【レポート】菊池洋子 クラスコンサート at 上田市立川辺小学校
サントミューゼクラスコンサート 上田市立川辺小学校
ピアノ:菊池洋子
2023年9月22日(金)
サントミューゼの2023年度レジデント・アーティストである、ピアニストの菊池洋子さん。市内の公民館でのふれあいコンサートや小学校でのクラスコンサート、アナリーゼワークショップといった活動を行っています。
この日は川辺小学校を訪れ、クラスコンサートを行いました。音楽室に笑顔で登場した菊池さんを、5年生の子どもたちが拍手で迎えます。
最初に演奏したのは、ショパンの『子犬のワルツ』。澄んだ音色が軽やかにエレガントに響き、遊ぶ子犬の情景が浮かんでくるよう。なめらかに動く菊池さんの手元を、子どもたちはじっと見つめていました。
演奏後に挨拶した菊池さん。「私は今、日本の他にオーストリアのウィーンに住んでいます。今日は、その街の曲を演奏したいと思います」と話し、オーストリアの場所や、昔は多くの作曲家が集まっていた街であることを話してくれました。
ウィーンにゆかりのある作曲家の一人がモーツァルト。「(名前を)聞いたことある!」と子どもたち。演奏したのはモーツァルトの『トルコ行進曲』です。有名な曲ですが、菊池さんの演奏は驚くほど表情豊か。一つひとつの音が、いきいきと際立ちます。演奏する菊池さんの楽しそうな表情も素敵でした。
続いてはベートーヴェンの話。35年ウィーンに暮らす中で、50回近く引っ越した「引っ越し魔」であったこと、コーヒーを淹れる時は「豆は60粒」というこだわりがあったことなど、ユニークなエピソードを話してくれました。そして演奏した『エリーゼのために』。美しく、ドラマチックな音色が秋の空に溶けていきます。
次はシューベルトの作品『即興曲Op.90-2』。演奏前に解説してくれた通り、きらきらと輝く水が流れるような美しい冒頭部分を経て、情熱的な中間部へ。音の強弱が織りなすドラマ性に圧倒されました。子どもたちもじっと聴き入っています。
交響曲で知られる作曲家、ブルックナーによるピアノ曲『シュタイアーマルクの人々』は、ウィンナーワルツ風の曲。「3拍子の曲ですが、2拍目と3拍目の間が少し空いた“遊びの時間”があるのがウィンナーワルツの特徴です」と菊池さん。そんなリズムを思いながら聴く曲は、オーストリアの街並みを軽やかにスキップするシーンが浮かんでくるようでした。
「街を散歩する気分になってもらいましたので、次は森の中を歩く気持ちになってほしいと思います。マーラーが歌のために作曲した『私は緑の森を楽しく歩いた』。自然豊かな上田には、この曲が良いなと思って選びました」
そう話して演奏した曲は、森を思わせるみずみずしいメロディー。おおらかな音に包まれて、心が穏やかになるようです。鳥のさえずりのような楽しいフレーズも印象的でした。演奏後にもう一度、「この部分が鳥の鳴き声みたいでしたね」と弾きながら説明してくれました。
続いて、ポーランドからウィーンに移り住んだゴドフスキーによる『古きよきウィーン』。
「ウィーンはカフェ文化が成熟していて、ベートーヴェンもブラームスもカフェが大好きだったそうです。今も週に何度もカフェでゆったり過ごしたり新聞を読んだり、友達と話したりする文化が根づいています。そんなウィーンの空気を感じてください」
楽しく、洒脱で、大人の余裕を感じる音楽。ウィーンのカフェの空気を運んでくるような素敵な音色に、子どもたちも聴き入っていました。
ピアノは1台でオーケストラの曲を表現できるなど、多様な世界を作れる楽器です。そう話して演奏したのが、チェロとハープの曲をピアノ曲にしたサン・サーンスの『白鳥』。ゆったりと優雅な音に包まれるような心地よさがありました。
チャイコフスキーがバレエのために作曲した「白鳥の湖」より、有名な『情景』も演奏。力強く情熱的な左手の音と、きらめくような右手の音。強い色彩が浮かび上がってくるようでした。
そして長野県出身の作曲家、草川 信による『ゆりかごの唄』と『ゆうやけこやけ』を。なじみあるメロディーが優しく、美しく響きます。菊池さん自身も、幼い頃の子守唄といえば『ゆりかごの唄』だったのだそう。『ゆうやけこやけ』は、日が沈む帰り道の情景が浮かんでくるようでした。
最後に子どもたちから菊池さんへ、多くの質問が寄せられました。「ピアノを始めた理由は?」という質問には、「幼稚園で先生が毎日弾いてくれていたアップライトピアノの音が素敵で、両親に頼んで習い始めました。4歳の時です」。「1日どれぐらい弾きますか?」という質問には「皆さんの年の頃は、学校が終わった後に毎日4時間ぐらい。今は家にいる時は毎日平均8時間弾いています。皆さんが勉強しているぐらいの時間ですね」。昔から努力を重ねてきたことが伝わってきました。
「音に幅を出すにはどうしたらいいですか?」という質問には「何回も練習して何回も聴いて、考えなくても手が動くようになるまで体に染みつくようにします。そして楽譜を隅々まで見て『作曲家はこれを表現してほしいのかな』と汲み取り、毎日試してみる。そうして少しずつ、音の幅が出るようにしています」と興味深い答えが。
今まで一番感動した曲を聞かれると、「コロナ禍で演奏会ができない時期、心の支えになったのがバッハの音楽でした。1時間20分の大作『ゴルトベルク変奏曲』がとても好きで、時間がある今こそとコロナ禍に勉強しました。この曲が、今一番心にぐっとくる曲かな。人の一生を表しているかのような曲に感じ、壮大で癒されます。皆さんもぜひ聴いてみてください」と語りかけました。菊池さんの温かな人柄にも触れた、豊かなひとときでした。