サントミューゼ(上田市交流文化芸術センター・上田市立美術館) おかげさまでサントミューゼは10周年

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【レポート】アナリーゼワークショップ Vol.69~宮田大(チェロ)~

みる・きく

【レポート】アナリーゼワークショップ Vol.69~宮田大(チェロ)~ 
2024年1月25日(木)19:00~20:00
サントミューゼ小ホール

圧倒的な演奏で世界を魅了し続けるチェリスト、宮田 大さんのリサイタルが3月25日にサントミューゼで行われます(チケットは完売)。この日はリサイタルで共演するピアニストの山中惇史さんと一緒に、アナリーゼワークショップを行いました。

ステージに登場し、最初に演奏したのはサン・サーンス作曲「白鳥」。優美でどっしりとしたチェロの音と、きらめくようなピアノの音の重なりが味わい深く、ぐっと引き込まれました。

「今回はアナリーゼワークショップですが、せっかくなので色々な曲を聴いてください」と宮田さんが挨拶すると、客席からは喜びの拍手が。「トークもたくさんお届けします」と山中さん。

宮田さんのチェロは1698年製ストラディバリウス。小さな音もしっかり響くそうです。非常に価値が高い楽器ですが、「テレビの格付けの番組にストラディバリウスの楽器がよく出てくるんですが、テレビを見ていてもいつも正解できないんです」と宮田さん。「ご自分で弾いてらっしゃるのに」と呆れる山中さんのツッコミが会場の笑いを誘いました。

「海外では教会で演奏することも多いんです。天井が高く、音がきれいに響きますね。チェロはピンで床に固定して弾くので、床も大事な要素。サントミューゼのこの小ホールはいいですね、しびれます。よく響くから、演奏中に足がかゆくなるくらい(笑)」

ここでチェロのソロ曲、マーク・サマー作曲「Julie-O」を。有音と無音、音の強弱、リズムの緩急。あらゆるバランスが美しく、洒脱さ、美しさ、切なさと、豊かな表情を見せました。

弓だけでなく、掌や指も使って様々な音色を表現するのがこの曲の特徴。「チェロは技法により様々な音を出すことができます。三味線のような音、文楽の太夫さんの声のような音、日本の太鼓や篳篥(ひちりき)のような音も」と、実際に音を聴かせてくれました。

続いて山中さんがピアノについて解説。「リサイタルのチケットは、ステージに向かって左側の席から売れます。手元が見えるからですね。でも実は、右側の席の方が音が良いんです」と意外な言葉。

リサイタルを見る際は、足元のペダルも注目するポイントだそう。素晴らしいピアニストほど、足元で微細なニュアンスをつけて演奏する。そう話す山中さんがソロで披露したのは、ラフマニノフ作曲「鐘」。足元のペダルを細かく操作していることが分かります。高貴でありながら野生味があり、情熱的で不気味さも宿す素晴らしい音色でした。

演奏後、「聴いていて大きな鐘の姿が見えるようでした。無音の部分も印象的だった」と宮田さん。「ピアノは弦楽器と違って、出した音がだんだん消えてしまう。それが人の命を感じさせると思います」と山中さんは話しました。

演奏前、弦楽器が音程を合わせるためにピアノの「ラ」の音を出して合わせます。「同じラでも、ピアノ奏者によって出す音が違う」と宮田さん。「明るいラ、暗いラ、不思議なラ。その方がどういう音を作るか、シンパシーを感じられるかが、最初のラで分かります」。山中さんも「リハーサルの最初の3音か4音で、その方との未来が分かりますね」。お二人の最初の印象がどうだったのか、気になるところです。

興味深かったのは、楽器との付き合い方の話。山中さんいわく「演奏していない間、ピアノの細胞は眠っている」。コンサートホールに到着後、練習やリハーサルで1時間ぐらいかけながらピアノを「起こす」ことで、本番の音はまったく違うものになるのだそう。

宮田さんは、自身が10年近く使っている名器ストラディバリウスとの関係を話してくれました。

「最初の3〜4年は、楽器と仲良くなれなかったんです。理想の音を求めても反応してくれなくて。けれどだんだん、チェロ自身がどういう音を出したいかを信じることを私が覚えました。僕が弾いても『今は黙ってなさい』とチェロが言っていると感じることもあります」

海外でのユニークなエピソードも。イタリアのホールは、演劇やダンスの足元まで客席から見えるよう、舞台が客席に向かって傾斜しているのだそう。宮田さんが本番用に用意された椅子はキャスター付きだったため「滑らないように踏ん張って演奏しました」と笑います。

続いて演奏したのは、カッチーニ作曲「アヴェ・マリア」。イメージを広げることを大切にしている宮田さんは、演奏前にこんなことを話しました。

「音楽では、時に矛盾した気持ちを表現することもあります。音楽では過程が大切で、感情は一つだけではなくグラデーションを描いている。この曲も、悲しみだけでなく希望や立ち向かう気持ちが伝わってきます」

そう話して始めた演奏からは、自分の内側の感情に真摯に向き合っていることが伝わってきました。悲しさの中に希望があり、静かに力を与えてくれる一曲です。

最後に、3月のリサイタルのプログラムから2曲を演奏しました。まずはピアソラ作曲・山中惇史編曲「天使の組曲」から「天使のミロンガ」。優しく、儚く、時に激しい。様々な感情を呼び起こされました。チェロの弦を指でこすって出すオオカミの遠吠えのような音が印象的。

最後は、山中さんがまど・みちおさんの詩に合わせて作曲した「うたをうたうとき」を。柔らかな布でくるまれるような温かさを感じる、素晴らしい時間でした。演奏後のお二人はとてもいい笑顔。3月のリサイタルでも、素晴らしい音色で魅了することでしょう。