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【レポート】『演出家だらけの青木さん家の奥さん』

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【レポート】『演出家だらけの青木さん家の奥さん』

2017年3月4日(土)・5日(日)
大スタジオ
こんなに笑い疲れる演劇はあるだろうか。

いや、これは、もはや演劇なのだろうか。
即興演劇の名作として知られ、さまざまな舞台や多くの演出家、俳優によって上演を重ねてきた「青木さん家の奥さん」。

それを、現代演劇界の第一線で活躍する演出家や役者と市民キャストによって上演するという今回の試みは、今までの演劇の概念を覆されるほどパワフルで飛び抜けた作品だった。

 

原作はサントミューゼでもおなじみの劇団「南河内万歳一座」の座長であり、今回のキャストでもある内藤裕敬さん。

 

 

 

上演前に「今回の舞台の上演時間は2時間を目安としていますが、演出の関係上、何時に終わるかわかりません」というアナウンスがあったのも、終演後は十分に納得できた。

 

舞台は、ビールケースが積み上げられた酒屋の倉庫。

 

 

元高校球児で新人アルバイトの鈴村(鈴村貴彦さん・南河内万歳一座俳優)が、高校最後の試合でミスをしたことをぼやきながら大量のジャガイモの芽をむいていると、舞台上手でギターを演奏する岩崎正裕さん(劇団太陽族代表)の音に乗って、次々と個性豊かな先輩従業員(内藤さん、荒谷清水さん・南河内万歳一座俳優、多田淳之介さん・東京デスロック主宰、田上豊さん・田上パル主宰)が歌いながら登場。

そして、同僚役の市民キャストも含め、言い争いを始める。

 

 

訳もわからずジャガイモの芽をむいていた鈴村は、先輩たちに向かって尋ねる。
「どうしてイモなんですか?」
先輩たち全員が叫ぶ。

 

「イモじゃねぇよ! 青木さん家の奥さんだよ!」

 

先輩たちは憧れのお得意さん「青木さん家の奥さん」のもとへ配達する権利を争奪していたのだ。

そこへ鈴村も参戦。

酒屋としての配達の心得を得るために、鈴村は先輩たちからの理不尽なしごきにも耐えるが、果たして青木さん家の奥さんのもとに配達に行けるのか? というストーリー。

 

こうした物語の大筋は決まっているものの、即興演劇ゆえに、キャストたちのセリフのほとんどはアドリブ。

どのような展開になるか、何が起こるか先が読めないのだ。

 

たとえば、仕切り役でもある内藤さんが「青木さん家の奥さんは、言うなれば松嶋菜々子のような可憐さがある」と言うと、隣の従業員は「青木さんの奥さんは、言うなれば美輪明宏さんのように性別を超えた美しさがある」と語る。

 

 

まるでそれは大喜利のよう。

次にどんなセリフが来るのか、緊張感も漂いつつ意外性のある言葉が飛び出すので、ドッとした笑いが起こる。

 

 

また、内藤さんが「実は青木さんの奥さんと一度だけ映画を観に行ったことがある」というと、隣の従業員は「俺なんか、青木さんの奥さんと喫茶店に行った」「手をつないだ」「部屋でDVDを見た」「プロレスのDVDを見て技を掛け合った」「汗を掛け合った」「ツバを掛け合った」…。

 

 

直前にしゃべった従業員よりもさらにおかしな「青木さんの奥さんとの深い仲」を感じさせる話を、言葉遊びも用いながら作っていく。

その当意即妙のリアクションや人妻に対してギリギリ許される行為を攻め込む様は爆笑もの。

そして、凡庸な返しは許されない雰囲気は一人ひとりの力量が求められ、キャストの必死さも相まって、身を乗り出すほど夢中になってしまう。

 

と同時に、市民キャストにも容赦なく内藤さんから話を振られるので、なぜか観客であるこちらも、まるで自分が試されているかのような感覚に。

 

 

「自分ならどう反応するだろう」と手に汗握るほどのスリルがまた爆笑を生む。

それに、少しでも気を抜けばほかのキャストに突っ込まれる。

それは、ギターを演奏している岩崎さんも同じこと。

そこがまた、緊張感を高める。

 

さらに、「誰でも奥さん家に配達できるわけじゃないぞ」と、

鈴村は青木さんの奥さん宅での配達時の挨拶や廊下の歩き方、商品の運び方、奥さんへのサービスの仕方などを先輩たちから教わるのだが、それが即興演劇の醍醐味といえるほどのアドリブの応酬、抱腹絶倒の展開に。

 

 

まずは、内藤さんが「青木さんの奥さんに恥をかかせないための玄関の入り方や奥さんを楽しませる方法」を先輩たちに無茶振りするのだが、必死に絞り出したその内容が、最近の芸能ネタ(出家、引退、検尿など)だったり、突然の英会話だったりと、共演者も思わず笑ってしまうようなアドリブ合戦に発展。

それに対し、鈴村が真面目に練習に取り組むからまた笑ってしまう。

 

 

 

 

そして、舞台上では打ち合わせをしながら話が進むので、もはやこれが本番公演なのか練習なのかわからない。

決して再現できないその場限りの展開は腹を抱えるほど面白く、即興のコント劇を見ているような気分にすら陥る。

加えて、先輩たちの要求に鈴村は肉体を酷使して応じるのがまた、観客を物語の世界へぐっと引き込む。

ハチャメチャな展開は、時間が経つのを忘れさせる。

 

そのなかで、キャストの素顔が垣間見えるのもまた、この作品の魅力だ。

もはや、目の前のステージは舞台ではなく、キャストも観客もなく関係なく、会場が一体となってアドリブの掛け合いを楽しんでいる雰囲気に包まれる。

 

一転、配達できないと知った鈴村がキレて暴れるシーン後は、シリアスな展開に。

 

 

鈴村が先輩たちから責められ、思わず客席も静まり返るが、「それでも行くんだな!」と内藤さんに言われ、最後の野球の試合の回想シーンから、再び笑えるオチへ。

 

パワフルな演劇を見ていると、時折、祭りを見ているような錯覚に陥ることがあるが、今回の舞台は本当に祭りのようだった。

そして、観客でありながら、まるでその祭りに参加したかのように達成感も覚えた。

 

 

 

即興演劇は設定とルールがあるだけで、同じものは二度とない。

スリリングな展開のなかで、役者たちは互いに相手のセリフや動き、気配を感じて、そのリアクションの中で即興で舞台を作っていく。

その独特な作品世界は再び観たくなる力がある。

「青木さん家の奥さん」はまさに「即興演劇の極み」という表現がふさわしい作品だった。

 

 

ちなみに、2日目の公演では、鈴村が丸刈りになっていた。

 

 

「『元野球部ならボウズだろ』という舞台上のノリのまま先輩たちに刈られたのではないか」と想像するだけで笑いがこみ上げてきた。

 
3月4日出演地元キャスト:
上沢一矢
黒岩力也
司 白身
福澤拓実

3月5日出演地元キャスト:
黒岩力也
小松順子
司 白身
薮田絵美
薮田 凛