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【レポート】仲道郁代アナリーゼワークショップ

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アナリーゼ(楽曲解析)ワークショップVol.21 

仲道郁代ピアノリサイタル関連プログラム
お話:仲道郁代
1月31日(水) 19:00~ at サントミューゼ小ホール

 

日本を代表するピアニストとして活躍し、昨年デビュー30周年を迎えた仲道郁代さん。

2月16日(金)には、仲道さん自身思い入れが深いと語る「オール・シューマンプログラム」のピアノリサイタルをサントミューゼで開催します。
リサイタルをより楽しめるようにと、楽曲や作曲家シューマンについて、仲道さん自ら解説するアナリーゼワークショップが行われました。

 

 

ロマン派を代表する作曲家として知られるシューマンの音楽を語るうえで欠かせないのが、妻クララとの関係です。

彼女と恋をする中で、シューマンは多くの曲を生み出しました。

親の反対を押し切り、裁判を起こしてまで結婚した二人。

しかし新婚当初から亭主関白を貫いたシューマンは、売れっ子ピアニストだったクララの演奏活動をまったく支援しなかったと言います。

 

「彼が活躍した時代は著作権という概念がなく、演奏家の名誉の方が作曲家よりも上でした。

この頃のシューマンは収入が不安定でクララのおかげで暮らせていたのに、それが嫌だったのでしょう。

大恋愛の末に結婚したにもかかわらず、複雑なのですね」

 

 

 

さらにシューマンに躁鬱の気質があり、激しさと瞑想的な両極端の部分があったことも、音楽に大きな影響をもたらしたと仲道さんは話します。
「父と姉を早く亡くし、若い頃から死への不安を抱えていました。

晩年にライン川で投身自殺を図り、精神病院に入院しています。

この間、かわいがっていたブラームスと妻クララの恋愛関係を疑って面会も拒み、最期は一人静かに息を引き取ったようです」

 

愛する人と結ばれながら、悲しい運命をたどったシューマン。

そんな複雑な心を持った彼が音楽でこだわったのが、調性やリズム、音程すべてに意味があるとする「修辞学」でした。

 

「例えばハ長調は『純粋無垢で単純、素朴』、ヘ短調は『衣服を噛む犬のような激情』といったように、固有のイメージがあると考えられていました」

 


と、実際にピアノで演奏する仲道さん。言葉で音のイマジネーションが広がっていく感覚に、なるほどと頷く参加者も。

 

「ロマン派文学の概念を結びつけて作曲した彼の作品には、究極のロマンチシズムがあります。それを躁と鬱の両方で表現するからつじつまが合わない。

それがシューマンの世界なのですね」

 

さらに、シューマンがもう一つこだわったものとして挙げたのが「聴こえない音」。

一つの和音を奏でた後に指を一音ずつ離し、「なくなる音」を聴く瞬間をいくつも作っているのです。
「シューマンはよく、“内なる声”、“遠くからの声”という言葉を使いました。

それは“待つ者”にだけ聴こえてくるのだ、と。

手に入らないものへの憧れ、切望に美を見出すのが、ロマン派の世界なのです」

 

 

ここから、リサイタルで演奏する曲の紹介へ。
最初にスクリーンに映し出されたのは「アベッグ変奏曲」の楽譜です。

テーマ部分を指し示しながら実際にピアノで弾き、

 

「最初の音はドイツ語でA、次がB、E……。タイトルの“アベッグ”の綴りを音に当てはめると、このメロディーになるのです。まさに音遊びですね」

 

 

と、美しいメロディーに込められた意味を解説してくれました。
曲中には、前述の「聴こえない音」も登場。

意識して耳を澄まさなければ聴き逃してしまう音色から、シューマンの繊細な感性が伝わってきます。

 

「交響的練習曲」の解説では、ダイナミックな演奏を部分ごとに披露する仲道さん。

 

「悲壮ともいうべきメロディーから始まり、最後は勝利の凱旋のような曲相になる。

当時ピアニストの夢を断念したシューマンの、自分が何者か分からないけれど何かを提示したい、という願いと重なる曲なのではないでしょうか」

 

「幻想曲」第一楽章には、ベートーヴェンの歌曲「遥かなる恋人へ」のメロディーが使われています。

その歌詞から伝わるのはクララに対するシューマンの深い想い。

さらに曲中には、クララが作った曲に登場するメロディーも使われています。

 

「この曲はハ長調で書かれています。

クララのイニシャルの調性で、遥かなる恋人であるクララへの思いとベートーヴェンに対する尊敬が混じりあった曲です。 」

 

 

最後は「3つのロマンス」第2番の解説です。
通常の楽譜は2段で書かれますが、この曲は3段で書かれ、中央にメロディーがあります。

この書き方でなければメロディーを見つけることはできない、と仲道さん。
「シューマンの曲では、大切なことはいつも隠された中にあります。

求めなければ聴こえない、限りなく美しい世界が生み出されるのがシューマンの世界だと思います。

だから私はシューマンが大好きです」

 

限りなく繊細で細やかなシューマンの世界に触れたワークショップ。

2月16日のリサイタルでは、彼が追い求めたものをぜひ一緒に探してみてください。