サントミューゼ(上田市交流文化芸術センター・上田市立美術館) おかげさまでサントミューゼは10周年

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【レポート】群馬交響楽団 上田定期演奏会&関連企画

みる・きく
会場
サントミューゼ

2019年11月に開催した、群馬交響楽団による公演の模様をレポートします。

 

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群響メンバーによる室内楽演奏会
2019年11月17日(日)14:00開演 川西公民館 大ホール

 

“群響”こと群馬交響楽団のメンバーが、サントミューゼでのオーケストラ公演に先立って、金管五重奏の演奏会を開催しました。

 

今回の奏者は、太田恭史(やすひと)さん、牧野徹さん(ともにトランペット)、竹村淳司さん(ホルン)、棚田和彦さん(トロンボーン)、松下裕幸さん(テューバ)の5名です。

 

窓の外は秋の爽やかな青空が広がり、刈り取りが終わった田畑や紅葉に色づく山々が見渡せます。

 

お客様の拍手に迎えられた5人が舞台にあがります。

最初の曲は、「吟遊詩人の歌」よりソナタ(作曲者不詳)です。バロック期の作らしく古典的な雰囲気漂う小品ですが、なぜか「ヘボ詩人のためのソナタ」という別名もあるのだとか。

 

演奏後、テューバの松下さんがマイクを握り、「本日の案内役を務めます」と自己紹介します。

 

 

2曲目は、「バーゼルマーチ」「カッコー」「古城」「チューリッヒマーチ」の4つからなる「4つのスイスの民謡」という組曲です。

最初と最後のマーチは、春祭りなどで皆が踊りながら行進する場面で演奏される曲らしく、足踏みしたくなる軽快な曲でした。

「カッコー」では松下さんがテューバをカッコー笛に持ち替え、客席に降りてカッコーの鳴き声を奏でます。

次の「古城」では、今度はホルンの竹村さんが客席後方に移動し、ソロを奏でます。

のびやかでスケール感のあるホルンの音色に太田さんのフリューゲルホルンが絡み、湖のそばの小高い場所にたたずむ古いお城の姿が想起されます。

ステージ上の他のメンバーが竹村さんに手を振ったり、「ヤッホー」と声を出したりと、“寸劇”のような一幕も。

 

曲が終わったところで、メンバー紹介です。

トランペットの太田さんは、先ほど演奏したフリューゲルホルンについて説明します。

音色は丸く柔らかく、スイスやオーストリアなどの村祭りなどで使われていた古い楽器です。

同じくトランペットの牧野さんは、ベルの先に差し込むミュート(弱音器)に触れます。

さまざまに音色を変化させる役割があり、3種類のミュートを試奏してくれました。

 

中世ヨーロッパでは狩りの際の合図に使われていたホルン。

当時は管を巻いただけの単純な形状で、音程はベルに差し込む右手で変えていたそう。竹村さんが、実際に右手だけで音程を吹き分けてくれました。24日に演奏されるブルックナーの交響曲第7番はホルンが非常に活躍する曲なので、要注目です。

 

棚田さんは、トロンボーンはかつて唯一音階のある金管楽器で、教会の合唱で使われ“天使の楽器”と呼ばれていたというエピソードを披露してくれました。

そしてテューバ。

管が長く音が出るのがほんの少し遅れてしまうため、他の楽器に合わせるためにほんの少し早く音を出すのがコツなのだそうです。

 

3曲目は、アメリカの作曲家ユーバーによる「ある日の草競馬」という曲です。

競馬といえば誰もが思い浮かべるフォスターの「草競馬」をアレンジした曲です。

アメリカの片田舎のお祭りで開催される草競馬の様子が活写されています。

トランペットで馬のいななきを表現する部分は、馬の姿を探してしまったほどリアルでした。

 

