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川久保賜紀~アーティスト・イン・レジデンス~

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川久保賜紀 ~アーティスト・イン・レジデンス~

2020年1月20日(月)~25日(土)

 

2016年度に続き、2019年度のレジデント・アーティストをつとめるヴァイオリニストの川久保賜紀さん。

2020年1月の第4週は上田に滞在し、ともにトリオを結成しているピアニストの三浦友理枝さんも一緒に、素晴らしい音楽を多くの方々へ届けました。

 

1月22日午後の小学校でのクラスコンサート、24日夜のアナリーゼワークショップ、そして25日午後のリサイタルの模様をレポートします。

 

 

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クラスコンサート in 上田市立南小学校

2020年1月22日(水)

 

この日は、南小学校の5年生を対象としたクラスコンサート。午前中は2・4組、午後は1・3組と分かれて音楽室で鑑賞しました。

 

教室後方から登場したお二人は、まず、クライスラーの「愛の喜び」を披露します。

アイコンタクトと笑顔で、息の合った演奏を聴かせてくれました。

 

 

演奏が終わると自己紹介し、オーストリア生まれのヴァイオリニストであるクライスラーについて話をします。

ヨーロッパを拡大した地図を使い、「モーツァルトも同じオーストリア生まれです」と、子供たちにより身近に感じられるように説明します。

同じヴァイオリニストである川久保さんにとっては、「大好きな作曲家のひとり」なのだそうです。

 

2曲目は同じくクライスラーで「プレリュードとアレグロ」。

プレリュードは「何かがはじまる前、前奏曲」、アレグロは「速く、しかし速すぎない」という意味です。

タイトル通り、はじまりの予感を帯びた決然とした冒頭、重厚感のある前半、そして難しい重音が続く後半の対比が鮮やかな作品です。

 

 

3曲目は、オーストリアから飛んでフランスへ。

「フランスを知っている人!」という問いかけに、ひとりの男の子が勢いよく「はい!」と手を挙げます。

フランス人であるマスネが作曲した「タイスの瞑想曲」です。

ピアノ伴奏は本来ハープだそうで、三浦さんが「ハープのような音を出したいと思います」と言って演奏に移ります。

エレガントで夢のような曲想が、しばしゆったりとした空気を呼び起こし、音楽室を満たします。

 

ここで、楽器の紹介をします。

今回の学校では、音楽の先生がヴァイオリンについて授業で取り上げ、子供たちはヴァイオリンに触れた経験がありました。

弓が馬の尻尾の毛でできていることも、弦が羊の腸からできていることも覚えていて、川久保さんの問いかけに口々に答えます。

 

川久保さんが弾いている楽器は、1726年生まれのストラディバリウス。もうすぐ300歳という歴史の長さに「えっ!」と驚きの声が上がります。

300年の間、さまざまな弾き手から弾き手へと旅をしてきたヴァイオリンは、クライスラーが弾いていた時期があったことで、「エクス・クライスラー」という名称がついています。

その後、ヴァイオリンならではの多彩な奏法を披露します。

三浦さんが「ヴァイオリンの和音は、自分で音程を作らなければならないので難しいです」と、ピアノと比較した楽器の特性を話してくれました。

 

 

 

4曲目はバルトーク「ルーマニア民俗舞曲」です。

バルトークの出身地ハンガリーのお隣がルーマニアです。そのルーマニアを旅していたバルトークは、地元に残る民族音楽に興味を持って採集し、この音楽を作りました。

口笛のようなハーモニクスという奏法だけで演奏する曲や、装飾音やピチカートが印象的な曲など、多彩な舞曲で構成されています。

 

ここからは質問タイムに入り、子供たちからたくさん手が上がりました。

「(ヴァイオリンは)何円くらいしますか?」

「どうして、うまくなろうと思ったんですか?」

「ヴァイオリンはどうやって強弱をつけているんですか?」

「1曲の練習にどれくらいかかりますか?」

「ヴァイオリンは300年経っても、もろくならないんですか?」

川久保さんも三浦さんも思わず唸ってしまうような鋭い質問が、いろんな角度から飛び出しました。

 

