• 劇場・ホール
  • 美術館
  • 体験事業
  • 施設利用のご案内
  • about us
  • HOME
  • 体験事業
  • 【レポート】高校生が創る実験的演劇工房3rd「Q学」

【レポート】高校生が創る実験的演劇工房3rd「Q学」

高校生が創る実験的演劇工房3rd「Q学」

 

上田市交流文化芸術センター 演劇創造事業
高校生が創る実験的演劇工房3rd「Q学」

ワークショップ・稽古/2016年11月12日(土)~13日(日)、26日(土)~12月2日(金)
公演/A組:2016年12月3日(土)開演18:00、B組:4日(日)開演15:00
大スタジオ

 


上田市内の高校の演劇班員有志が集い、サントミューゼスタッフと一つの舞台を作り上げる「実験的演劇工房」。

平成26年12月、大スタジオこけら落とし事業として始まったプロジェクトです。

3回目を迎えた今回は劇団「田上パル」主宰の劇作家・演出家の田上豊さんを迎え、「Q学」(作:田上豊)を上演しました。

今回の創作期間はわずか9日。高校演劇史上に残る濃密な日々をレポートします。


11/12(土)

1日目:ワークショップ

 

上田東高校、上田千曲高校、上田染谷丘高校の演劇班から集まったメンバーは総勢23人。

「実験的演劇工房」に参加経験のある上級生もいますが、半数近くが1年生の新鮮な顔ぶれです。

 

0013

 

初対面の田上さんからは、「9日間で2チームを作って芝居をやります。ブートキャンプ並みにきついけれど頑張りましょう!」と激励の言葉。

 

0155

 

そうなのです、今回の創作期間はたった9日。

しかもA班とB班に分かれて上演するダブルキャストです。

普段の演劇班が1公演に2~3カ月費やすことを考えるとまさに実験的。

演じる「Q学」は、かつて田上さんが高校生と2週間で作り上げた演劇ですが、今回は1週間で2チームと、実に「4倍速」なのです。

 

不安と戸惑いを浮かべる生徒たちに、「まずは遊ぼうか」と田上さん。

イス取りゲームやジェスチャーゲームと体を使った遊びで盛り上がり、即興演劇にも挑戦しました。

 

0066  0144

 

午後は、配られたばかりの台本でさっそくセリフ読み。

田上さんの「明日までに配役を決めるので、一人ずつ声が聞きたい」との言葉に、表情が引き締まりました。

 

舞台はとある高校。

演劇の授業を選択した生徒たちは問題児ぞろいで何に対しても無気力でしたが、一人の女子生徒「坂口」の存在によって変わっていきます。

ところがある日を境に坂口は授業に来なくなり、皆との間に壁を作るように。

そんな中飛び込んできたのは坂口退学のニュース。

演劇の授業で「走れメロス」をテーマに創作劇を上演することになった彼女たちは、劇に坂口を引っ張り出そうと作戦を練り……というストーリー。

 

0311

 

ぶっつけのセリフ読みは荒削りながら熱がこもり、数時間前の緊張した面持ちとは別人のよう。

「みんな個性豊かだなあ!」と漏らした田上さん、この鮮やかな個性をどう見極め、演出していくのでしょうか。

 

0379

 


11/28(月)
5日目:稽古

 

この日から本番と同じ大スタジオで練習。

 

 

ステージをコの字で囲む客席は、役者が走ると風を感じるほどの近さです。
田上さん指導のもと1班ずつ立ち稽古を始め、もう1班は別室で自主練習へ。

試験が近い生徒もいる中、生徒たちは休み時間もセリフ覚えに徹しているそうで、わずかな時間も台本読みに余念がありません。

 

 

「もっと驚きを出して」「タイミングが早い、3秒空けて」
動き一つ、セリフ一つに指導が飛びます。

間合いや口調、動きなど演出がハイスピードで加わり、同じシーンを何度も繰り返すことも。

 