次は、「メドレー群馬」。群馬にゆかりのある作曲家や作詞家の作品、群馬の名所をテーマにした曲で構成されています。

「雪山賛歌」ではじまり、「かわいい魚屋さん」「七夕」「うさぎとかめ」、そして尾瀬を歌った「夏の思い出」で締めくくります。

どの曲も一度は耳にしたことがある親しみやすさがありながら、それぞれの楽器の個性が時に際立ち、時に調和するように見事に編曲されていました。

 

 

最後の曲は、映画『サウンド・オブ・ミュージック』から、「エーデルワイス」と「私のお気に入り」の2曲。

どちらも金管楽器特有の柔らかな音色にマッチし、映画のシーンがよみがえるようでした。

アンコールは同じく『サウンド・オブ・ミュージック』から「ひとりぼっちの羊飼い」が演奏されました。

 

続いて、上田市立第六中学校吹奏楽部との共演です。

 

 

曲は「サンダーバードは飛ぶ(フライト・オブ・ザ・サンダーバード)」。

2004年にアメリカの高校バンドのために作曲されたもので、学校のマスコットが曲名の由来です。

華やかな演奏会用序曲で、鍵盤打楽器が多く使われ、アルトサクソフォーンとトランペットのソロが入ります。

群響メンバーと練習する予定だった日の直前に台風19号が来てしまい、合同練習は中止となってしまいましたが、今日が初めてとは思えないほどまとまり、大ホールを迫力ある音で満たしていました。

 

 

「金管五重奏は初めてでした。間にトークもあって、とても聴きやすくてよかったです」と話してくださった男性は、ヴァイオリンを習っている小学校1年生の息子さんと一緒に聴きに来てくれました。

家族3人でいらしたお客様は、「サントミューゼのプログラムはいつもチェックしています。いつものコンサートと違って、外のこの美しい景色を眺めながら聴く体験は新鮮で、とても良かったです」と、満足気に話していました。

 

【プログラム】

作曲者不詳:「吟遊詩人の歌」よりソナタ

E.ハワース編曲:4つのスイスの民謡

D.ユーバー:ある日の草競馬

岡村陽編曲:メドレー群馬

R.ロジャース:「サウンド・オブ・ミュージック」より「エーデルワイス」「私のお気に入り」

 

〈アンコール〉 R.ロジャース:「サウンド・オブ・ミュージック」より「ひとりぼっちの羊飼い」

 

〈ゲスト共演〉

R.ソーシード:「サンダーバードは飛ぶ(フライト・オブ・ザ・サンダーバード)」

 

 

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群馬交響楽団 上田定期演奏会 ―2019秋―

2019年11月24日(日) 15:00開演 サントミューゼ大ホール

 

井上道義さんは、国内外の数々のオーケストラの指揮者を歴任し、2017年大阪国際フェスティバルでの「バーンスタイン:ミサ」のような大きなプロジェクトも成功に導いた実績を持つ、第一線で活躍し続けている指揮者です。

上田で指揮をするのは、2014年のサントミューゼオープニング公演以来。

 

今回は群馬交響楽団の第553回定期演奏会プログラムで、武満とブルックナーという、演奏会で聴ける機会の少ない演目です。

 

開演時間になり、群馬交響楽団のメンバーが登場します。その後、井上さんが人差し指を天井に向かって立てながら、鋭気に満ちた笑顔を浮かべて現れました。

 

まずは、武満の『鳥は星形の庭に降りる』を演奏します。

この曲は1977年に書かれました。美術家マルセル・デュシャンの星形に刈り上げた後頭部の写真を見て、その後に見た夢にインスピレーションを得たという、一風変わった作品です。

作曲にあたって武満が残した自筆スケッチがあり、そこには鳥の群れが五角形の庭に舞い降りる様子が描かれています。

 

 

演奏時間は14分程度と短いですが、鳥の鳴き声を思わせるオーボエの音、打楽器やヴァイオリンの不思議な響き、さらにチェレスタ(鍵盤楽器の一種)の柔らかく神秘的な響きが重なり、独特の世界観を作り上げています。

 