最後は、モンティの「チャルダッシュ」。

ロマ音楽ならではのヴァイオリンの速弾きが堪能できる曲です。

演奏の途中でヴァイオリンの弦が切れる珍しいハプニングがあり、クラスコンサートはここで終わり。

滅多にないことで、その場にいた全員が驚いていました。

切れた弦は、希望するこどもたちの手に渡りました。

 

 

子供たちの大きな拍手に包まれ、川久保さんも三浦さんも笑顔でクラスコンサートを終えました。

 

 

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アナリーゼ(楽曲解析)ワークショップ vol.36

2020年1月24日(金) 19:00~20:00 サントミューゼ小ホール

 

川久保さんの今回のリサイタルは、ヴァイオリニストが好んで取り上げ、多くの人に愛聴されている名曲で構成されています。

アナリーゼは、三浦さんと対談形式で進められました。

 

 

ホワイトボードに、今回取り上げた作曲家の相関図が書いてありました。

ヴァイオリンの名曲を作ったマエストロという共通項以外に、師弟関係や作曲における影響、同時代を生きたといった関係性まで一目瞭然です。

 

 

まずは、冒頭に4曲演奏するクライスラーから。

 

1曲目の「プレリュードとアレグロ」は、「クライスラーがバロックを思いながら書いた曲」とのこと。この曲は当初、バロック時代のヴァイオリニスト、プニャーニの作を編曲したものとして発表されました。
批評家からは「曲自体は素晴らしいが、演奏は未熟だ」と酷評されたものの、後年クライスラーの自作曲だったことが明らかにされ、クライスラーの作曲家としての実力をはからずも証明した曲でもあります。

 

「バロックを思いながら」というのは、バロックスタイルではなく、クライスラーというフィルターを通したバロック、と川久保さんが解説します。

バロックのプレリュードは荘厳なものが多いですが、E(ミ)とB(シ)の音だけを使うことで切れの良い出だしを演出しています。

 

続く「愛の喜び」「愛の悲しみ」はいわゆるウィンナ・ワルツで、ウィーン人であるクライスラーの面目躍如といったおもむきです。

ワルツは踊りに合わせて演奏するものなので、三拍子を均等に刻むわけではなく、気持ちよく踊れる独特の揺らぎがあります。これは、ウィーン人にしみついたリズム感なのだそう。

「ウィーン人でないわれわれは、本物をたくさん聴くことと、とにかく無理をしないことに尽きます」と、三浦さん。

そして、その独特の揺らぎを意識した演奏と、均等な三拍子の演奏を弾き分けてみせました。

確かに、まったくといっていいほど別物に聴こえます。

 

 

 

次はバルトークの「ルーマニア民俗舞曲」です。

ハンガリー人であるバルトークは、意外なことにフランス人のドビュッシーから、中東やロシアの和声の取り入れ方などの影響を受けているのだとか。

今回演奏する「タイスの瞑想曲」を作ったマスネは、直接の師弟関係はありませんが、ドビュッシーとは同時期にパリ音楽院に教授、生徒として在籍していました。(マスネが教授)

 

バルトークがドビュッシーの教えに興味を持ったのは1907年で、ドビュッシーが中年期に入り円熟味を増していた頃のことです。
そこからこの「ルーマニア民俗舞曲」が生まれたというのは、非常に興味深いです。

 

そして、ヴァイオリン曲として有名なモンティの「チャルダッシュ」。

モンティはイタリアのヴァイオリニストでもある作曲家ですが、知られているのは「チャルダッシュ」だけという、今で言う“一発屋”とのこと。
とはいえ、川久保さんが「長く愛されている曲です」と言う通り、誰もが一度は耳にしたことがあるというくらい、長く愛されているヴァイオリン曲であることには間違いありません。

 

後半は、ラヴェルの「ヴァイオリン・ソナタ 第2番」と「ツィガーヌ」です。

 

「ツィガーヌ」はフランス語で「ロマ」の意味で、人気の高い民族舞曲の雰囲気が色濃く漂う作品です。

バルトークのヴァイオリン・ソナタ初演者として有名なハンガリー出身のヴァイオリニスト、ダラーニのために作曲されました。

優れた技巧と情熱的な音楽性が持ち味だったダラーニらしく、緊張感と情感、そして超絶技巧をたっぷりと味わえます。

 

