サントミューゼ(上田市交流文化芸術センター・上田市立美術館) おかげさまでサントミューゼは10周年

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【 レポート 】上田市立美術館コレクション展Ⅱ 芸術家が捉えた躍動の美

みる・きく
会場
サントミューゼ

2020年7月17日(金)~11月8日(日)開催の「上田市立美術館コレクション展Ⅱ 芸術家が捉えた躍動の美」の様子を

担当学芸員がご紹介します。

 

 

本来であれば東京オリンピックと同時に開催する予定であった本展。新型コロナウィルスの影響で空いてしまった企画展示室で

開催され、ウィルス感染の収束を願う意味も込められました。

展示は美術館のコレクション作家、石井鶴三(1887年~1973年)と米津福祐(1937年~)の作品の中から、日本の国技である相撲や、スポーツに関連した“躍動の美”が表現されたものが中心となっています。

 

 

米津福祐さんは上田市出身の画家で、二紀会展などで作品を発表しながら地域誌などにも連載を持ち、地域とのつながりも深い作家です。80歳を過ぎた今なお現役で活躍しています。

展示室は米津さんの大型の油彩画(150号)を十分に堪能できるように、仕切りをせずにゆったりとした空間をつくりました。

 

 

ライフワークとして続けている絵画ですが、二紀会の委員になった1993年頃から、長野県東御市出身の江戸時代の名力士、雷電為右衛門を主題に描くようになりました。

史上最強の力士ともいわれる雷電ですが、賢くて人間性にも優れた非常に魅力的な人物だったそうです。詳しくは、ミュージアムトーク「画家 米津福祐が語る雷電の魅力」のレポートをご覧ください。

 

米津さんが描く雷電は年々少しずつ変わっています。

 

《赤半纏雷電》2002年

 

例えばこの《赤半纏雷電》は、一枚の絵の中に様々な表現がされており、鑑賞者は画面の中で視線を動かされます。

作者の遊び心が垣間見える楽しい作品となっています。

 

 

《ライデン》2013年

 

こちらの作品では、面と直線を使うことで、立体感や質量感が増し、肉体同士ががっぷりと組み合ったときの迫力が伝わってきます。また対象を多角的な視点から描く“キュビスム”に通じた表現が効果的に使われている点も見どころです。

 

 

《雷電とコロナ山》2020年

 

コロナ禍の折、夢で見たという取組を描いた作品。“コロナ山”を雷電が突き出している場面です。(コロナ山に対してはなるべく距離をとって、組み合いません)このようなコミカルで愉快な表現も米津作品の魅力です。

 

 

石井鶴三の作品は相撲の彫刻や、その他のスポーツに関係する版画を展示しています。

 

 

相撲の彫刻は高さ36.5cmほどですが、組み合ったときの強張った力士の筋肉や骨格が、確かな造形力により表現され、

作品が大きく感じられます。

 

 

鶴三自身も25歳の時から相撲を始め、自宅に土俵をつくってしまうほど、のめり込みました。

写真は東京藝術大学相撲部の顧問を務めていた時に行われた土俵開きでの取組の様子(鶴三72歳)。

 

 

 

鶴三は10代の頃から、自宅に下宿していた山本鼎の版画制作を間近に見ており、その後は鼎らとともに創作版画運動にも参加し、版画の普及にも尽力しました。

 

 

鶴三の版画の特徴の一つは、彫刻的な構造の確かさに裏付けられた力強い線です。この特徴はおよそどの時期の作品にも表れていて、鶴三の芸術理論が終始一貫していたことを知ることができます。

 

奇しくもコロナ禍での開催となってしまった人体をテーマとした展示ですが、力強く躍動する人体から、人間が本来内包する生命力を感じていただけたら幸いです。

 

 

Text=清水雄