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【レポート】第4期 うえだアーツスタッフアカデミー

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サントミューゼ

第4期 うえだアーツスタッフアカデミー

講師:セレノグラフィカ(隅地茉歩・阿比留修一)、岩村原太(照明プランナー)
受講生:21人

第1回 アーツスタッフ入門
第2回 照明ワークショップ
第3回 ダンス作品と照明の関わり
第4回 劇場の照明、作品の照明
第5回 ショーイング~ダンスワークショップ
第6回 照明プランを考える
第7回 仕込みを考える(照明シュート実習)
第8回 ダンス公演~公演を振り返る
舞台芸術作品が完成するまでには、様々なプロが裏方で活躍しています。

第4回目となる今回の「うえだアーツスタッフアカデミー」は「舞台照明」にスポットを当て、実際のダンス公演の照明プランを考えました。

 

講師にダンスカンパニー「セレノグラフィカ」の隅地茉歩さんと阿比留修一さん、そして照明家の岩村原太さんを迎え、全8回の講座を21人の受講生とともに進めていきました。

 


第1回 アーツスタッフ入門
初顔合わせとなった初日、大スタジオには講師の3人と受講生、サントミューゼ で舞台照明に関わるスタッフも勢ぞろい。

自己紹介や照明に対する思いを話しました。

 

「セレノグラフィカは結成して7年目に、ダンスを続けるか、それともやめようかとつまづいた時期がありました。

その時に知ったのが岩村さんの「光の塾」です。

それまで私たちは作品を完成させてから照明をあてはめてもらうようにお願いしていました。

それまでは2人で試行錯誤していましたが、突き詰めるあまり客観的に作品を見られてない部分もありました。

そこで、踊りを立ち上げるアイデアの段階から照明家とともに作品づくりをしてみようと思うようになりました。

照明家の視点が入ることにより、創作の仕方などが変わっていけるようになりました」

と隅地さん。

 

 

そして、説明だけでは分かりづらいだろうとセレノグラフィカの公演を映像で見せながら、光を創作の材料として使うことで、よりダンス作品を生かすことができることを見せて行きました。

 

後半では創作サイドからの作品創作をテーマに、何に照明を当てるのか、その対象を知る重要性について話は進みました。

優れた照明家は作品を観る力があること、照明が鑑賞体験を左右する力があること、さらにはダンス作品を鑑賞する時に注目するポイントはどこかという話では受講生からの意見を交えていきました。
隅地さんからは作品を観るヒントとして、下記の3点を教えました。
・しつこい奴はどいつだ?(大切にされている素材は何か)
・変身するのはどいつだ?(そのモティーフはどう変化しているのか)
・新顔はどいつだ?(新しく持ち込まれたものは何か)

また、岩村さんからは作品のシーン割の手がかりとして、下記の4点をキーワードに上げました。
・モティーフ(動機)
・リフレイン(くり返し)
・バリエーション(展開)
・コントラスト(対比)

 

 

さらには中道態に触れながら、舞台で作品が「見える」「見る」「魅せられる」の違いについて触れ、舞台照明では観客を「見る」から「魅せられる」中道態の状態にするのが役割であると説明。

 


最後にはシルヴィ・ギエムの『ボレロ』、青森大学男子新体操部の『FLYING BODY』などいくつかのダンス作品を見て、何を見せて、何を見せないのかを解説。

初日からぎゅっと盛り込んだ内容となりました。

 

 


第2回 照明ワークショップ
岩村さんが行なっている光を観る「観光会」というワークショップを参考に、サントミューゼ の大スタジオ、プロムナード、小ホール、大ホールの照明デザインがどのようにされているかを実際に見学。

 

 

それぞれに何を一番見せようとしているのか、普段は立ち入ることが出来ないホールのステージに立ちながら意見を出し合いました。

例えば小ホールでは観客席に入る時、暗い通路で光が無くなることで一瞬緊張を感じることで鑑賞への期待を高めることや、客席の温かみがある椅子や床の色は華やいだ印象を与えるように工夫されていることや、大ホールはグリーンの椅子で落ち着いた印象の空間を厳かに受け止めるような照明デザインがされていると説明。

 

 

ホールに入った時に無意識に感じるワクワクとする気持ちは、照明によっても誘導されていることが分かりました。
後半では、照明の歴史を辿りました。ろうそくは他の明かりにはない揺らぎがありますが、舞台でもこの揺らぎのような見え方の変化が大切で、人は揺らぐもの、動きがあるものを見ようとします。

