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【レポート】金子三勇士~アーティスト・イン・レジデンス

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金子三勇士 ~アーティスト・イン・レジデンス~
2019年7月3日(水)・4日(木)・5日(金)

2015年度に続いて今年度のレジデント・アーティストをつとめるピアニストの金子三勇士さん。7月上旬に上田を訪れ、アウトリーチプログラムにアナリーゼワークショップと、精力的に飛び回りました。
7月3日の小学校でのクラスコンサート、4日のアナリーゼワークショップ、そして5日の地域ふれあいコンサートの模様をレポートします。

 

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金子三勇士さんによるクラスコンサート in 上田市立西小学校
2019年7月3日(水)

 

この日の午前中は西小学校の5年生を対象に、金子さんのクラスコンサートを行いました。

28名の子どもたちが、グランドピアノを半円形に囲むように置かれたイスに腰掛け、金子さんを待ちます。

拍手が鳴り響くなか、燕尾服を着た金子さんは、ほほえみながらまっすぐピアノに向かいます。
間髪入れずフォルテッシモからはじまるパワー全開の演奏に、驚いて顔を見合わせる子どもたち。

曲はバルトークの「オスティナート」です。
これからの45分間への、子どもたちの期待がふくらむのが見てとれます。

 

 

演奏が終わった金子さんは、日本人の父とハンガリー人の母の間に生まれ、ふたつの国にルーツがあると自己紹介をはじめました。

ホワイトボードに貼られた世界地図の前に移り、もうひとつの母国ハンガリーのことを話します。
飛行機で片道14時間かかること。国の広さは北海道と同じくらいであること。そして、人口は約1000万人で東京都の人口より少ないことなど、分かりやすく伝えていきます。

 

 

さらにクイズ形式で、ピアニスト、クラシック音楽、ピアノについて子どもたちの理解を深めていきます。

そして、「これから、普通のコンサートではやってはいけないことをやります」と切り出し、ピアノのそばに近づいたり、ピアノの下にもぐったりして演奏を聴くことを子どもたちに提案します。
金子さんの「よーい、ドン!」の合図で、子どもたちが一斉にピアノに駆け寄りました。

曲はショパンの「英雄ポロネーズ」。
“英雄”と名がつく通りの勇壮さと、ショパンらしい優美さを兼ね備えた曲です。
子どもたちは、ピアノにそっと触れて響きを感じたり、途中で場所を移動して響きの違いを確かめたりしています。
最初はピアノの下が人気でしたが、やはり金子さんの手元が気になるのか、後半は鍵盤が見えるところに集まっていました。

 

 

 

子どもたちに至近距離でずらりと囲まれても集中力は変わらず、ピアノと一体になった演奏を披露した金子さん。
6分超の演奏が終わると、ピアノの下に入っていた子どもは「心臓が震えた!」と興奮して感想を伝えていました。
「ピアノはマイクやアンプを通さないので、コンサートホールで遠くの人まで聞こえるように大きな音が必要です。だから、近くで聴くととても大きい音がするんです」
と金子さんが解説しました。

 

 

次はリストの「愛の夢」。「愛」と「夢」という実体のない抽象的な言葉を、子どもたちがイメージしやすいように丁寧に説明していきます。
演奏がはじまると、集中して前のめりになって聴く子ども、目を伏せて聴く子どもと、思い思いのスタイルで静かで美しいメロディに浸っていました。

最後の曲は、リストの「ハンガリー狂詩曲 第2番」です。

 

 

金子さんは、リストを「僕が一番尊敬している人です」と紹介します。
その理由は「新しいことを考えて実行する人だった」からと、200年前に生きていたリストのチャレンジについて語ります。

そして、自身の生い立ちにも触れます。
金子さんは群馬県高崎市に生まれ育ち、6歳の時にひとりでハンガリーに渡ってピアノを学びました。
多くの困難を乗り越えながら、ピアニストになりたいという当時の夢に向かって、リストのようにあきらめないで挑戦しようと頑張ったそうです。

 

「夢はすぐにはかなわないかもしれないけれど、頑張って続けていれば必ず、少しずつかなっていきます。大人になるのはあっという間です。一回しかない人生だから、みなさんもあきらめないでチャレンジしてください」
と、熱のこもった言葉を贈りました。

 

金子さんの高度なテクニックとスケールの大きさを感じさせる演奏に、子どもたちから大きな拍手が送られました。

 

 

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アナリーゼ(楽曲解析)ワークショップ vol.31
「リストから武満まで ~名曲の背景にせまる」
2019年7月4日(木)19:00~20:00 サントミューゼ小ホール

 

