サントミューゼ(上田市交流文化芸術センター・上田市立美術館) おかげさまでサントミューゼは10周年

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【レポート】アナリーゼ・ワークショップVol.70~金子三勇士(ピアノ)〜

みる・きく体験する
開催日
時間
19:00~
会場
サントミューゼ 小ホール

新緑の季節にサントミューゼで毎年行われる人気ピアニスト、金子三勇士(みゆじ)さんのリサイタル。今年で9回目を数えます。5月18日のリサイタルに向けて、アナリーゼワークショップが開催されました。客席には多くのお客様の姿。アナリーゼワークショップに初めて参加するという方も多くいました。

今年のリサイタルのテーマは「舞曲」。ステージに登場した金子さんが最初に演奏したのは、ブラームス作曲「ハンガリー舞曲 第5番」です。奥行きのある美しい和音が響き渡りました。

「『ハンガリー舞曲』は、もともと連弾曲として作られたものが一人演奏用にアレンジされています。とはいえ実際はほとんどアレンジされていなくて、2人で弾いていたものを“頑張って1人で弾く”ので超絶技巧が必要です(笑)。ハイリスクの演奏を楽しんでください」

金子さんの言葉に客席からは笑い声が。タイトルからハンガリーの民族舞曲を元にしていると思われがちですが「実は違うんです」と金子さん。当時、ヨーロッパ各地にいたロマ(ジプシー)音楽集団が奏でる異国情緒あふれる音楽にたまたまハンガリーで出会ったブラームスがいたく感動し、この曲を作ったのだそう。

金子さん自身のルーツでもある国、ハンガリー。続いてハンガリー人の作曲家、バルトークについて解説しました。今回のリサイタルで演奏する「6つのブルガリアリズムによる舞曲 第4番 ~リサイタル・パッシオテーマ曲~」は、金子さんがMCを務めるラジオ番組でも使われている曲。冒頭の一部分を演奏してくれました。ジャズを感じる洒脱なリズムとメロディーが印象的です。

かつてハンガリー王国の隣国だったブルガリア。そのリズムには独特な魅力があるそうです。

「基本的に奇数拍子なんです。しかも最低でも5拍子。7拍子、9拍子もあります。曲に合わせて踊るのも大変ですね。バルトークはこうした変わったリズムに興味を持ち、ブルガリア風舞曲を書いたと言われています」

プログラムには同じくバルトークの「6つのルーマニア民族舞曲」も。作曲当時、タイトルには「ハンガリー」と入っていたそうですが、戦争で国土の一部がルーマニア領土になってしまったことから悩んだバルトークが出版社に頼み、第2版からタイトルを「ルーマニア」に変えてもらった逸話があるといいます。

6つの短い舞曲で構成されるこの作品。当時の民族の踊りを再現した写真も見せながら、一部を演奏してくれました。棒を使って集団で激しくパフォーマンスをする「棒踊り」の曲は、異国情緒漂う楽しい雰囲気。ガラス瓶を頭に乗せた女性たちが落とさないように踊る「ガラスの踊り」は、あやしく緊張感のあるメロディー。「ロマンティックな雰囲気で演奏される方もいますが、そうすると瓶が落ちてしまうんですよね」と金子さんが話すと笑いが起こりました。

続いてショパンの「猫のワルツ」。有名な「子犬のワルツ」は子犬が自分のしっぽを追いかけて遊ぶ様子を描いていますが、こちらは「なぜ猫?」と思うような洒脱なメロディー。「中間部にタイトルの理由が分かる部分があります」。猫がにゃーんと鳴きながら走り回るイメージの部分を、みずから「にゃーん」と鳴きながら演奏してくれました。

リストの「メフィスト・ワルツ 第1番」は、戯曲「ファウスト」に登場する悪魔、メフィストを元に書かれたワルツです。当時の作品の挿絵を紹介しながらあらすじを解説してくれました。演奏したのは冒頭の一節。何かが始まりそうな低い旋律と速い3拍子がドラマチックです。

プログラム第二部はベートーヴェンの「ピアノ・ソナタ 第23番『熱情』」から。意外にも、第3楽章の最後が舞曲なのだそう。

「ベートーヴェンは作品にタイトルをつけることを本当に嫌っていたそうです。でも出版社としては、タイトルがないと売れない。そんな大人の事情から、本人が亡くなった後にタイトルが付けられています。ひどい話ですよね」

出版社の担当者がベートーヴェンの弟子に頼み込み、この曲をイメージするキーワードを本人から聞き出してもらって生まれたのが「熱情」というタイトルでした。

プログラムの最後は再びリストの作品です。リストはベートーヴェンの弟子ツェルニーの教え子。つまり、孫弟子のような関係です。「だからこそベートーヴェンからリスト、という構成にしました」と金子さん。

「死の舞踏」は、14世紀の壁画を元に生まれた曲です。ガイコツたちが踊るその絵を紹介し、「死の直前、恐怖から気が狂って踊り出す様子を描いたそうです」と解説。リストの他にも多くの作曲家がこの壁画を元に作品を生み出しています。

元は長いオーケストラ曲ですが、音楽番組「題名のない音楽会」で「5分に短くして演奏してくれないか」と依頼された金子さん、メドレー形式にアレンジして演奏したそうです。しかもハロウィン特集だったため「収録は死神の格好で演奏しました(笑)」と驚きのエピソードも。「それがなかなか良くできたので、今回も演奏します」と話してくれました。

披露した一節は、恐怖感と同時に不思議な明るさがあるダイナミックなメロディー。プログラムの最後にふさわしいグルーヴ感に、当日の演奏が楽しみになりました。