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【 レポート 】上田市立美術館コレクション展Ⅱ 特別展示 山本鼎の手紙

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2020年7月17日(金)~11月8日(日)開催の山本鼎の直筆の書簡類を紹介する展覧会「特別展示 山本鼎の手紙」を

担当学芸員がご紹介します。

 

 

この度ご紹介する書簡類は50年ほど前に『山本鼎の手紙』(1971年・上田市教育委員会刊)として活字化されていましたが、直筆の文面を公開したのは今回が初めてです。2019年夏に関係者から寄贈されたため、今回広く一般に公開することとしました。これらの書簡類は鼎の青年期から晩年までにわたり総数102点に及び、折々の所感が綴られています。

今回はその中から41点の手紙と同時代の作品、写真を展示しています。

 

 

 

手紙の中でいちばん時代の古いものは、鼎が東京美術学校在学中の1906(明治39)年3月の書簡。【写真1】

卒業を間近に控えた時期の出来事を実家の両親宛てに書き送っています。卒業制作の《自画像》に取り組んでいること、生計の足しにしていた木版彫りのアルバイトの様子や、友人の石井鶴三とその妹が遊びに来たことなど、若者らしい率直な言葉が綴られています。美術学校在学中の写真や作品とともに当時の様子を垣間見ることができます。

 

【写真1】

 

 

今回の展示では41点中39点がフランスやロシアなどの留学先から親元に宛てられた手紙です。展示では1912~1916年にわたる留学時代の手紙を、年を追ってご紹介しています。

 

【写真2】は1912年の留学当初に入居したパリ市第15区にあったアパート「ヴィラ・ファルギエール」の玄関先で撮った写真。右端に鼎がいます。入居早々に鼎は両親宛てに手紙を出しており【写真3】、そこには「今日から異境に居を定めたる第1日。面白い様な心細い様な感に候。八丁味噌そくばく大至急御送り願度頼上候」と、期待と不安が交錯していること。岡崎生まれらしく八丁味噌を送ってほしいことなどが記されていました。鼎は筆まめだったようで、頻繁に手紙を日本の両親や友人に送っていたことがわかります。

 

【写真2】右端が鼎。

【写真3】

 

留学中の手紙では自分の悩みや、画家としての才能を見出した従弟の村山槐多を支援する手紙が印象的です。元々、鼎がフランスに留学したのは親友の小杉放菴が忠告したことによりますが、鼎は当初、失恋の痛手から逃れるため、自暴自棄になってアメリカに労働者として出稼ぎに行ってしまおうと考えていたことが手紙から分かります【写真4】。

ちょうどこのころに鼎の版画作品の中でも傑作とされている《ブルトンヌ》(1920年)【写真5】の画稿(1912年)が描かれていることから、信頼する小杉放菴のアドバイスは鼎の心の支えになったに違いありません。

 

【写真4】

【写真5】

【写真6】

【写真6】は村山槐多の進路を心配する両親宛ての手紙。文中では「小生は槐太(多)の芸術家的の天性を愛惜して居ます」と彼の才能を絶賛しています。留学中の手紙にはたびたび槐多のことが触れられており、どうにかして一人前の画家に育てたいという鼎の熱意が伝わってきます。

 

 

【写真7】

 

鼎はフランス留学中に第一次世界大戦に巻き込まれています。【写真7】左側の絵はがきのパネルは、連合国であったフランスとロシアを両脇にして、中央に据えたドイツを猛獣に仕立てた風刺絵はがきです。鼎が両親に宛てた手紙にはこうした時世を反映したものも見られます。

 

最後に展示してある手紙は帰国後に農民美術運動・児童自由画教育運動を経て48歳になった時のもの。【写真8・9】人生の大きな節目に当たり両親に改めて自身の決意を述べたものです。

 

【写真8】

【写真9】

手紙では「小生の境遇には過去に於いて二つの大いなる変化がありました」と前置きして、まずはヨーロッパ留学までの修行者としての人生、帰国後から自由画教育と農民美術の運動を進めてきた今日まで、そしてこれから三度目の変化を目の前にして、再び作家としての生活に復帰したいと書き送っています。鼎が自分の人生のステージを自覚していたことを示すもので貴重な資料です。

 

今回の特別展示で公開した手紙は全体の一部でしたが、当時の記録写真や作品とともに文面を追うことで、鼎が画家としてどのような心の葛藤や思いを抱いていたのかをうかがい知ることができました。何よりも本人の筆跡から当時の息吹に触れることができる点に、本物の資料や作品と対面することの大切さを感じます。

 

 

Text=小笠原正

 


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