サントミューゼ(上田市交流文化芸術センター・上田市立美術館) おかげさまでサントミューゼは10周年

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【レポート】MONO第51回公演 『御菓子司 亀屋権太楼』

みる・きく

【レポート】MONO第51回公演 『御菓子司 亀屋権太楼』 
2024年3月23日(土) ~24日(日) 14:00開演
サントミューゼ 大スタジオ

サントミューゼでは4年ぶりとなる、劇作家・演出家土田英生さん率いる劇団MONOの公演。今回は新作の『御菓子司 亀屋権太楼』です。和菓子店を舞台に、とある年の3月からはじまる約10年間を描きます。

大スタジオに設えられた舞台は、寄木細工のような3つの壁面に囲まれ、楊枝を模したと思しき棒が飾られています。

暗転してふたたび明るくなると、店の法被を着た田代祐吉とスーツ姿の兄・田代吉文(よしふみ)が舞台に登場。吉文が吹く下手な口笛は、庭の梅の木に来ているメジロの真似でしょうか。祐吉はそんな兄を鬱陶しく感じながら、亀屋権太楼の“経歴詐称疑惑”で世間から受けているバッシングについて話します。誠実で仕事もできる祐吉と、一癖ありどこかだらしない吉文は対照的です。

中部地方のとある都市という設定で、一人称は「わち」。土田さんの郷里・愛知県大府市の尾張弁に似ているけど違う、独特の“MONO方言”が飛び交います。

装置の転換は役者の手によって、一定の所作で行われます。場面変わって亀屋権太楼の休憩室。和菓子職人の道庭と事務職の青山は幼馴染。恩のある先代・権蔵のことを回想しつつ、店のこれからを案じています。今時の青年風のアルバイト・北川も加わり、老舗を騙った経歴詐称の内実が語られました。

経営を立て直す助っ人として吉文の娘・早紀が連れてきたのが、卓球部時代の先輩であり日本茶の資格を持つ奈良原瞳。和風カフェ部門を立ち上げ、店名は「ケイムアンドゴーン」に変えることを提案します。店のテラス席に座る奈良原を見た北川は、奈良原を客でもないのに勝手に居座る女と勘違いし、横柄な口調で応対。さっきまでの好青年ぶりと違う顔です。

半年後、先代の納骨に立ち会った喪服姿の青山、道庭、北川に、祐吉は事実と判明した店の経歴詐称を世間に公表・謝罪することを伝え、和風カフェの構想も披露しました。新しい門出だと和やかな雰囲気になったところに吉文が登場し、気まずい空気が流れます。

さらに1年半後、亀屋権太楼あらためケイムアンドゴーンは売上回復したものの、利益率の低下、新商品「わびごと」の注文増への対応など新たな課題が。いつのまにか奈良原を「トミー」呼ばわりする祐吉に違和感を覚えた早紀は、祐吉には「今の祐ちゃんは好きじゃない」、奈良原には「仕切りすぎ」とぶつけてしまいます。一方、吉文は青山を引っ張り込んでいかにも怪しい男・佐倉と密会し、経営権の奪取を目論んでいる模様。再出発しても水面下ではさまざまな軋轢が生まれているようです。

さらに1年半後、社長だったはずの祐吉は職人姿で休憩室にいます。吉文の計画は成功したようです。道庭と青山の関係も悪化してとげとげしい会話が続きますが、いつの間にか笑える方向にズレていくところに、切っても切れない幼馴染の関係性が滲みます。

佐倉と吉文の関係にも亀裂が。「スピードが大事だ」ともっともらしいことを言う佐倉は、入れあげているトルコ人女性に貢ぐために亀屋権太楼を使っていると吉文から責められます。吉文は吉文で、何もしていないことを佐倉になじられ、挙句「わち、そろそろ抜けようかな」とはしごを外される羽目に。

カフェで経理仕事をしている奈良原のところに青山が「寂しいんだわ」とやってきます。青山と道庭、奈良原は被差別部落である三ツ原地区の出であることが明かされます。差別される側の感覚を共有し、打ち解けるふたり。

1年半後、祐吉が社長に戻ってようやく落ち着いてきた店に、吉文が一従業員として戻ってきました。父親を嫌う早紀と慣れない仕事に一から取り組む吉文のダイアローグで父娘の来し方が語られます。

さらに2年弱が経った年の瀬。かつての経歴詐称がふとしたことで再燃し、亀屋権太楼はひどいバッシングに遭って経営悪化、銀行にも追加融資を断られ追い詰められた祐吉が失踪します。今度こそもうダメかと、それぞれの身の振り方を考える従業員たち。

とあるカフェで、見つかった祐吉と早紀と吉文が向き合います。心を閉ざし「自分に疲れた」と俯く祐吉に、吉文は「真面目で謙虚ですぐに謝るお前は、まだまだ負け足りんのだわ」と意外な言葉を掛け、おもむろに祐吉の頭を「よしよし」と撫でました。反発する祐吉に「諦めんで。隙を見計らって、頭撫でたるわ」という吉文。いくつになっても頭を撫でてくれる人は必要で、自分にとっても弟の頭を撫でることは必要と言う吉文は、弟を思う兄の顔をしていました。

建設作業員姿の北川が、母親と携帯電話で話をしています。佐倉の甘言に乗りトルコ人女性と偽装結婚した北川は逮捕され、人生やり直し中。今日の現場は自分がかつて働いた亀屋権太楼で、店はもうないこと、今日の仕事は庭の梅の木を伐ることだと電話越しに話します。ずっと亀屋権太楼の悲喜こもごもを見つめてきた梅の木が、ついになくなる――。音楽が被さって電話の会話が遠のき、幕切れです。

劇団結成から35年経ち、「新しいことをやってみたかった」という土田さんは、10年の経過を細かい場面転換でオムニバスのように仕立てる初めての形態に挑戦しました。どの場面も会話の面白さとリアリティは抜群で、長い時間を追うことでいい人のそうでない顔が現れたり、悪役の憎めない一面が出てきたりと、人の持つ多面性と諸行無常を大胆に浮かび上がらせていました。

終演後は、京都の老舗和菓子店が再現した劇中に登場する菓子「はしけやし」やグッズ、台本などを買い求めるお客様の姿がありました。

お客様に感想を伺いました。

「大スタジオは舞台と客席が近くて、ドキドキしながら観ました。めでたしめでたしでないところにホロッとしました」と話してくれたのは、おひとりで来られた女性。安曇野市の男性は、2023年に土田さんを講師としてまつもと市民芸術館で行われた「台本づくり講座」に参加されたそうです。「日頃の風景、ふつうの会話や言葉のフィーリングがこんなにドラマティックになるんだと驚きました。シリアスさの中に滑稽さがあるのもよかったです」と、余韻をかみしめながら話してくれました。