13日(土)に控えているリサイタルのテーマは「日本とハンガリーのピアノ作品が織り成す世界」。
今年は、日本・ハンガリー外交関係開設150周年という大きな節目の年です。日本とハンガリーにルーツを持つ金子さんは、音楽を通じて両国の交流のためのさまざまな活動をされています。

サントミューゼでは4回目となる金子さんのアナリーゼは、意外と共通点の多い両国について、そしてリサイタルで演奏するハンガリーと日本の作曲家の作品について、さまざまなエピソードを交えながら行われました。

 

 

登場してすぐにリストの「ハンガリー狂詩曲 第6番」の冒頭部分を披露し、まず日本・ハンガリー外交関係開設150周年に触れます。
150年前のハンガリーは、オーストリア=ハンガリー二重帝国だったので、おのずとオーストリアとの外交も節目の年になっています。
そして偶然にも、ショパンの祖国であるポーランドとも国交100周年を迎え、今年は音楽家にとっては非常に忙しい年なのだとか。

次に、日本とハンガリーの“コネクション”に話題は移ります。
コネクションは「つながり」や「関係性」という意味で、今回のリサイタルのキーワードです。

 

 

驚くことに、日本とハンガリーには共通点が数多くあるというのです。
まず、人類学的な見地から。ハンガリー人のルーツは東からやってきた騎馬民族のフン族で、日本人と同じモンゴロイド系だそうです。
そして言語。ハンガリーでは人名は「姓+名」、住所は大きいところから「国+町+通り……」という順番で表記します。日本も同じですが、世界的には少数派です。他にも発音が酷似していて意味が同じ単語など、不思議な共通点があります。
音楽については、民族音楽がこれまた少数派の「5音階(ペンタトーン)」という共通点があります。
国民性も、控えめてお人よしだけれど、お祭りなどで別人のように熱くなる点がよく似ているそうです。

 

いよいよ、リサイタルで取り上げる作曲家の話に入ります。
今回は、19世紀ロマン派のリスト、19世紀後半から20世紀にかけて活躍したバルトークとコダーイ、20世紀の現代音楽家である武満徹、さらに時代を下ってウェイネルと吉松隆、という顔ぶれでプログラムを構成しています。

最初は、金子さんがもっとも尊敬している、優れた作曲家でありピアニストでもあったリストです。
リストは編曲をたくさん手掛けていることでも有名ですが、それには背景があると金子さんは言います。

リストは初めて「巡業」をしたピアニストでもあります。ピアノを馬車に積み、遠くの町や村をまわったのです。
「今でいうならば、旅芸人、歩く動画投稿サイトみたいな感じです」と、金子さんは分かりやすく言葉を継ぎます。
都で流行っている歌曲や管弦楽曲をピアノで届けるには、編曲が不可欠です。

リストが編曲した例として「献呈」という曲を演奏します。
これは、同じくロマン派でドイツ出身のシューマンが作った歌曲集「ミルテの花」の第1曲目を編曲したものです。
シューマンが妻クララに結婚前夜に捧げたという逸話の通り、しみじみとロマンティックな楽曲です。

 

 

次は、日本ではまだあまり知られていないウェイネルと、吉松隆のコネクションを解説します。
ウェイネルはバルトークとコダーイに影響され、ハンガリー民族音楽に関心を持つようになります。
対する吉松隆は、初めて手掛けたテレビドラマ作品「平清盛」のメインテーマに、平安時代の歌謡集『梁塵秘抄』を取り入れています。
母国の古い音楽を作曲活動に取り入れた“温故知新”が共通点といえます。

 

ここで、吉松隆の「平清盛」メインテーマから抜粋して演奏を披露します。

 

最後は、1歳違いで仲の良かったバルトークとコダーイ、そして武満徹のコネクションです。
20世紀の新しい音楽は「フランス印象派」が切り拓き、後輩であるバルトークやコダーイに大きな影響を与えました。
金子さんは、フランス印象派のドビュッシーの影響を受けたメシアンを介して、メシアンと親交が深かった武満の楽曲にもフランス的な響きが見出せると解説します。
「音楽はその国の言語と共通点があり、フランス的な響きは、1音1音がはっきりしない、さざめくようなフランス語の語感と似ています」。

そして、バルトークとの共同研究でハンガリー民謡の収集をしていたコダーイの「セーケイ族の民謡」を演奏します。
セーケイ族とはトランシルヴァニア地域に住む人々のことで、コダーイの民謡研究の成果を物語る楽曲のひとつです。

締めくくりとして、最初に演奏した「ハンガリー狂詩曲 第6番」の終盤の約30秒を弾き、ドラマティックに終了しました。

 

 

 

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地域ふれあいコンサート vol.46
金子三勇士 ピアノコンサート
2019年7月5日(金)19:00開演 西部公民館大ホール

