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【レポート】金子三勇士 ピアノリサイタル

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サントミューゼ

【レポート】金子三勇士 ピアノリサイタル

金子三勇士 ピアノリサイタル
2017年7月1日(土)14:00開演 at 小ホール

 

 

今最も注目される若手ピアニストの一人、金子三勇士さん。

梅雨のさなかに行われたリサイタル当日はあいにくの大雨でしたが、大勢のお客様が訪れました。

 

 

静けさを切り裂くように始まった前衛的な旋律はハンガリーの作曲家、バルトークによるピアノ練習曲集『ミクロコスモス』より「オスティナート」です。

時に疾走するように鍵盤を打ち鳴らしつつ一音一音を鮮明に響かせ、冒頭から聴く者を圧倒しました。

 

 

ハンガリー人の母の元に生まれ、6歳で単身ハンガリーに渡りバルトーク音楽小学校に入学した金子さんにとって、バルトークは思い入れのある作曲家。

 

「教育者であり父親でもあったバルトークは、子ども向けの作品もたくさん遺しています。

共通点は、根っこに民族音楽を感じること。子どもの心に響くのではないかと考えたんですね」

 

 

そう話して披露した6曲は、金子さん自身もピアノを始めた頃に弾いていた曲。

子ども向けとあって技巧的な複雑さは少ないものの、元気さや優しさ、寂しさなど、子どもらしい豊かな感情がうかがえる楽曲でした。

 

 

ベートーヴェンの「ワルトシュタイン」は、
「最新型のピアノを手に入れた彼の遊び心が表れた、カラフルな曲です」
と紹介。
30分に及ぶ長い曲ですが、1曲の中で鮮やかに変化する躍動的なリズムに引き込まれます。

ベートーヴェンに抱きがちな重厚な印象が変わる清々しさでした。

 

 

第2部はラフマニノフから。
「ピアノを自由に操るラフマニノフの特徴が表れた、遊び心を感じる作品です」。
金子さんの力強いタッチが小気味良い和音のテーマから始まり、流れるようなメロディーへ。

繊細な中にも骨のある音色が印象的でした。

 

 

ショパンの曲は「夜想曲第2番」、そして今日の空に合わせたかのような前奏曲「雨だれ」を。

豊かな抑揚と厚みのある響き、変化するリズムがストーリーを感じさせ、曲の新たな表情を見せてくれました。

 

 

続いてはドビュッシー。

彼の音楽は、ルノワールやモネといった同時代の「フランス印象派」の絵画に似ている、と金子さんは話します。
「印象派の絵画は、少し離れて見ないとモチーフが何か分からない場合がある。

ドビュッシーの音楽も、霧がかかったような響きの中にきらきらと色が光る、不思議な世界観の作品だと思います」
こちらも有名な曲ですが、まるで初めて聴くような新鮮な感覚。

もやもやとした抑圧を経て明快に伸びる音が、胸に迫ります。

 

 

最後はリストの「ラ・カンパネラ」。

情感豊かなリズム、さまざまな感情を呼び起こす演奏に、大きな拍手が送られました。

 

 

 

アンコールに披露したのは「ハンガリー狂詩曲 第2番 嬰ハ短調」です。

1台のピアノでここまで表現できるものかと驚くほど豊かな音色。

曲の中でガラリと空気が変わる瞬間もあり、およそ9分半の贅沢な演奏で閉幕。
バルトークに始まり、ショパンやリストなど幅広い構成で、作曲家の感性と金子さんの豊かな表現の融合を堪能したひとときでした。

 

 

終演後、サイン会には長い列が。

気さくに言葉を交わしたりリピーターの方に「いつもありがとうございます」と声をかけたりと、明るく穏やかな人柄もファンを増やしている様子です。

 

 

終演後のお客様からは、

「こんなにあったかくて、懐に入ってきてくださるような演奏は初めて」

「素晴らしかった。アンコールのハンガリー狂詩曲が胸に迫りました」

と、感動の声が聞かれました。