじみの弾むようなメロディーだけでなく、速く情熱的なパートや叙情的なハーモニーに、曲の奥深さを感じます。スクリーンには、マンガの主人公「のだめ」がこの曲を弾いているシーン。ちょうど音がリズミカルに跳ねるシーンで指のアップの場面が映し出され、高揚感が高まります。ラストは、演奏するのだめの表情と曲の多幸感がリンクするようでした。

 

続いてはツェルニー作曲「モーツァルトの歌劇『フィガロの結婚』の主題による華麗なる幻想曲」。華やかですが、楽譜が絶版になっているため演奏される機会が少ない曲です。

 

「私も各国の楽譜屋さんに問い合わせたのですが見つからず、ようやくボストンのお店で見つけてネットで手に入れました。この機会にぜひお聴きください」と菊池さん。

 

 

華やかな冒頭、めくるめく展開を見せる美しいハーモニー。鍵盤全体を使って奏でられるダイナミックな曲に心が弾みます。

 

ヨーロッパの教会でクリスマスシーズンによく演奏される「アヴェ・ヴェルム・コルプス」は、短いですが心を静かにしてくれる美しい曲。そして第一部のラストは、おなじみ「トルコ行進曲」。軽やかながら哀愁も感じさせるメロディーに、長い長い拍手が響きました。

 

第二部の冒頭は、ワーグナーの曲をリストがピアノ版に編曲した「イゾルデの愛の死」。

「ピアノを使って曲の魅力を表現するため、楽譜がオーケストラのように3段で書かれています」と菊池さん。情熱的に繰り返す和音から静かに閉じていくフィナーレは、切なさも感じさせました。

 

続いては、1月16日に行われるオーケストラ版のコンサートで演奏されるラフマニノフの「ピアノ協奏曲第2番」の解説。

 

「この2番は、ピアノもオーケストラの一員のようなんです。例えば、遠くから鐘の音が近づいてくるように感じるこのメロディー」

 

そう話し、実際に一部分を弾いてくれた菊池さん。寄せては返す音色、低音の存在感に魅了されます。精神を病んでいたラフマニノフらしい催眠療法の影響を感じさせる部分や、時計の針のようなパートの紹介も。オーケストラ版で聴くのがますます楽しみになりました。

 

シューマンの「トロイメライ」は、「のだめ」と恋人・千秋のやさしいシーンとともに。続くシューベルトの「即興曲第3番」では、シューベルトの楽曲と向き合おうと葛藤するのだめのシーンが映し出されます。一音一音を丁寧に奏でる菊池さんの演奏とあいまって、曲の優しさ、情景が伝わってきます。

 

 

最後を飾ったのは「『ウィーンの夜会』ヨハン・シュトラウスのワルツ主題による演奏会用パラフレーズ」。ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団のニューイヤーコンサートで毎年演奏される曲です。明るくダイナミックな旋律が新年を迎える高揚感を感じさせる、まさにラストにふさわしい一曲。演奏後、今日一番の大きな拍手がホール全体を包みました。

 

満面の笑みを浮かべた菊池さん。アンコールに演奏したのは、バッハ作曲・ゴルトベルク変奏曲より「アリア」です。

 

「今年は演奏会が軒並み中止となってしまいました。落ち込みましたが、今しかできないことをしようと始めたのが、いつかレパートリーにしたかった『ゴルトベルク変奏曲』の練習です。2020年の私を支え、励ましてくれた曲です」

 

切なくも美しい、叙情的なメロディー。誰もが耐え忍んだ1年の締めくくり、音楽を楽しむ喜びが、この一曲に詰まっているかのようでした。最後の一音が消えるまで、じっと鍵盤に手を置いていた菊池さん。大きな大きな拍手に包まれ、演奏会は幕を閉じました。

 

菊池さんは、2021年1月16日に行われる「生で聴く『のだめカンタービレ』の音楽会【オーケストラ版】」でラフマニノフの「ピアノ協奏曲第2番」を演奏します。ご期待ください。

 

 

 

【プログラム】

第1部

C.ドビュッシー:月の光(「ベルガマスク組曲」より 第3曲)

W.A.モーツァルト:キラキラ星変奏曲 ハ長調 K.265

C.ツェルニー:モーツァルトの歌劇「フィガロの結婚」の主題による華麗なる幻想曲 op.493

W.A.モーツァルト(リスト編):アヴェ・ヴェルム・コルプス S.618 R.461a

W.A.モーツァルト:トルコ行進曲(ピアノ・ソナタ第11番 イ長調 K.331より 第3楽章)

 

第2部

R.ワーグナー(リスト編):イゾルデの愛の死 S.447 R.280

S.ラフマニノフ:ピアノ協奏曲 第2番 ハ短調〈解説コーナー〉

S.ラフマニノフ:前奏曲集より 第5番 ト短調 op.23-5

R.シューマン:トロイメライ(「子どもの情景」op.15より第7曲)

F.シューベルト:即興曲 第3番 変ト長調 D899 op.90-3

A.グリュンフェルト:「ウィーンの夜会」ヨハン・シュトラウスのワルツ主題による演奏会用パラフレーズ

 

アンコール

バッハ:ゴルトベルク変奏曲より「アリア」