演奏するのが大変な曲であることを証明するエピソードとして、川久保さんの師匠ブロン氏の同門である、とあるヴァイオリニストの体験談を披露しました。

「ツィガーヌ」はピチカートを多用しているので、練習を重ねると指に水ぶくれができてしまいます。
そのヴァイオリニストは「指が痛いんだ」と、川久保さんにこぼしたそうです。

しかしブロン氏に「ヴァイオリンの弦はスチール(鉄)だから、人間の皮膚が負けるのは仕方ない」と、事もなげにあしらわれてしまい、黙って練習を続けるしかなかったのだとか。

 

 

「ツィガーヌ」はピアノ伴奏版とオーケストラ伴奏版がありますが、今回はもちろん、三浦さんとのピアノ版で披露されます。

間の取り方やテンポなど、ヴァイオリニストの個性や解釈でかなり違いが出る曲で、三浦さんはヴァイオリニストごとにまったく違う呼吸に合わせて演奏していると、明かしてくれました。

 

「ヴァイオリン・ソナタ 第2番」は、1923年から1927年の4年の歳月をかけて完成されました。
長大とは言えないこの曲に時間をかけた理由を、ラヴェルは「無駄な音符を削るのに時間がかかった」と述べています。

 

ヴァイオリンとピアノのための室内楽ですが、そういった曲は通常、それぞれの楽器が調和するように作曲されます。

しかしラヴェルはヴァイオリンとピアノを「二つの相容れない楽器」と考え、調和しないところを強調して作曲したそうです。

たしかに、ヴァイオリンとピアノがまったく違うことをやっているように聴こえる部分が多いです。

 

だからといって前衛的だったり聴きにくかったりすることはなく、非常に魅力にあふれた唯一無比の音楽になっているところがさすがはラヴェルです。

とりわけ特徴的な第2楽章は「ブルース」と名付けられており、冒頭はバンジョーを意図したヴァイオリンではじまり、当時大人気だったジャズを意識したメロディに楽章全体が彩られています。

 

最後、お客様からの質問を受ける中で、発売間もない川久保さん・三浦さん・遠藤真理さん(チェロ)トリオのCDに関連して、昨夏のレコーディング時のエピソードも飛び出しました。

 

先ほど、ウィンナ・ワルツの揺らぎの話が出ましたが、クラシック音楽はウィンナ・ワルツに限らず、揺らぎを意識したテンポを採用したほうが良い演奏になる曲が多いそうです。
しかし、今回録音した坂本龍一さんの曲は、テンポを厳守したほうがむしろ良くなる部分があり、発見だったとか。

 

川久保さん、三浦さんのふだんの関係が垣間見えるような、リラックスしたアナリーゼはちょうど1時間で終了。

翌日のリサイタルへの期待が、ますます膨らむアナリーゼとなりました。

 

 

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川久保賜紀 ヴァイオリン・リサイタル

「響き合う ~珠玉のヴァイオリン名曲集~」

2020年1月25日(土) 14:00開演 サントミューゼ小ホール

 

川久保さんの今回の上田滞在は、8回のクラスコンサートと2回の地域ふれあいコンサート、そしてアナリーゼと、非常に密度の濃い6日間でした。

最終日はリサイタルでしめくくります。

 

拍手に迎えられて登場した川久保さんと三浦さん。

まずは、ヴァイオリニストであり作曲家でもあったクライスラーの楽曲からスタートします。

「プレリュードとアレグロ」、「愛の喜び」「愛の悲しみ」そして、「中国の太鼓」です。

 

 

シャープな冒頭が印象的な「プレリュードとアレグロ」から、よく知られている「ウィーン三部作」の2曲に続き、太鼓のリズムを刻むピアノに伸びやかなヴァイオリンが乗っていく「中国の太鼓」へ。

クライスラーの作曲家としてのキャラクターがしっかり味わえる選曲で、演奏が進むにつれ、会場の期待感もより高まっていくようです。

 

お客様への挨拶をはさんで、マスネの「タイスの瞑想曲」へ。

 

静かで美しいメロディにしばし身を浸した後は、対照的な舞曲の世界へいざなわれます。

バルトークの「ルーマニア民俗舞曲」と、モンティ「チャルダッシュ」は、ヨーロッパの民族的な舞曲のエッセンスがたっぷりと詰まっている曲です。

 

