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【レポート】加藤文枝~アナリーゼワークショップvol.27~

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アナリーゼ(楽曲解析)ワークショップVol.27 加藤文枝チェロリサイタル関連プログラム

お話:加藤文枝

12月7日(金) 19:00~ at サントミューゼ小ホール

 

全国でソロリサイタルを開催し、数多くのオーケストラと共演しているチェリストの加藤文枝さん。

1月26日(土)には、サントミューゼで、「〜作曲家からのラブレター」と題したチェロリサイタルの開催が控えています。

 

リサイタルをより楽しんでもらうために、楽曲の魅力を加藤さん本人が独自の視点を交えながら分かりやすく解説するアナリーゼが行われました。

 

 

 

ピアニストの小澤佳永さんとともに登場した加藤さん。最初にシューベルト作曲の歌曲集「白鳥の歌」より、有名な曲「セレナーデ」を二重奏で叙情的に聴かせます。

シューベルトは「歌曲の王」と呼ばれたドイツ・ロマン派の作曲家。

しかし彼の曲にはフレーズの繰り返しが多く現れ、長い曲が多いこともあって「実は、昔は得意ではなかったんです」と話す加藤さん。けれど演奏を重ねるうち、彼の音楽の魅力に気づいたのだそう。

 

そんな加藤さんが感じるシューベルトの魅力は4つ。

自身が病気がちで、常に死の気配を感じていたことから生まれた孤独。

故郷や何気ない日常を愛する素朴さ。

ありふれた日常もいつ終わってしまうか分からないから『終わりたくない』という思いから生まれる繰り返し。

そして、クラシカルな形式を重んじることで作り出される風格です。

 

 

 

これらの魅力を、1月のリサイタルで演奏する「アルペジョーネ・ソナタ イ短調 D821」の曲を例に挙げて具体的に解説していきました。

タイトルの「アルペジョーネ」は、19世紀に生まれた古い楽器の名前。

シューベルトは当時、できたばかりのこの楽器のために曲を書いたのですが、楽譜が出版される頃にはアルペジョーネはすっかり廃れていたそう。けれど曲が魅力的だったため、いろいろな楽器で演奏されるようになりました。

 

 

まずはソナタ形式の第1楽章。第1主題には、「和声の魔術師」と呼ばれたシューベルトの魅力が冴え渡ります。

「例えばこの部分」と注目の和声をピアノで取り出して演奏すると、複雑で美しい響き。少し危うささえ感じ、ぐっと引き込まれます。

 

第2主題のクライマックスは「シューベルトの“終わりたくない病”です」と加藤さん。

「普通ならこうですよね」と、標準的な構成を一度演奏した後に実際の曲を弾いてみると、驚くほど何度も繰り返される美しい和声。

彼の思いが伝わってくるようです。

 

ドラマチックに転調することが多い展開部は、最初の「提示部」を長調にしたもの。

それにより、雰囲気は変われど曲全体が統一された印象に仕上がっているのです。

 

「私たちがきれいだと感じる音楽には、作り手の努力と工夫が込められているんです」

 

序奏から美しい第2楽章は、演奏者にとても人気が高いそう。

注目は音域の工夫です。

チェロの低い音域に対してピアノの音域をあえて高くすることで、チェロの音色が浮かび上がるよう工夫されています。

 

第3楽章はロンド形式。

第1楽章の冒頭部分をから調性と拍を変えた部分や、第1楽章の第2主題を異なる表情で描いた部分など、曲の中で緻密に関連づけることで世界観を統一していることを解説してくれました。

 

 

途中で現れるのは、チロル地方を思わせるゆっくりとしたメロディー。

シューベルトの故郷、オーストリアを彷彿とさせます。

 

そして最後は、彼らしい「終わらない、繰り返し」。

「聴衆から大きな拍手が起こるような華やかな終わり方ではなく、ほっこりと謙虚に終わるのがこの曲の魅力です。私はドイツを旅して公園を歩いた時、『ここにはフランスのヴェルサイユ宮殿のようなきらびやかさはないけれど、住んでいる人が落ち着ける場所なのかもしれない』と感じました。ドイツの音楽も、ワクワクするよりも落ち着けるような良さがあるのでしょう」

 

 

最後に第1楽章を演奏してくれたお二人。シューベルトの魅力、思いを知った後だからこそ、より味わい深く響いてきました。

1月のリサイタルでは全3楽章を通して、彼の世界をもっと堪能できることでしょう。

 

 

リサイタルの詳細はコチラ