舞台監督、照明、音響と、サントミューゼスタッフと一緒に裏方を担当する生徒も、稽古を見ながら本番をイメージします。

役者でなくても、田上さんから役者へのダメ出しには、裏方も必死にメモをとります。
「覚えきれないかもしれないので、書きとめて役者に後で渡します」。
役者と裏方、チームとなって作り上げる一人ひとりの思いに大小はないのでしょう。

 

 

後半はA班とB班が互いの稽古を見学。

同じ脚本でも役者によってキャラクターが違い、それに合わせて田上さんがセリフや動きに演出を加えていきます。

そうして生まれたのは、まるで別の生き物のように個性を持つ二つの芝居。
「上田の生徒たちは役になりきるというよりも、自分とリンクする部分を見つけて引き寄せていく印象です。だから2班で彩りも潤いも違う」と田上さん。

 

 

互いの稽古を見終わった後の生徒たちは、
「自分たちの班に比べてテンポが落ち着いていた」
「この場面で笑わせてくるのか!と意外に感じた」
など、比較することで気づきがあった様子です。
「同じ役に見習う部分はありますが、その人にしか出せない雰囲気がある。それがダブルキャストの良さだと思います」
と話してくれた生徒もいました。

 

田上さんは稽古後、「予想より早く彼らの創作モードのスイッチが入ったなと感じています」とこれからに期待を寄せました。

 


11/30(水)
7日目:稽古

 

この日は重要な場面「走れメロスの劇中劇」の集中稽古です。

「体育会系演劇」と称される田上さんの真骨頂とも言えるのがこの劇中劇。

長いシーンの中に歌あり長ゼリフあり走り回る場面ありと、役者9人の息を合わせた疾走感が求められます。

 

 

小さなミスもテンポに影響するため、動線や小道具の位置も細かく確認します。

各班のメンバーは学校も学年もバラバラ。

 

ずけずけと物を言い合う女子高生を演じる上で、この微妙な関係性も課題でしたが、遠慮している時間はありません。

「意見を出し合うことで、いい空気ができてきました」という声もありました。

 

 

台本にない動きやセリフのアレンジもすぐに吸収し、楽しんでさえいる生徒たち。

この頃には田上さんの演出意図が生徒に伝わりやすくなり、たとえば「感情に合わせてアドリブで動きをつけて」と伝えると的確に返してきたり、微妙な「間」の感覚を共有したりと、創作に関する感度が合ってきました。

 


12/3(土)
A組ゲネプロ・公演

 

ついに本番1日目。

A班の公演です。

 

2班とも朝から稽古を開始。

本番を夕方に控えたこの時点でも、田上さんから次々に動きやセリフの変更が入ります。

時間が迫るなか田上さんの語気も自然と強まりますが、生徒たちの反応の良さは驚くほど。

本番に向け、無意識のうちに感度が研ぎ澄まされているのが分かります。

 

 

メイクやヘアセットを済ませ、午後は照明や音楽も本番と同じ状況で通し稽古を行うゲネプロ。

通し稽古は今日でわずか2回目です。

ぴりりとした空気の中、練習では出ないようなミスもありましたが、互いにカバーするアドリブはさすが。

暗転するラストシーンでは、手拍子の数がそろわないハプニングもありました。

 

 

 

ゲネプロの観客の一人に、昨年までの「実験的演劇工房」講師を務めた劇作家・演出家の岩崎正裕さんがいました。
「面白かったです!一週間でよくここまで。自信を持ってやれば、きっとうまくいく」との笑顔に、生徒たちの表情がほんの少しだけ緩みます。

 

とはいえ生徒たちの口からはゲネプロの反省が次々と。

不安そうな彼らに田上さんは、「振り返ってもしょうがない!舞台を壮大なバトンリレーだと思って、次のシーンにつなげるために頑張ってください」

その言葉に、それぞれの表情に覚悟が宿りました。

 