井上さんは時に鳥の羽ばたきのように大きく両手を広げ、オーケストラを率いていきます。

演奏が終わると、今回上田に来る際に、武満が住んでいた御代田の別荘に立ち寄ったことを話します。この曲は、その家で作られたそうです。

「武満をぜひ、この地域の“宝”としてください」と、武満を身近に感じられるエピソードを披露してくれました。

 

後半は、ブルックナーの『交響曲 第7番』です。

この曲の楽譜には「ハース版」と「ノヴァーク版」があり、今回は「ノヴァーク版」を演奏します。

 

ブルックナーは1824年にオーストリアで生まれました。

武満が生まれる約100年前の音楽家です。

幼少期から音楽的才能を示し、10歳の時には父に代わって教会でオルガンを弾くほどでした。

音楽教育を受け、オルガニストとして成功しますが、30代から作曲を学びはじめます。

40代に入る頃からワーグナーに傾倒し、当初敵対関係だったブラームスと打ち解けるなど、同時代の作曲家とも交流がありました。

 

『交響曲 第7番』は、ブルックナーの交響曲の中では、第4番と並んで人気の高い作品です。

作曲家としてはなかなか認められず、この作品の初演が大成功したことで、ようやく名声を得られたとか。

この時、ブルックナーはすでに60歳になっていました。

 

第1楽章「アレグロ・モデラート」は、弦楽器群の弱いトレモロ(同一音の速い反復。震えるような音)からはじまります。

これはブルックナー特有の“原始霧”と呼ばれる表現方法で、非常に印象的です。

 

第2楽章「アダージョ」はロンド形式です。

この楽章の作曲に取り掛かっていた時に、敬愛するワーグナーが危篤となり、ワーグナーの死を予感しながら作曲を進めました。ワーグナーが死去するとコーダを付け加え、ワーグナーに捧げる“葬送音楽”としました。

 

この部分は、4本のワグナーチューバが、荘厳な音色を奏でます。

名前の通り、ワーグナーが考案したホルンとチューバの間のような金管楽器です。

コーダに入る直前にシンバル、トライアングル、ティンパニが加えられているのが、「ノヴァーク版」の特徴です。

 

第3楽章「スケルツォ」は、トランペット、クラリネット、ヴァイオリンの掛け合いがリズミカルに進み、哀切さに満ちた第2楽章との対比が鮮やかです。

 

 

ソナタ形式の第4楽章「フィナーレ」は、ティンパニが幾度も印象的に顔を出し、重厚な響きでクライマックスへ。

同じメロディを違う響きで幾度も繰り返し、構築していく独特なブルックナーサウンド。

その世界にどっぷりと浸る、濃密な1時間超でした。

 

客席のあちこちから「ブラヴォー!」の声が上がり、大きな拍手が鳴り響きます。

井上さんは5年前のサントミューゼでの公演に触れ、群馬交響楽団をこれからも応援してほしいと締めくくりました。

 

 

終演後はロビーにて、ティンパニ奏者の三橋敦さんと、フルート奏者の中條秀記さんが「ふれあいトーク」を開催しました。

お客様から質問が寄せられ、今回の作品について、井上さんの指揮や普段の練習についてなど答えていました。

 

 

11月17日の群響アウトリーチにゲスト出演した、上田市立第六中学校吹奏楽部のメンバーも来ていました。

「弦楽器が入るとタッチも音圧も違ってきますね」「繊細で透き通った感じがしました。自分もオーケストラで演奏してみたくなりました」と、プロの音楽に感激した様子を話してくれました。

 

お祖父様と二人で来たという中学生は、吹奏楽部でフルートを担当しているとか。

「こんなに長い曲を聴くのは初めてでしたが、迫力があって鳥肌が立ちました」。

お祖父様は「カラオケで演歌が趣味ですが、オーケストラを生で聴くのもいいものですね」と感想を伝えてくれました。

 

 

【プログラム】

(第553回 群響定期演奏会プログラム)

武満徹:鳥は星形の庭に降りる

ブルックナー:交響曲 第7番 ホ長調 WAB107【ノヴァーク版】