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【レポート】仲道郁代 アナリーゼワークショップ

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会場
サントミューゼ

アナリーゼ(楽曲解析)ワークショップVol.15 仲道郁代
8月10日(木) 19:00~ at  サントミューゼ小ホール

 

9月1日、2日に上演される「ロマン派症候群」。

ロマン派音楽の大作曲家、ショパンとブラームスの2人が病院の待合室で偶然出会う……というこの奇想天外な物語は、2人が生み出した多くの楽曲によって彩られます。
公演に先駆け、音楽監修・ピアノ演奏で出演する仲道郁代さんが、2人の作曲家と関連楽曲について分かりやすく解説してくれました。

 

「『ロマン派症候群』のショパンとブラームスのセリフは、短いながら心に染み入ります。

彼らがどんな人物でどんな人生を送ったかを知って聞くと、より深まるはず」
と、まずは2人の人生をたどる所からスタート。

 

 

 

最初にスクリーンに映し出されたのは、ショパンの「履歴書」。

ユニークな内容で、たとえば「性格」欄には「やや意固地」、「金運」欄には「堅実に稼ぎ、パッと使う」とあります。

 

 

「ショパンはパリの貴族相手にピアノを教えていて、当時ヨーロッパで最も費用が高い先生だったそうです。

でも、上流階級の人々と付き合うため馬車に乗ったり上等な服を仕立てるなどとてもお金がかかったから、稼いでも残らなかったそうですね」

 

上流階級に愛された理由の一つが、「女心をくすぐる曲作り」。
「作曲の秘密は“装飾音”(音を揺らしたり付け加えたりすることによって旋律を飾ること)をたくさん入れること。元の音に刺繍を施したかのような音形が、パリの女性たちの人気を集めたのです。“受ける曲”を数多く生み出したショパンは、いわばヒットメーカーだったんですね」
と、仲道さんがワンフレーズを演奏。

確かに音の数が複雑に多く、繊細な印象です。

 

 

続いてはブラームスの「履歴書」です。

幼い頃から「神童」ともてはやされたショパンに比べ、彼は地道に作曲を積み重ね、56歳の時には皇帝から勲章を授与されるまでに。
「性格」欄は「シビアな仮面の下は大いなる人情家」、金運は「恵まれているが無頓着」、そして外見は若い頃こそ美青年だったものの、晩年は「むさ苦しい髭面で身なりに構わないタイプ」だったそう。

先ほどのショパンとは対照的な印象です。

 

 

続いて、2人が生涯のうちに重ねた恋愛をたどっていきます。
「伝記には出てきませんが、作曲に恋愛が関係ないことはないですよね」

 

 

 

スクリーンに映し出されたのは、2人の生涯の「恋愛年表」。

 

 

19歳で初恋を経験したショパンは、26歳のときに婚約破談になった相手に捧げる「別れのワルツ」を作曲。28歳から女流作家のジョルジュ・サンドと同棲した9年間が、ショパンにとって経済的にも健康的にも最も豊かな時代だったと言われています。
「控えめで潔癖だったショパンは、開放的で物言いも率直なサンドに憧れたのではないでしょうか」

 

ショパンの生涯の恋が6人ほどだったのに対し、ブラームスの相手は10人以上。

中でも語られることが多いのが、シューマンの妻・クララとの恋です。
「ブラームスとクララの関係は死ぬまで続いたそうですが、晩年はなんとクララの娘にも恋をしたそう。

中年男の片思いですね。こうして見ると、ブラームスは極めて“人間的”な作曲家だったと言えそうです」

 

偉大な名作曲家の意外な一面が垣間見えるエピソード。

こうした恋の数々が、2人の曲に影響を及ぼしたのでしょうか。

 

 

続いて、劇中で演奏する曲の解説へ。

まずはピアノソロで演奏されるショパンの「幻想即興曲」です。
この曲には、どんな曲が“受ける”かを知り尽くしたショパンの計算が秘められています。

曲の真ん中に現れる優雅なメロディー。

実はこの部分は、冒頭のフレーズを構成する音を長調にして明るくしたもの。
「聴いた人は同じものから生まれたと気付かないまま、“懐かしくて切ない”気持ちを味わうのです」
このテクニックは、ブラームスの「ピアノ三重奏曲第1番」でも使われています。

まず1楽章を音源で聴き、続いて2、3、4楽章のメロディーを仲道さんがピアノで弾いて解説します。
「すべての要素が1楽章の最初のメロディーにあり、それを暗くしたり逆さまにしたりとさまざまに変化させながら、2、3、4楽章が書かれているんです。

でも聴いていると、全然違うものに感じる。トータルで統一感を感じるのは、その技ゆえなんですね」

 

 

いっぽうで「ブラームスの作るメロディーは、ショパンに比べるとあまり面白くないんですよね」と仲道さん。
「なんだかぐるぐると、うだうだとした感じ。

彼の恋愛もそうですね。答えを出せないんでしょう」

 

こうして曲の成り立ちを俯瞰して見ると、ショパンもブラームスも曲の「物語性」を嫌い、「純粋性」を信じた点は相通じていたことが分かります。
「彼らが曲で何を描きたかったのか、一番大切な部分がどこにあったのかが、『ロマン派症候群』のセリフに見え隠れします。

そうしたものを感じながら音楽を聴けば、きっと違う世界観を感じられるのではないでしょうか」

 

 

作・演出に「南河内万歳一座」の内藤裕敬さんを迎え、仲道さんのピアノと共にショパンとブラームスのあらたな人物像に迫る「ロマン派症候群」。

 

 

9月1日(金)、2日(土)に小ホールで上演します。ぜひお楽しみに。