 

 

はだか電球はろうそくには無かった明かりの調節ができるようになりました。

明かりの範囲も広がり、コントラストを生み出せるように。

蛍光灯は人や物の表面を滑らかに見せます。

空間全体を見せられるようになったり、光の色が多様化して、バリエーションが生まれました。

そしてLEDは人工的に色を生み出せるようになり、光の大きさも変えられるようになりました。

 

こうして照明の歴史とともに、舞台も光を用いて様々な変化を生み出すことが出来るようになりました。

 


最後には「映像鑑光」と題して、第1回でも鑑賞した作品を含めてあらためて岩村さんの解説を聞きながら鑑賞しました。

 


第3回 ダンス作品と照明の関わり
ダンス作品映像を鑑賞しながら、何を見せようとしているのか対象を深く知ることの大切さや、作品の構造を知ることで、より立体的に見ることが出来るようになると学びました。

 

 

鑑賞後にはどのようなインスピレーションを受けたのか、受講生からひと言ずつ直感ワードを言っていきました。

その後はセレノグラフィカの作品『エテルノ』と『鰭と脚の協奏曲』を、隅地さんの解説とともに映像で鑑賞。

その後は振付家や演出家自身の作品をより深く理解し、上演に向けて具体化するためのシーン割や進行表について、実際にセレノグラフィカの作品を作る時に用意した貴重な資料を見ながら解説しました。

 


第4回 劇場の照明、作品の照明
第3回で鑑賞した『エテルノ』と『鰭と脚の協奏曲』の直感キーワードを全員で確認しながら、観客が作品とどのように向き合っているのか、ワードからそのヒントを学ぶところからスタートしました。

 

 

観客の体験としては以前に学んだ「見える」「観る」「魅せられる」の中道態をふり返りながら、照明も同じようにどこに立っているのかフロアの状態(場所)が「見える」、視線の先に何があるのか、同じもの(共感と共有)を「観る」、ダンサーのどの筋肉が動くのかなどをフォーカス(共体験やアフォーダンス、共時性)する「魅せる」ことが役割として求められます。

この日はサントミューゼ の照明スタッフも参加し、大スタジオにある照明について1つひとつ説明したり、実際に照明卓などの機材を受講生が操作する体験をしました。

 


第5回 ショーイング~ダンスワークショップ
本公演で披露する『エテルノ』と『鰭と脚の協奏曲』を実際に踊ってくれるダンサー4人が参加。

稽古着、衣装それぞれで通しを見学。

 

 

 

稽古着ではダンサーがどう動いているのか、衣装では魅せる部分はどこかに注目していきました。

最後にはダンサー、受講生、セレノグラフィカの2人、岩村さんが4つのグループに分かれて『エテルノ』と『鰭と脚の協奏曲』それぞれの作品の直感ワードや、振付家、照明家、ダンサーに質問したいことや公演で試してみたいことをディスカッションしました。

 


第6回 照明プランを考える
第5回でダンサーに披露してもらった『エテルノ』と『鰭と脚の協奏曲』の2作品の印象に残っていることなどひと言ずつコメントするところからスタート。

『鰭と脚の協奏曲』は水の中を表現したい、青や緑のイメージ、繰り返しの世界観の印象深さをどう照明で表現するか、『エテルノ』は無声映画のよう、赤と黒の世界、空気のうねりを感じる、影を表現するなどの意見が出ました。

 

 

それらをもとに改めてどのような照明プランにしたいのかアイデアを出し合いました。

 

 

後半では岩村さんが考えた最低限の照明を合わせて2作品を鑑賞し、それぞれの作品のどの部分を印象的にしたいのかなど受講生に考えてほしい部分を明確にしていきました。

 


第7回 仕込みを考える(照明シュート実習)
第6回で受講生に考えてもらった仕込み案をもとに、岩村さんが照明プランニングを行い、チャンネルリストやフォーカスチャートを用意しました。

 

 

受講生のアイデアをベースに岩村さんからは『鰭と脚の協奏曲』ではオクラホマをダンスするシーンをシルエットにしたい、ミラーボールで表現したら水のあぶくやしぶきに見えるか、『エテルノ』はもともと照明の変化を見せずに作ったが受講生から今までにない明かりのメリハリを付けるアイデアが多かったことを共有しました。

今までに考えつかなかったアイデアに感謝しつつも、色を使うことで物語を勝手に生み出したり、イメージを決定づけてしまいやすくすることも説明。

 

