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【レポート】劇団太陽族 「執行の七人」

みる・きく
会場
サントミューゼ

2016年7月16日(土)・17日(日)

劇団太陽族公演『執行の七人』 

 

関西を拠点に約30年間活動を続けている劇団太陽族。

劇作家・演出家の岩崎正裕さんが主宰する劇団で、社会性を帯びた対話劇を主に発表しています。

今作が上田での初公演です。
題材は、任意加入ながら子どもが小学校に上がると避けては通れないとされる「PTA」。

執行役員に任命された7人の大人たちが会議を繰り広げる90分間の作品で、答えのない討論を展開する対話劇の中から、ユーモアと風刺を含めつつ、現代社会が抱えるさまざまな問題をあぶり出していきます。

 

舞台は、関西のとある小学校の一室。

 

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新年度のPTA執行役員になった7人がぞろぞろと集まってきます。

女性が6人で男性は1人。ジュニアバスケットクラブのコーチも務める女性がPTA会長として、PTA行事の内容を決める会議を進行していきますが、話は二転三転してなかなか進まず。

 

そうした中で、次第に社会が抱える問題が少しずつ浮き彫りになります。

人権問題に差別問題、政治問題に国旗や国歌に対する問題提起、「不審者」に対する考え方、歴史的背景も踏まえたPTAの体制・体質、介護問題などなど…。

その一つひとつが別個の問題ではなく複雑に絡み合っていて、遠い国の話ではなく身近な話題であることに気づかされます。

 

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そんな物語を効果的に支えるのが、岩崎さんが得意とする「歌」や「音」。

冒頭は『くたばれPTA』という刺激的な歌詞のロックバンドの歌で始まり、終盤は雷や雨音が会場の緊張感を高めます。

また、先述の寸劇も童謡『すずめの学校』のパロディであり、これは序盤に合唱で歌う『めだかの学校』の対比として扱われます。

「誰が生徒か先生か」という民主主義的な歌詞の『めだかの学校』に対し

、「ムチを振り振りチイパッパ」と歌う『すずめの学校』が帝国主義的であるということは、

一元化しがちな現在の政治や教育現場への問いかけであるように感じられました。

 

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そして、唯一の男性役員は女性の社会進出を問題視するような発言で女性陣全員を敵に回してしまうなど、会議を通じて女性と男性の合意形成の在り方の違いも鮮明になります。

 

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もつれにもつれた会議は90分で何も決まらず、今回は夏休みのキャンプで歌う「けしゴム」という歌のコーラスを練習して解散となります。
会話のほとんどが関西弁であることも劇団太陽族の特徴であり、この舞台のエッセンスになっています。

取り扱う問題はシリアスで、セリフはズバズバとものを言う直接的な表現なのですが、関西弁が物語全体に独特の和やかさを表現していました。

 

かつ、こうした芝居を支える役者陣も個性豊か。

7人がほとんど出っぱなしなので、対話劇であるため誰が主役というのではなく、誰もに共感も反感も抱く部分があり、行方が見えない討論の中ではそれがリアルさを増します。

結果、まるで自分が登場人物のひとりであるかのように、どんどんと舞台に引き込まれていきました。

 

まるで現代社会の問題の縮図を表現したような90分間。
今作は2年前に大阪で初上演された舞台の再演ですが、現在の実社会のできごとが反映されていて、丁寧に再構成されていました。

 

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そうした今作を通じて感じたのは、演劇だからこそできるリベラルな制作の魅力です。

現代はとかくデリケートな話題に対して自主規制が行われがちで、結果的にそれが社会問題を隠しがちですが、

そうした概念に捉われずに自由な表現ができるのは、演劇、特に小劇場演劇ならではではないでしょうか。

 

実際、この公演に当たって配布されたパンフレットには、「太陽族は小劇場演劇の括りに位置し、スポンサーを持たずに作品づくりをしているから自由に作品を発表できる」という主旨の岩崎さんの言葉が書いてあります。

 

そうした自由表現のうえに成り立つ今作は、PTAという、ある種、閉鎖的な組織を現在の日本社会になぞらえたものと捉えることができ、そこから、現代の社会における民主主義の在り方などを考えるきっかけになるように感じられました。

そして、時にシニカルながらも決して誰かを傷つけることがないような表現と、ウィットに富んだユーモアを含んだ芝居は、作品全体のトゲトゲしさをほどよく削ぎ落としていたように感じました。

 

パンフレットの岩崎さんの言葉には

「観劇の皆さまも、どうぞ自由な感想をお持ちになってください。こんな演劇もあるんだなと感じていただければ幸いです」

ともありました。