【レポート】新居由佳梨~アーティスト・イン・レイデンス~川西地域
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2018年10月4日(木)
上田市立川西小学校 クラスコンサート
木の香るような真新しい上田市立川西小学校の音楽室で、ピアニストの新居由佳梨さんによるクラスコンサートが行われました。
鍵盤ハーモニカでチャイコフスキーのくるみ割り人形より「行進曲」を奏でながら入場してきた新居さんは、着席して待ち受けていた5年1組22人の児童ひとりずつと目礼を交わします。教室をひとまわりするとピアノの前につき、その続きを弾き上げました。
驚きな演出に、子どもたちから大きな拍手があがります。
最初にラフマニノフの「鐘」を演奏。
反動で鐘が鳴るが如く、ピアノの力強い音色が響きました。
続いて「ピアノの話をします」と新居さん。ピアノは「楽器の王様」とも呼ばれ、重さは300~500㎏ほど。鍵盤の数は88鍵あります。
音の出る仕組みを新居さんは持参した「アクションモデル」を用いて見せてくれました。
興味津々で見入る子どもたちは、音を出すための部品が1万個ほどもあることを知り、驚きの声をあげます。
たくさんの部品のなかでもピアノの心臓部ともいえるのが「響板」という薄い木の板です。これがどれほど重要か、新居さんはわかりやすく実演してくれました。
持参したオルゴールを手に持って鳴らしたときと、響板に当てながら鳴らしながらときでは、音の大きさ、響き方がまるでちがいます。
新居さんは子どもたちをピアノのまわりに呼び集め、声をかけます。
「下に潜ってもいいです。さわってもいいです。振動を感じてください」。
ショパンの「子犬のワルツ」が演奏される間、子どもたちはピアノの下に潜り込んだり、響板にそっとふれたり、新居さんの指の動きに見入ったり。
それぞれにピアノからの振動を間近に感じていました。
続いて新居さんは「弦がどれだけ震えているか、感じてください」と声をかけます。
ひとりずつ順番に、一番太い弦の端を人差し指でそっと触れると、新居さんが鍵盤を叩きます。
子どもたちは咄嗟に指を引っ込めたり、目を見開いたり、ビクッと身体を震わせたり、想像以上の振動に驚いていました。
席に着いた子どもたちに、「今日、私はここへ何をしに来たでしょう。なぜピアノを弾くのでしょう。ただ音楽を聴いてほしいのなら、CDを流せば済むかもしれません。でも、今日はここでしかできない音楽をみんなに届けたいと思っています。今、私がここで感じていることを音楽で表現しますから、みんなは、その音をどう感じたか、私に教えてください」
と新居さんは話しました。
そして新居さんは「この曲は、明るい音楽ですか、暗い音楽ですか」と問いかけて、曲名を明かさないまま演奏をはじめます。
聴き終わり、それぞれ感じた方に挙手する子どもたちに新居さんは言います。
「これはクイズではありません。正解があるわけではありません。目に見えないものを想像して、自由に感じてください。次の曲は、風の音楽ですか、水の音楽ですか」。
2曲目を聴き終わった子どもたちは「川に流れるキラキラした水」「急に吹く強風」「川のはじまりからポタポタと水が落ちて、流れになっていく」など、それぞれが感じたこと、思い浮かべたことを述べました。
最後の問いかけは「この音楽は、怒っている? 笑っている?」。
子どもたちは「跳ねる音が笑っているみたいに聞こえた」「低くて強い音だから、男の人が怒っているみたいだった」と答えます。
なかには「夜中に泥棒が入って、ヒッヒッと笑ってしまって、バレそうになったけど大丈夫だった」という物語を話してくれた子もいました。
新居さんはみんなの感想に耳を傾けながら話します。
「同じ場所で同じ時間に同じ音楽を聴いているのに、感じ方はそれぞれで、個性があります。自分が感じたことを大事にしてください。そして、友だちの意見も同じように大事にしてください」
最後の曲は、これまでとは反対に「曲名を聴いて、そこから想像して聴いてください」と新居さん。
