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【レポート】花人・唐木さち「野の花を挿す。響き合うその空間……。」

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サントミューゼ

5月27日(日)、「篠田桃紅 とどめ得ぬもの 墨のいろ 心のかたち」展関連イベントとして、長野県伊那市在住の花人・唐木さちさんによる花入れとトーク「野の花を挿す。響き合うその空間……。」を開催しました。
唐木さちさんは、四季折々のしつらいに合わせて花を活けるとともに、豊かな暮らしの提案をされています。

イベント参加者の皆さんをお迎えしたのは、金屏風の前に並んだ4点の活け花。

 

 

「今日は、何も活けていない器を並べて皆さんをお待ちしようと考えていました。でも、先にたっぷりとしたお花をご覧いただいてから、桃紅先生の作品のような”引き算の美の世界”を表現できたら」と唐木さん。

 

より多くの花入れを拝見できる幸運に、参加者からは期待の拍手が巻き起こりました。

 

 

「花はよく”野にあるときが一番美しい”と言われますが、それはそれで楚々として美しい。けれど、切ったら切ったでまた良い、切ってこそ表現できる世界があります」と唐木さん。

 

参加者は唐木さんのお話を一言も漏らすまいとメモを取ったり、頷いたり、皆さん真剣な表情です。

 

 

一通り花の説明が終わり、いよいよ桃紅作品の世界をイメージした”引き算の美の世界”の花入れ開始です。

 

「お花は、外す前に”ありがとうございました”と声をかけてから外すんです。この子は華やかな世界から、ちょっと侘びた世界に…」と1本1本を大切に扱う唐木さん。

 

静かな会場内には、唐木さんが枝を切る音が響き、何ともいえない緊張感です。

 

 

「省くということは、1つ1つに力がないと省けません。引き算というのは、あるから引けるんです。同じ種類の花でも、個々の花によって見極めて組み合わせていく、それが大切です」と唐木さん。

 

  (右)活けなおした花

 

「できました」と参加者に見えるように花器を回転させる唐木さん。

会場の至る所から「おー!」「素敵!」という感嘆と、拍手が巻き起こりました。

 

花を挿し直すだけでなく、花器の下のお盆を変えることで、ぐっと渋い雰囲気になり、また印象が変わります。

 

次に取り出したのは、こげ茶色の枯れた平たいもの。一見何か分からないこの素材は、南方の豆だそうです。

「今回のイベントでなければ、普段はこんなことはしないんです。でも創作をしていくということは、いろんな方の影響や刺激を受けること」と話す唐木さん。

 

 

32歳の時に桃紅さんの書と出会い感銘を受けたことや、その後、岐阜の画廊の桃紅さんの作品の前で花を活けたこと、また2017年に菊池寛実智美術館で直接桃紅さんにお会いしてお話しをした時のこと。様々な思い出を語りつつ、手を止めない唐木さん。

 

 

桃紅さんを心の師として敬い続けてきた唐木さん、花入れにも思いがこもります。

できあがったその姿に、会場からはまた拍手が巻き起こります。

 

 

 

「花って空気が変わりますよね。絵の具や筆で描くことと同じではないけれど、花に犠牲になってもらって、組み合わせを見せることでその人の美学が出来上がります。花に育ててもらうんです。だから、”本当に綺麗ね”と言っていただけるように仕上げてください、と皆さんにお話することがあります」と唐木さん。

 

活けられた花の美しさから、唐木さんの美学が伝わってきます。

 

 

次は、唐木さんのお庭から持ってきたという立派な松の枝を使用。

雨の朝、新聞を取りに行くときに見かけた見事に苔むされた姿に、「これしかないと思い、思わずのこぎりで切ってきました!」と唐木さん。その松をベースにして、剣山を使わずに見事に入れられた花は、”引き算の美”そのものです。

 

 

 

「この花は是非立って近くでご覧ください」という唐木さんのお言葉に、参加者は一列に並び順番に観賞しました。

 

「(花の量が)少なくても満たされる空気感があるんです。花の香りまで味わっていただきたくて近くでご覧いただきました」

 

 

 

 

「(少し傾けて)こうすると(花器から、葉の先まで)放物線になります。放物線というのは投げ入れの基本です。綺麗な放物線を描くことによって、人の目と心に美しさが届きます」

花を挿しながら、入れ方のポイントも教えてくださる唐木さん。

 

 

「物事は何でも工夫次第で、(何か少しプラスすることによって)花が咲くんです。ちょっとした知恵で世界が生まれるんです。自分を自然の中に身を置くことによって、答えが生まれてきます。

この子はどんなドレスが好きなのかな』と花の気持ちを考えてあげると、野とは違った美しさを魅せてくれます。そのように”魅力を生かしきる”ということが、切った者の務めなのではないかとも思います」と締めくくりました。

 

 

 

イベントに参加したお客さまからは、

「同じ花でも、扱いひとつで変化があり、スッキリと活けられた花たちの凛々しい姿が印象的で見入ってしまいました」という唐木さんの花入れへの感激の声や、「花で篠田作品を考えるという切り口が面白いと思いました」と東京都から参加された女性。

「花に対してはもちろん、いろいろなことに感心いたしました。残りの人生、すごく楽しく、有意義に過ごせそうな気がしましたし、そうなるよう心がけます」という、生き方のヒントをいただいたとおっしゃるお客さまもおられました。

 

「響き合うその空間……。」というタイトルのとおり、”組み合わせの美”や”引き算の美”など、様々な発見と感動にあふれたイベントとなったのではないでしょうか。