哀感あふれるメロディと、ロマ音楽由来の速弾きで盛り上がる「チャルダッシュ」で、前半のプログラムは終了です。

 

 

休憩をはさんで、舞台には三浦さんがひとりで登場します。

今月は、年明けの「のだめカンタービレ」のコンサートからはじまって、ほとんどを上田で過ごしている三浦さん。

「上田のお蕎麦屋さんマップのコンプリートを目指しています」と、上田の滞在を楽しんでいる様子を教えてくれました。

 

トークのあとは、ドビュッシーの「月の光」をピアノ・ソロで聴かせてくれます。

ショパン、ラヴェルなどフランスものを多くレパートリーとしている三浦さんの、繊細な音が会場を満たします。

 

 

川久保さんも再登場し、ラヴェルの「ヴァイオリン・ソナタ 第2番」へ移ります。

ラヴェル最後の室内楽曲となったこの曲は、ピアノとヴァイオリンは本質的に相容れないものというラヴェルの考えを反映しています。

それぞれがそっぽを向くようにまったく違うフレーズを演奏するところがありながらも、不思議と美しい響きが実現しているという、一風変わったヴァイオリン・ソナタです。

 

最後、同じくラヴェルの「ツィガーヌ」へ。

はじまりはヴァイオリン・ソロのカデンツァが長く続き、あっという間に音楽に引きこまれていきます。

 

ハンガリー出身のヴァイオリニスト、ダラーニの演奏を聴いて感銘を受け、ラヴェルはこの曲を作りました。

前半で演奏した「チャルダッシュ」はハンガリー・ロマの民族舞曲ですが、ダラーニに献呈するこの曲でもその形式を採用しています。

超絶技巧で知られるパガニーニの曲を超える超絶技巧を盛り込みたいと意気込んだことで制作期間が延び、ダラーニが楽譜を受け取ったのは初演3日前という逸話が残っています。

 

 

川久保さんの確かなテクニックと、ヴァイオリニストとしての経験や人生そのものが注ぎ込まれているような演奏に、三浦さんのピアノが寄り添います。

明確な緩急、そして情熱的で哀感に満ちた曲想もあいまって、まさにリサイタルのラストを飾るにふさわしい演奏となりました。

 

舞台上のお二人は、大きな拍手と歓声に包まれ、笑顔を見せます。

 

 

「この1週間、上田でゆっくりさせていただきました。上田を離れるのが少し寂しい感じで、また次に来られることを楽しみにしています」と、川久保さんが名残惜しそうに挨拶します。

 

アンコールはクライスラーの「美しきロスマリン」。

“ロスマリン”はドイツ語でハーブのローズマリーのことで、女性の名前でもあります。

前半で演奏した「愛の喜び」「愛の悲しみ」とともに、一連のものとして演奏会で取り上げられることが多い作品です。

 

満場の拍手でリサイタルは終了しました。

川久保さん、三浦さんのサイン会では、新譜を手にした多くのお客様が笑顔でお二人と握手をしていました。

 

 

サントミューゼの公演に、時折足を運ぶという女性に感想をたずねました。「素晴らしかったです。特にラヴェルのヴァイオリン・ソナタに圧倒されました。二人の演奏を聴いていると、いろんな思いが浮かんできます」。

サイン会に参加されたご夫婦は「やはり生の演奏は良いですね」と笑顔で言い、奥様は「ツィガーヌ」が、ご主人は「プレリュードとアレグロ」がとりわけ印象的だったと話していました。

 

 

 

【プログラム】

クライスラー:プレリュードとアレグロ

クライスラー:愛の喜び

クライスラー:愛の悲しみ

クライスラー:中国の太鼓 Op.3

マスネ:タイスの瞑想曲

バルトーク:ルーマニア民俗舞曲 Sz.56

モンティ:チャルダッシュ

ドビュッシー:ベルガマスク組曲より 第3曲「月の光」 (ピアノ・ソロ)

ラヴェル:ヴァイオリン・ソナタ 第2番 ト長調 M.77

ラヴェル:ツィガーヌ M.76

 

〈アンコール〉

クライスラー:美しきロスマリン


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