サントミューゼ(上田市交流文化芸術センター・上田市立美術館) おかげさまでサントミューゼは10周年

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【レポート】礒絵里子 地域ふれあいコンサートin塩田公民館

みる・きく
会場
サントミューゼ

ワンコイン 地域ふれあいコンサートvol.33
礒絵里子 ヴァイオリンコンサート 

2017年11月2日(木)19:00開演 at 塩田公民館 大ホール
世界各地でリサイタルを行い、国内外のオーケストラとも多数共演を果たしているヴァイオリニスト・礒絵里子さん。

デビュー20周年を迎える今年、サントミューゼでは2017年度のレジデント・アーティストとして、神科・豊殿地域と塩田地域を担当しています。
10月から、ピアニストの中川賢一さんと12日間上田に滞在。担当地域の小学校や高校でアウトリーチも行いました。

 

 

そんな滞在期間の11日目に行われたのが、塩田公民館での「地域ふれあいコンサート」です。

幅広い層が集まった客席には、アウトリーチを行った塩田地域の小学校の児童の姿も見えました。

 

 

艶やかな青のドレスに身を包み、颯爽とステージに現れた礒さん。

まず演奏したのは、ブラームスの『スケルツォ ハ短調』。

シューマン、ディートリヒとともに、ブラームスが20歳の時に作曲したソナタの第3楽章です。
力強く伸びやかななかにも繊細さを感じる礒さんの演奏に、客席がぐっと引き込まれました。

 

 

演奏後、礒さんは「先月23日から上田に滞在し、塩田の小学校や高校を訪れて、もう塩田に住むんじゃないかという勢いです」と挨拶。

客席からは笑いが起こっていました。
こんなに長期間一カ所に滞在するのは礒さんも中川さんも初めてだそうで、礒さんは滞在中2回も温泉にも出かけるなど上田を満喫したのだとか。

中川さんとの楽しい掛け合いからは、ふたりのコンビネーションのよさも伝わってきました。

 

 

そして「今日はヴァイオリンが堂々と演奏してピアノが伴奏となる『小品』と、ヴァイオリンとピアノが対等に演奏する『ソナタ』の両方を楽しめるプログラムを用意しました」との紹介に続き、小品3曲を演奏。
リムスキー=コルサコフの『熊蜂の飛行』、サン=サーンス(ハイフェッツ編)『白鳥』、ディニク『ひばり』と、生き物がタイトルに付いた作品を選んだそうです。

 

『熊蜂の飛行』はオペラの間奏曲。
「ヴァイオリンであえて汚い音を出すことで、蜂の羽がこすれる音を表現します」との演奏前の礒さんの解説の通り、羽音を模したユニークな曲調と軽快なテンポが心地よく、駆け抜けるような爽快感も感じられました。

『白鳥』は、半音下げたアレンジでの演奏。
「調が違うと曲のキャラクターや色も違って聴こえ、夜の雰囲気にぴったりです。でも、まだお酒は飲まないで(笑)」

との言葉に、会場はまたも笑いに包まれました。

 

 

続くドビュッシーの『月の光』は中川さんのピアノソロ。
「私は1つ1つの音に意味を込めて弾いていますが、皆さんは自由に聴いてください。それが音楽の面白さです」と中川さん。
そして「夜の曲なので、よろしければ目を瞑って聴いてください」との案内に、観客は目を閉じて演奏に聴き入りました。
月が美しい夜、池のほとりで水面に映った月が風で歪み、再び元に戻る様子をドビュッシーが曲にしたと話してくれた中川さん。

演奏を聴きながら、その情景を思い浮かべていた人も多かったことでしょう。

 

 

演奏後には「おはようございます(笑)」と中川さん。
「音楽を聴いて寝てしまっても構いません。

それは気持ちがよかったということですから。

音楽にはいろいろな力があるので、自由に聴いてほしいですね」
そんな言葉が、よりコンサートの楽しさを広げてくれるようでした。

 

 

再び礒さんがステージへ。
続いての演奏は、ブラームスの『ピアノとヴァイオリンのためのソナタ 第2番 イ長調 作品100』です。

ブラームスが53歳の時の曲で、内向的な彼が多くの友人に恵まれ明るく過ごした時期に作曲したのだとか。
「ブラームスのなかでは比較的明るいソナタですが、明るさのなかにもほの暗さを感じ、暗いなかにも光が感じられる作品です」と礒さん。
伸び伸びとした曲調のなかに重厚さや繊細さが感じられ、ヴァイオリンとピアノの調和も美しく、しみじみとした深い感情が伝わってきます。

 

 

プログラムの最後は、口笛のようなヴァイオリンの奏法が印象的なシャミナード『スペインのセレナーデ』と、ファリャ『スペイン舞曲』です。

どちらもスペインにまつわる小品で、クライスラーのアレンジによるもの。
『スペイン舞曲』は情熱的な音のなかにも哀愁を帯びた旋律が響き、圧巻の演奏。

熱い拍手とともに、客席からは「ブラボー!」という声があがっていました。

 

鳴り止まない拍手のなか「私たちが拍手が大好きなのをご存知なんですね」と、またも茶目っ気たっぷりに登場したおふたり。
アンコールはモンティの『チャールダーシュ』で、礒さんが客席の合間を縫って歩きながらの演奏。

 

 

ただでさえ近い客席とステージの距離がさらに縮まり、間近で見る一流の演奏に客席もとても満足の様子。

おふたりの温かな人柄を感じさせるステージに、会場は最後まで笑顔が溢れていました。

 

 

 

11月18日(土)にはサントミューゼの小ホールで、礒さんとピアニスト・練木繁夫さんによる『ヴァイオリンリサイタル~ブラームス ヴァイオリン・ソナタ全曲~』が開催されます。
没後120年を迎えるブラームスの世界がどのように表現されるのでしょう。

生演奏だからこそ感じられるエネルギーや感動を味わいに、ぜひお越しください。