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【レポート】日本舞台写真家協会第16回協会展「創立30周年記念 百華響演」ギャラリートーク

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サントミューゼ

日本舞台写真家協会第16回協会展「創立30周年記念 百華響演」ギャラリートーク
お話:谷古宇正彦(写真家、第16回協会展実行委員長)、清水博純(写真家)、渡部晋也(写真家、ライター)
5月5日(土・祝) 14:00~ at サントミューゼ多目的ホール

 

 

演劇や音楽、ダンスなど舞台写真を中心に活動する写真家が設立した「日本舞台写真家協会」。創立30周年を迎えた今年、さまざまな舞台で活躍する“華”のある女性たちに焦点を当てた作品展「百華響演」を全国4都市で開催。

サントミューゼでは5月3日(木)から13日(日)まで40名の写真家による60点超の作品が展示され、写真家の視点で切り取った一瞬が、その日その場所にあった感動を濃厚に伝えていました。

 

 

会期中の5月5日(土・祝)には、展示会場でギャラリートークが開催されました。登壇したのは、舞台写真の第一人者であり本作品展の実行委員長を務める谷古宇正彦さん、長野県中野市出身・在住の写真家である清水博純さん、音楽を中心に撮影から企画執筆、選曲まで手がける渡部晋也さんの3名。

 

 

「良い舞台写真」はどのように生まれるのか

 

 

冒頭、津村館長が
「舞台上にアーティストの研ぎ澄まされた表現が存在する一方、その一瞬をとらえる舞台写真は、写真家の感性と技術で別の表現へと切り抜かれる感覚があります。
不思議なのは、約2時間ある芝居のどのシーンをどの角度で撮ればいいのか舞台写真家には完璧に分かるわけがないのに、でき上がった写真はすごくいい角度で収められていますよね」
と語りかけると、
「オフィシャルカメラマンとして撮る場合、“こういう作品”と分かるように撮らざるを得ないので、写真に自分の感情を入れてしまうと邪魔になる。でもカメラマンだから『こう撮りたい』という欲望があるので、いつも葛藤で悩むんです」
と谷古宇さん。

音楽公演の撮影が多い渡部さんは、「音楽のカメラマンには、“弾ける人”と“弾かない人”の2種類がいると思います」と話します。

「自分もクラシック音楽を演奏するというカメラマンも多くて、彼らの多くは譜読みできるから、オーケストラがどこで一番高揚するかを知っているんです。
僕は聴きながら撮るタイプで、ロックのライブは一緒に頭を振って汗だくになったり(笑)、サルサなんかは前列でカウントをとりながら撮っているもんだから、ミュージシャンが面白がって寄ってきてくれることもある。そんなふうにアーティストとシンクロできた時は、写真も面白くて迫力あるものが撮れます」

 

 

清水さんは長らく、銀行員との二足のわらじで写真家を続けてきました。舞台写真を撮り始めたきっかけは30年以上前、劇団四季の『ヴェニスの商人』に衝撃を受けて「この感激を形に残したい」と感じたこと。終演後、なんと銀行の名刺を持って楽屋を訪ねたと言います。最初は相手にされなかったものの通い続けて5年、ついに演出家の浅利慶太さんから「撮ってみろ」と言われたそう。

「撮った写真を見て、浅利先生が『いい写真だね』と言ってくださったんです。劇団四季が今ほど大きくなる前でしたが、全国を追いかけて撮りためました。平日は銀行勤務でしたので、基本は土日。でもゲネプロ(本番前の通し稽古)はだいたい木曜か金曜ですから、有給休暇も使い切って大変でした(笑)」

そんな清水さんは、「この人」と決めたら最低10年は追いかけて撮り続けるのがスタイル。そうして追い続けた一人が、今回の写真展にも作品を出展している女優の太地喜和子さんでした。
「いつも一人の人を追っているから、望遠レンズで舞台をのぞいていると、役者さんと対話しているような気持ちになるんです。その心地よい感覚は、貴重な時間なんだなと思いますね」

 


フィルムの失敗、撮れなかった写真……、数々の失敗談

 

 

続いて、数えきれないほどの舞台を撮影して来た3人に過去の失敗談を聞きました。
渡部さんは、
「音楽ライブの取材では、『冒頭の3曲だけ撮影可』など限定されることがあります。そんな時は慌てながら撮るんですよ。フィルムカメラだった当時はワーッと撮り終えて、フィルム交換のために裏蓋を開けたら茶色い帯が見えた……。慌てていたものだから巻き戻していなかったんですね。蓋を開けた時点でフィルムは感光して撮った写真は全部台無しになるのだけど、劇場は薄暗いから早く閉じれば少しでも救える気がして、慌てて閉めたりして。あれは嫌な瞬間でした」
と苦笑い。

 

 

「いい場面を何回も撮り逃していることです」
と笑うのは清水さんです。
「フィルムの時代、どういうわけか30枚から35、36枚目ぐらいにすごくいいカットが撮れるんです。舞台がいい場面になってきたなと思ったら30枚目とか33枚目で、『もうすぐフィルムが切れちゃう』って想いが常にあるんですよ。それでも舞台は流れていくから、良い場面を取り逃がす。撮り逃したカットだけ集めたら、相当いい写真集ができたのではないかなと思います」