そしてドビュッシーの「雨の庭」を弾きあげました。
最初から最後まで心をつかんで離さない新居さんの演奏に、「ピアノの仕組みを知れてよかった」「高速でピアノを弾く姿を見て、プロの人はすごいと思った」「音楽からこんなにいろんなことを想像できることにびっくりした」など、それぞれの感想を述べました。
ちなみに。曲名を明かさないまま演奏された曲は、エルガーの「愛のあいさつ」、サンサーンスの「水族館」、ドビュッシーの「ゴリウォーグのケークウォーク」でした。
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2018年10月6日(土)14:00開演
ワンコイン 地域ふれあいコンサートvol.43 at 川西公民館 大ホール
プログラム
エルガー:愛の挨拶
スカルラッティ:ピアノ・ソナタ イ長調 K.208
ラフマニノフ:前奏曲 op.3-2 嬰ハ短調「鐘」
メンデルスゾーン:無言歌集より ヴェニスの舟歌
ドビュッシー:版画より 雨の庭
リスト:ラ・カンパネラ
ドビュッシー:アラベスク第1番
ショパン:バラード第1番 ト短調 op.23
アンコール
映画「海の上のピアニスト」より「愛を奏でて」
窓からなだらかな上田地域の山々が見える川西公民館で、ピアニスト・新居由佳梨さんのワンコインコンサートが開催されました。
「挨拶代わりに」とエルガーの「愛の挨拶」からスタートしました。
つづくスカルラッティの「ピアノ・ソナタ イ長調 K.208」は、爪で弦を弾いて振動させて音を出すチェンバロのために作られた曲ということから、チェンバロとはどのような楽器だったのかを話しました。それから200年後には現在のようなピアノの形になり、小さな音から大きな音まで豊かな響きを出すことができ、遠くまで聴こえるように進化。
ラフマニノフの「前奏曲 op.3-2 嬰ハ短調『鐘』」では、大きく鳴り響く鐘、遠くでわずかに聴こえる鐘とさまざまな鐘の音がピアノで表現されていました。
メンデルスゾーンの「ヴェニスの舟歌」はとても短い作品でありながら、美しいメロディーを情感豊かに演奏。
ドビュッシーの「版画より 雨の庭」は雨の様子をスタッカートで表現する部分が聴きどころであると、作品の演奏に関する特徴を交えてから披露しました。
後半ではリストの「ラ・カンパネラ」を披露。跳躍したオクターブの音を正確に弾くなどの跳躍技術や、2つの音を交互に弾くトリルをどう美しく聴こえるようにするのかなどを説明しながら、いかに難しい技がこの曲に組み込まれているのかを教えてくれました。
新居さんは「超絶技巧が続くこの曲を、いかに涼しい顔で演奏しているかも見どころです」と冗談まじりに解説。ラフマニノフとはまた異なる「鐘」は、さまざまな激しさを感じさせる音色でした。
演奏し終えた新居さんは「今こそ、この公民館から近いささらの湯に行きたいです」との言葉に会場からドッと笑いがこぼれるシーンも。
少し力を抜いて、と選んだのはドビュッシーの「アラベスク第1番」。
そして、ショパンが5年もの月日をかけた作品「バラード第1番 ト短調 op.23」で締めくくりました。
「ショパンの気持ちが曲に投影されているようで、とても情熱的な作品です」と新居さん。
アンコールに選んだのは、映画『海の上のピアニスト』から「愛を奏でて」です。
エンニオ・モリコーネによるこの作品は、映画の中でも印象的なシーンで使われています。主人公のさまざまな感情が静かに旋律に込められた美しいメロディーは、ラストにふさわしいものでした。
9月、10月と開かれた新居さんのアウトリーチ活動では、たくさんの市民がその豊かな音色、そして新居さんに会いに訪れました。
『新居由佳梨リサイタル ~幾重にも重なり合う旋律~ ポリフォニー音楽を中心に』の公演もいよいよ11月10日(土)に開催されます。
コンサートホールで聴くピアノの音色は、気軽に聴ける公民館コンサートとはまた別格です。この機会にぜひ、リサイタルもお楽しみください。
新居由佳梨ピアノリサイタルの詳細はコチラ