裏方の生徒も注意点を整理。

音響担当の生徒も場面転換のきっかけとなるチャイム音などのタイミングについて、サントミューゼスタッフからアドバイスを受けます。

「スタッフの方のきびきびとした対応は尊敬します」と刺激を受けているようです。

 

 

そして開場。

B班はスタッフとして、お客様の誘導や上演前の前説などでサポートします。

満席の客席が見守る中、幕が上がりました。

 

 

冒頭からドライブ感にあふれ、舞台が彼らの色に染まっていきます。

長ゼリフもテンポ良く、見せ場のシーンではキレの良さとテンションの高さに客席からは笑いやどよめきが!

そんな反応を受け、芝居はさらに勢いを増していきます。

 

 

ラストシーン。

整列して掛け声と共に手拍子。

1、2、3……ぴたりと見事にそろったとき、田上さんの言う「みんなで埋め合うグルーヴ感」が、舞台を包んでいました。

積み重ねてきたものが最高潮に到達した75分間の幕が降り、惜しみない拍手が送られます。

 

 

例年は1・2年生が主に参加する演劇工房ですが、今回はOGも役者として参加しています。

その一人は、「今までで一番良い出来だったと思う。高校生活最後に悔いのない演劇ができて嬉しいです」。

最後の芝居にぶつけた強い思いは、技術や演技力とは別の次元で輝きを放っていました。

それは、たとえプロにも真似できないものなのかもしれません。

 



12/4(日)
B組ゲネプロ・公演

 

B班は朝から発声練習。

昨日本番を終えたA班も稽古を見学し、メイクやヘアセットを手伝います。

ゲネプロの劇中劇では疾走感を求めるあまり早くなりすぎてしまい、セリフが聞き取りにくい箇所も。

ゲネプロ後に「返し稽古」を行い、役者同士気になる部分を意見し合いました。

 

 

この日も満員御礼。A班がスタッフとして誘導や前説を行います。

緊張に包まれる本番で際立ったのが、上級生の安定感でした。

テンポが早くなっても、唯一の3年生のセリフや動きがリズムを取り戻すきっかけに。

アクシデントもさりげなくフォローし、舞台上の大黒柱となっていました。

 

坂口役の生徒は、役に合わせた影のある表情と言葉で引きつけます。

坂口を連れ戻そうとする生徒・松本役との鬼気迫るやり取りは魂がぶつかり合うようで、胸をつかまれました。

 

 

最後に授業に戻ってきた坂口を囲み、7人が輪になるシーン。

喜びと安堵、寂しさ……さまざまな思いを乗せた表情が、チームでここまでたどり着いた彼女たち自身とオーバーラップし、胸に迫ります。

 

 

カーテンコールでは拍手が鳴り止まず、嬉しいダブルコール。

涙を見せるお客様もいました。

 

お客様の見送りを終え、最後のミーティング。

反省の声もあったものの、皆晴れやかな表情です。
「このメンバーでやれてよかったと思う」
「めまいするぐらい、全力を出せた」
見守ったA班の生徒たちの中には、鑑賞中に感極まって涙した人も。

 

 

同じ山を乗り越えた同士だからこその一体感が、表情から見てとれました。

 

田上さんは生徒たちに、

「稽古で言われたことの中から、これからの経験として使えるものだけ持ち帰ってください。高い山でしたが、チームで乗り越えられると思っていましたよ」

と言葉をかけました。

 

最後は、9日間を駆け抜けた23人が充実の笑顔がそこにはありました。

 

「高校生は、自分の限界を分かっているようで分かっていない、そこが面白くて、一緒に作る醍醐味を感じますね」と田上さん。

 


ギリギリの中で素晴らしい結末を見せてくれた彼ら。

最後は芝居を見ているのか、彼らのひたむきな生き様を見せつけられているのか分からなくなるほどでした。

これから演劇を続けていく中で、大人になっていく中で、この日々が彼らにとって大切なものになることを願います。