 

金子さんの4泊5日の上田滞在は、西部公民館の地域ふれあいコンサートで締めくくりとなりました。

この日も燕尾服に身を包んだ金子さんが、スポットライトに照らされたステージに登場します。
客席に向かって一礼し、ショパンの「革命」で劇的に幕を開けます。

 

 

「金曜の夜に、こんなに大勢の方にお越しいただき、ありがとうございます」と金子さんが挨拶したように、この日は200名を超えるお客様でホールは満員でした。

 

 

「今日のプログラムは、日本との外交関係で節目を迎えた国出身の作曲家で構成しました」と切り出し、ポーランドやハンガリー、オーストリアの作曲家の曲を演奏することを伝えます。

「恒例の質問です」と前置きがあって、「ピアノを1日でも習ったことのある方は、どれくらいいらっしゃいますか?」と、金子さんが客席に呼びかけます。
3年、5年、10年、そして「今」と年数に応じて少なくなるものの、会場のあちこちから手が挙がっていました。

 

 

そして、ピアノ経験のある人にはおなじみの「エリーゼのために」(ベートーヴェン)へと続きます。
実は金子さん、この曲を一度も弾かないまま成人したのだとか。大人になって初めて弾き、曲の美しさを再発見したそうです。

ベートーヴェンと同じオーストリア出身のモーツァルトの「トルコ行進曲」に続きます。
当時のオスマン帝国から伝わったトルコ風の力強いリズムに、流麗なメロディが乗る曲です。

再びショパンに戻り、夜のコンサートにふさわしい「夜想曲 第2番」へ。

「お休みになられても、次の曲でしっかり起こしますから安心してください」との言葉通り、しっとりした「夜想曲 第2番」を聴かせた後は一転、小学校のクラスコンサートでも披露した力強い「英雄ポロネーズ」を演奏します。

結びの2曲は、ハンガリー出身のリストです。

 

日本でリストが取り上げられる時は、甘いマスクで女性に絶大な人気を誇ったことと、ピアノの超絶技巧を生み出したことの2点だけという場合が多いそうで、金子さんはリストの違う面を紹介したいと力を込めます。

 

リストはさまざまな「初めて」を実現した人でした。
例えば、ピアノの大きさ。当時のピアノはサイズも鍵盤の数も音量も、今の半分ほどしかありませんでした。それを大きくしたいと考え、ピアノ職人に働きかけて改良していったそうです。
さらに、ピアニスト単独のリサイタル、各地に巡業しての演奏会、チャリティコンサートもリストが初めて行ったことでした。

リストの1曲目は、19世紀ロマン派らしさを堪能できる「愛の夢」です。
それまでの音楽は、神に捧げるためのものでした。人間の感情を音で表現するという今では当たり前のコンセプトは、ロマン派の発明だったのです。
「愛の夢」には、人間のこまやかな感情がたっぷりと表現されています。

コンサートを締めくくるのは「ハンガリー狂詩曲 第2番」。
「フィギュアスケートで言えば、4回転半ジャンプでずっと跳び続けているような感じです」と金子さんが説明する通り、ピアノの新しい技巧や語法を意欲的に開発したリストの才能がいかんなく発揮されています。

 

 

徐々に盛り上がっていく曲調に内に秘めた情熱をほとばしらせながらも、確かなテクニックで、堂々と弾き切ります。
圧巻の演奏に、ひときわ大きく長い拍手が送られました。

 

アンコール曲はショパンの「黒鍵」です。
名前の通り、主旋律は1音を除いてすべて黒鍵で演奏されます。
この曲が収められている「12の練習曲 作品10」は、ショパンがリストに捧げた曲集です。

1歳違いのふたりは同時代を生き、交友関係もありました。

コンサート終了後、金子さんはお客様と笑顔で言葉を交わし、ひとりひとり見送ります。

 

 

「金子さんのCDは全部持っています」というご夫婦は、「感無量でした。金子さんの演奏はいつ聴いてもいいですね」と感想を話してくれました。

ラジオで金子さんの名前は知っていたという女性は、「生演奏は今回初めてで、圧巻でした。お話もとても良かったです」と笑顔で会場を後にしました。

なじみ深くも弾きこなすのが難しい名曲揃いのプログラムと、金子さんの明晰かつ柔らかいトークで、1時間があっという間に過ぎました。

 

【プログラム】
ショパン:革命
ベートーヴェン:エリーゼのために
モーツァルト:トルコ行進曲
ショパン:夜想曲 第2番
ショパン:英雄ポロネーズ
リスト:愛の夢
リスト:ハンガリー狂詩曲 第2番

〈アンコール〉
ショパン:黒鍵


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