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【レポート】茂木大輔~アナリーゼワークショップvol.29~

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アナリーゼ(楽曲解析)ワークショップ vol.29

茂木大輔の“生で聴く「のだめカンタービレ」の音楽会”関連プログラム 茂木大輔 アナリーゼワークショップ

2018年12月13日(木) at サントミューゼ大スタジオ

 

 

2019年1月12日に行われるコンサートに先立ち、指揮者を務める茂木大輔さんによるアナリーゼワークショップが行われました。

テーマはムソルグスキー作曲(ラヴェル編曲)『展覧会の絵』です。

スクリーンに映し出されているのは、この作品に大きく関係しているロシア人画家・ガルトマン、その5歳年下のロシア人作曲家・ムソルグスキー、そして管弦楽の魔術師といわれているフランス人作曲家・ラヴェルの3人です。

 

 

「ガルトマンは世界中を旅して絵を描いており親友だったムソルグスキーによくその話を聞かせていました」と2人の人間性や関係性を解説します。

1874年にガルトマンは39歳の若さで亡くなり、ムソルグスキーは大きなショックを受けます。

悲痛な想いを抱えたままガルトマンの遺作展を見に行ったムソルグスキーは、作品の中から10枚の絵を選びピアノ曲を作曲します。

「本当に見た絵を10枚選んで創作したのか、もともとない絵、あるいは聞いた話を絵として取り扱ったのかはわかりません」と茂木さん。

 

 

実際にそのピアノ曲の『プロムナード』を聴いてみます。

「展覧会の絵から絵へと歩いて行く間の気分を音楽にしたもので、これが画期的。前の絵の雰囲気から次の絵の雰囲気に音楽の中で移り変わっていくという非常に天才的な効果を持っています。このプロムナードにも注目して欲しい」

といいます。

 

完成後もほとんど演奏されることがなかった『展覧会の絵』ですが、ロシア人指揮者でボストン交響楽団のクーセヴィツキーが、フランス人作曲家のラヴェルにこの曲を管弦楽に編曲して欲しいと依頼します。

1月12日に演奏されるのは、このモーリス・ラヴェルが編曲した管弦楽版です。

 

「この曲の大きな魅力はまず短いということ。そして10枚の絵にすべてタイトルが付けられているので、絵を想像しながら聴いたり、指揮や演奏できること」

だといいます。

アクの強いロシア風の音楽とモーリス・ラヴェルの持っているフランス風の絢爛な管弦楽の両方を楽しめる曲として世界中のオーケストラで演奏されるようになりました。

 

 

またアレンジとオーケストレーションという言葉がありますが、これは似て非なるもの。

「原曲のテンポやリズム、キーを変えるアレンジに対し、オーケストレーションとは原曲を管弦楽に忠実に振り分けていくこと。作曲家はつい自分の価値観に合わせ手を加えてしまいがちですが、ラヴェルはほとんど原曲のまま。意識的にわずか数個の音を変えていますが、ほぼ変えていない。それが自分に与えられたオーケストレーションという使命だと感じていたのでしょう」

 

1曲目「こびと」をスクリーンに映し出されたガルトマンの絵を見ながら聴きいてみます。

「コントラバスやチェロなどの音を重ね不気味で素早い動きを表現しています。また金塊がピカッと光っている様を鍵盤楽器のチェレスタで表現しています。打楽器を重ねるというのは編曲を担当する作曲家の高度な技術を要求される部分です」

と茂木さん。

 

2曲目の『古城』では原曲のピアノ曲を聴き、編曲する場合メロディ部分に合う楽器は何がいいと思うか?と参加者に問います。

会場からは「コール・アングレ(イングリッシュホルン)」という声が上がります。

「正解はないんだけど、いい答え。これは明らかにアリアの雰囲気を持っているので、イングリッシュホルンはとてもいい」と、うなずきます。

さらに楽器の音域を考えながら、ヴァイオリン、クラリネット、ファゴット、オーボエやフルート、ハープとあげていき、手が上がらなくなったところでラヴェルが編曲した曲を聴きます。

なんと当時の管弦楽ではほとんど使われたことがないというサクソフォンで演奏されていました。

 

 

さらに絵を見ながら曲を聴いていきます。

『牛車』ではバス・チューバのソロがあります。現在では吹奏楽用の楽器、ユーフォニアムで演奏することが一般的で1月のコンサートでもこの楽器で演奏する予定です。

そして『卵の殻をつけたひよこの踊り』では木管楽器で追いかけるニワトリをイメージさせ、『リモージュ』では会話の中へ別の会話が割り込んで大騒ぎという風景を楽器で振り分け。

『カタコンベ』では突然、金管楽器主体の厳かな死者の世界へと変わります。

そして最初、単音で始まったプロムナードは最後にもう一度よみがえり偉大な音楽にと、オーケストレーションに優れた曲と効果的に使われている楽器を解説してくれました。

 

 

 

「ガルトマンは偉大な建築家になれるはずだったのになれなかった。それをムソルグスキーは音楽の世界で描き、ガルトマンの作品が永遠に人々の心の中に残るよう作りあげたのです。それがラヴェルはわかっていたので絢爛なオーケストレーションをほどこしたのでしょう。4人の天才がいなければ生まれなかった作品だったと思います」

 

またチャイコフスキー『1812』についての解説を参加者から求められると、

「コンサート当日はナポレオン戦争のスライドをいっぱい出しますので、美術の点からも見て、聴いて頂けたらと思います。大砲は私がものすごくこだわりシンセサイザーで作りました。祝砲と戦争で撃つ大砲の音は違いますからよく聴いてください」

と茂木さん。

 

 

オーケストレーションの魅力、絵画とのコラボレーションなど非常に内容の濃いワークショップになりました。