サントミューゼ(上田市交流文化芸術センター・上田市立美術館) おかげさまでサントミューゼは10周年

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【レポート】大萩康司 ギター・リサイタル ~クラシックギターのために書かれた20世紀の名曲たち〜

みる・きく
会場
サントミューゼ

11月19日(金) 19:00~ at サントミューゼ小ホール

 

豊かな表現力と確かなテクニックで国際的に活躍するギタリスト大萩康司(やすじ)さんがサントミューゼのリサイタルシリーズに初登場。チケットはリサイタルの1か月以上前に完売していたとのことで、その人気の高さは絶大です。

 

拍手の中で登場した大萩さん、「今日は1900年代を代表する3人の作曲家の作品を、たっぷり演奏します」と笑顔で挨拶しました。

 

最初の曲はラテンアメリカの作曲家、ヴィラ=ロボスによる「5つのプレリュード」。朗々と歌うようなメロディー、音の粒が際立つ旋律、春のように明るいワルツ……。個性の異なる5曲が、美しい音の世界を紡ぎます。微かに響く音、弦の質感を感じさせる存在感ある音。ギターが奏で得る豊かな音色を、フルコースのように堪能させてくれました。

 

 

 

 

マイクを通さないピュアな音色が、ホール全体に響き渡ります。会場にいる全員が音に集中し、聴き入っている気配を感じました。演奏後、「みなさん、すごい集中力ですね!」と客席に語りかけ、笑わせた大萩さん。愛用しているギターはフランスで生まれの「ロベール・ブーシェ」。世界に154本しかないそうです。

「響きの色が豊かなんです。このギターを作ったロベール・ブーシェの本業が画家だったことも、関係しているのかもしれません」

 

続いて、今年生誕100周年を迎えたアルゼンチンの作曲家、アストル・ピアソラの曲へ。ジャズやクラシックの要素を融合させ、タンゴの世界に革命を起こした人物です。

「ピアソラが実験してみたかったことが、この曲に盛り込まれています」

演奏前、軽く鼻に触れて呼吸を整えます。先日のアナリーゼで話していたように、指先に鼻の脂をつけて弾きやすくしているのでしょう。

 

哀愁と情熱が同居したメロディー、和音の美しさ。3曲目「アクセントの利いたタンゴ」では弦を打ち鳴らすパーカッション奏法、本来のアクセントと違った場所にアクセントを置いて独特の躍動感をもたらす「シンコペーション」を織り交ぜつつ、色香漂う音色で魅了します。続く「うら悲しいタンゴ」は切ない音色が印象的。最後の「伊達男のタンゴ」は、リズミカルで生命力あふれる旋律に時折メランコリックな表情が混ざり合います。最後はいきいきと締めくくりました。

 

休憩を挟んだ後半は、ピアニストの河野紘子さんと登場です。河野さんは大ヒットした「のだめカンタービレ」のドラマと映画で、主人公のピアノ演奏シーンの手と音の吹き替え、さらに現場での指導も担当したピアニストです。

 

 

 

 

演奏した曲は、ホアキン・ロドリーゴ作曲「アランフェス協奏曲」です。

第1楽章、ピアノの可憐な音色の上で躍動するギター。優美な中に、スペインの作曲家らしい情熱的なリズムを感じます。かき鳴らすようなギターの音色ときらきらとしたピアノの音の調和が素晴らしく、音楽を通じて二人で対話しているかのよう。第2楽章は哀愁漂うゆったりとしたメロディーに、しみじみと聴き入ってしまいます。ギターのネックを体に寄せ、寄り添うように演奏する大萩さん。低音も美しく、奥行き豊かな音色で魅了します。

最後の第3楽章は活気があり、踊り出したくなるメロディー。盛り上がる部分が気持ちを高揚させると同時に、優美さも感じさせます。ラストの繊細な手の動きも印象的でした。

 

演奏を終えると大きな拍手の音が会場を包み、鳴り止みません。それに応えて再び登場した大萩さんは「ありがとうございます」と笑顔で挨拶。

「クラシックギターのコンチェルト(独奏楽器とオーケストラとが一緒に演奏するクラシック音楽)と言えば、この『アランフェス協奏曲』が有名です。色々なオーケストラで弾いてきましたが、ピアノと2人で演奏するとギターの音が一番聴こえるので、サントミューゼのこのホールで演奏できるのならと、河野さんにお願いしました」

 

河野さんと共にアンコールで演奏したのは、マルコム・アーノルドの「セレナーデ」。そして再びのアンコール。披露したのは、「タンゴ・アン・スカイ(なめし皮のタンゴ)」です。本来はアルゼンチンの音楽であるタンゴを、フランス人作曲家であるR.ディアンスが真似て作ったという曲。心地よいリズムに乗って、情熱を秘めた洒脱なメロディーを奏でます。

 

美しくフィニッシュを迎えると、さらにアンコールの拍手が!

「私は乗せられてしまうと…」と苦笑しながら再びステージに登場した大萩さんに、会場から笑いが起こります。「さっきの曲で元気よく終わろうと思ったのですが(笑)、せっかく11月なので11月の曲を」と語ると、曲目を予感した客席から早くも拍手が起こりました。

 

 

 

 

ギター1本で弾き始めたのは、キューバの作曲家、L.ブローウェルによるクラシックギターの名曲「11月のある日」です。切なく美しいメロディーは音の余韻さえも甘く美しく、しみじみと聴かせます。ホール全体の空気を震わせる温かな音色が、この夜の最後を彩りました。普段はなかなか堪能できないクラシックギターの生演奏の魅力を、余すことなく味わえた一夜でした。

 

【プログラム】

エイトル・ヴィラ=ロボス:5つのプレリュード

第1番 ホ短調「叙情のメロディー」

第2番 ホ長調「カパドシオ(リオの下町の伊達男)の歌」

第3番 イ短調「バッハへの讃歌」

第4番 ホ短調「インディオへの讃歌」

第5番 ニ長調「社交界への讃歌」

アストル・ピアソラ:5つのタンゴ

1、平原のタンゴ(Campero)

2、ロマンティックなタンゴ(Romantico)

3、アクセントの利いたタンゴ(Acentuado)

4、うら悲しいタンゴ(Triston)

5、伊達男のタンゴ(Compadre)

ホアキン・ロドリーゴ:アランフェス協奏曲(ピアノ:河野紘子)

第1楽章 アレグロ・コン・スピリト(Allegro con spirito)

第2楽章 アダージョ(Adagio)

第3楽章 アレグロ・ジェンティーレ(Allegro gentile)

 

〈アンコール〉

マルコム・アーノルド:セレナーデ

R.ディアンス:タンゴ・アン・スカイ(なめし皮のタンゴ)

L.ブローウェル:11月のある日