 

照明が先回りして作品を説明することなく、基本的には観客がどう観るのかは委ねたいとしながらも、受講生から出た新しいアイデアも挑戦してみようと進んでいきました。

 


第8回 コンテンポラリーダンス公演『Duet ~2人を踊る~』~公演を振り返る
午後の本公演前に21人の受講生は照明、もぎり、誘導、アナウンス、『鰭と脚の協奏曲』のオクラホマシーンのダンスに入る人など、スタッフとしてそれぞれの役割についてゲネプロを行いました。

 


本公演では追加席を用意するほど観客が詰めかけました。

「ダンス作品が観たくて」「出演するダンサーさんを観に来ました」など様々な関心からこの公演を鑑賞。

 


最初に上演したのは、下村唯さんと西岡樹里さんのデュエットによる「鰭と脚の狂奏曲」で、セレノグラフィカ結成15周年記念作です。

水の中を思わせる青いライティング、あぶくをイメージさせたミラーボール、象徴的なオクラホマのダンスシーンでは焦点が人から影へと切り替わるなど、たくさんの照明プランが施された内容となりました。

 

 

一方、升田学さん、エメスズキさんによるデュエット「エテルノ」は結成20周年記念作で、恒久性、永遠性をテーマにシンプルな照明プランながらも男と女が寄り添ったり、時に離れたりしながら人生をダンスで表現。

オリジナルとはまた異なる赤と青の照明を印象的に挟み込んだ演出となりました。

 


本番公演を終えて、「今まで自分が知っているダンスのイメージとは異なったけれど、物語があり、深く思考しながら楽しみました」などの感想がありました。

あらためて8回の「うえだアーツスタッフアカデミー」をふり返って、講師の3人からは下記のような意見や感想がありました。

 

 

「僕自身のプランの方向性は、色を使わないというのが特徴です。

そのため受講生から出た「エテルノでは赤や青の明かりを使いたい」というアイデアは、むしろ挑戦してみなければいけないなと思いました。

実際にやってみると今まで僕たちがストイックに作ってきた作品に華やかな色合いが加わったことでより分かりやすい。

見た目に親しみやすい作品に仕上がった可能性があります。

今回はセレノグラフィカではない踊り手が出演したので、作品は受講生と踊り手のダンスが複合された形になったので、それらが相まって僕たちだけでは出来なかった仕上がりになりました」(岩村さん)

 

「踊るよりも緊張しました。

そして今回参加した受講生21人のアイデアやその豊富さに驚き、新鮮さも感じました。

例えば私たちでは思わなかった色使い、ミラーボールを使う発想などは作り手では気がつかない自由さがあり、本公演はみんなのアイデアがうまく結晶化できたような感じがしました。

私たち振付家やダンサーも、新しいことに挑戦しようと思えたのは、このアカデミーだったからこそ。

良い意味でたくさんのわがままを実現させてくれる環境があったから、良い挑戦をすることが出来ましたし、私たちが作品に対して愛着を持つように、受講生にも愛着を少しでも持ってもらえるきっかけになったら嬉しいです」(阿比留さん)

 

「本番は予想外のことが起きるものです。

実際にあちこちで起きていましたが、それぞれがカバーし合い、手に手を取って本公演を完成させる。

それがこの公演のタイトルである『Duet ~2人を踊る~』にも繋がって良かったなと思います。

私たちの作品『エテルノ』と『鰭と脚の協奏曲』は本来、とてもシンプルな舞台照明をしています。

『エテルノ』に関しては20分ほぼ照明デザインがないまま進行していました。

舞台照明や音響で過剰な説明をしないようにという話は何度かしたように、大切にしているところです。

それでも今回、受講生の照明アイデアを取り入れることで、作品が持つ匂いのようなものや発散している音色が変わるようでした。

それはまるで良く知っている人が、普段とは違う、ちょっとお洒落な装いをして素敵だと感じるような出来栄えでした。

また、このアカデミーは私たちも経験がなく、フィードバックがとても多いものになりました。

言葉でいうなら、『未来形型』な事業でした」(隅地さん)

 

 

 

舞台照明という切り口からたくさんの人が作品に対して深く考察し、より良くするためのアイデアを出し合う中で、1つの作品が生まれ、完成していくプロセスを体験。

今後より深く作品を鑑賞する糸口になったり、舞台照明という仕事に関心を持つきっかけになるなど、受講生に様々な発見や気づきを与えることが出来たのではないでしょうか。