谷古宇さんも頷いて、
「撮りそこなった写真のことは頭に残っちゃう。それを超える写真を追い続けるんだけど、撮れないからイライラするんだよね」
と同意します。

撮影許可証である「プレスカード」をもらうための苦労も、舞台写真家ならでは。
「プレスカードをもらって劇場に入るまでが、仕事の8割ぐらいだと思っています。例えば歌舞伎座はまず下足番の方にあいさつして、次に頭取、付き人さん、そしてようやく奥に中村勘三郎さんがいるという具合」(清水さん)

 

 

さらに清水さんからは、和太鼓奏者・林英哲さんのニューヨーク公演撮影時のエピソードも。
「英哲さんの事務所に許可を得てニューヨークまで同行したんです。ところが、練習は撮れたのに本番はオフィシャルカメラマンがいるから撮れないと。それを英哲さんに話したら『清水さんそれはダメだ、なんのためにニューヨークまで来たの』と。(涙)

 

 

舞台写真家が役者にダメ出し?
舞台関係者からの信頼も厚い谷古宇さんは、打ち上げの席で役者にダメ出しや提案をすることもあるのだそう。客席から見つめ続ける谷古宇さんだからこそのダメ出しは、「演出家と違う角度で、役者にとって参考になることが多い」と津村館長も関心を寄せます。

 

 

「僕のダメ出しはどうしても写真的なことになる。例えば舞台上の役者の顔が位置関係上カメラから見えない時は、役者本人にこっそり『悪いけどこの辺でしゃべってくれないか』と頼んだりします」
と谷古宇さんが話すと、
「そんなことをできるのは谷古宇さんだけ!」
と清水さん。

 

 

演劇の舞台は、稽古中に演出家のダメ出しや脚本の修正が加わり、ブラッシュアップされていきます。ところが舞台写真家は、演出の変更に慌てることも多いのだそう。

「例えば極端な話、上手(かみて/客席から見て舞台右側)に望遠レンズを向けて役者が出てくるのを待っていたら、知らない間に下手(しもて/客席から見て舞台左側)からの登場に変更されていて撮れなかったということもある(笑)。本当に、舞台は生き物です。今回、バレエのジャンプの瞬間を撮った写真が展示されていますが、ああいう写真は『ここでジャンプする』という場所にあらかじめピントをセットして待っているから変更があると難しい」(清水さん)

一方で写真家は、舞台に立つ演者に影響を与える存在でもあります。演出家のつかこうへいさんは、稽古中もたびたび谷古宇さんに「稽古場に来て役者を撮ってくれ」と頼んだそう。それは、役者たちに「見られている、撮られている」と意識させるためだったといいます。
撮る、撮られる関係が信頼を築く
舞台写真家は、舞台の作り手との信頼関係が不可欠です。それを物語るエピソードとして津村館長が話したのは、谷古宇さんが演劇のカーテンコールでわざとフラッシュを焚いて客席を撮影した時のこと。
「関係者全員がハッと立ち上がったんです。でも谷古宇さんだと分かった瞬間、全員もう一度座りましたから(笑)。それぐらい信頼関係があるんですね」(津村館長)

唐十郎さん、浅利慶太さんなど、癖のある演劇人たちと長年付き合いのある清水さんにどのように信頼を築いたのかを訊ねると、
「唐さんや浅利さん、太地喜和子さんにも畏敬の念は持っています。おこがましいのですが、その人の人生を一緒に背負っているような気がするんですよね」

そう話す清水さんは、太地さんが若くして事故で亡くなられた後もお母様とのご縁が続き、太地さんがお父様に贈った思い出のライカのカメラを譲り受けたそう。この日はそのカメラを持参し、会場の皆さんに触れさせてくれました。太地さんと清水さんの、家族のような絆を物語ります。

 

 

「写真を撮られるということは、意識まで解放している感じがあるのでしょうね」
と津村館長。

太地さんや中村勘三郎さんなど、長年撮影していたアーティストが亡くなると、プリントを焼き付けながらしみじみ思いを巡らせることもあると話す清水さん。谷古宇さんも、大滝秀治さんの生前、本を出版するために5年かけて写真を撮りためていたことを振り返りました。
「大滝さんが病気で舞台を降板した時、入院先へ行ってそれまでに撮った写真を見せました。大滝さんは一枚一枚見て『これで結構です。ご自由にやってください』と言ったんです。それからすぐに亡くなってしまった。大滝さんを5年ほど撮り続けたけれど、彼がしゃべったのは時間にして1時間もないんじゃないかな。なぜって大滝さん、ずっと台本を読んでいるんですよ。稽古の休憩中もずっと読んでるから話しかけられない。まさか亡くなるなんて思ってなかったから、ゆっくりのペースでいいやと思っていたんです。それでも、信頼関係はあったと思います」

 

 

 

 

一枚の舞台写真の向こうにあるのは、濃密な時間の記憶。「ここにあるのは、記録ではなく記憶」という言葉が、その舞台の世界を表しているのではないでしょうか。