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【レポート】リーディング公演『シナノイルカ、地中を泳ぐ』

みる・きく
会場
サントミューゼ

≪まちとつながるプロジェクト/上田街中演劇祭2022参加作品≫

リーディング公演『シナノイルカ、地中を泳ぐ』

作:髙山さなえ(髙山植物園)

演出:土田英生(MONO)

2022年12月25日(日)

犀の角

 


 

演劇に関わる様々な地域の方々が、全国で活躍する劇作家、演出家、俳優との作品制作や交流を通じて、演劇活動のステップアップの場の創出と、劇場が地域と繋がることをミッションに、サントミューゼと犀の角がタッグを組んで令和2年からスタートした「まちとつながるプロジェクト」。

 

今年度は松本市出身の劇作家・髙山さなえさんが、上田地域の風物を書き下ろした新作戯曲『シナノイルカ、地中を泳ぐ』をもとに、劇団MONOの代表である土田英生さんを演出に迎え、俳優が台本を手にしながら演じるリーディング公演を開催しました。

 

キャストは市民を中心とした6名です。

 

3日という短い稽古期間ではありましたが、稽古中の土田さんのユーモア溢れる話術もあり、出演者たちは和やかな雰囲気のなか充実した稽古を重ね、公演を迎えました。

 

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公演当日は当初約40席であった席数を急遽増やすほど多くのお客様が来場。

本公演への期待の高さが伺えます。

 

普段はカフェやバーとしても親しまれているように、街に開かれた「犀の角」。

 

この日は暗幕が張られ、劇場らしく、開演前の独特な空気が濃厚に漂います。

 

 

開演すると、舞台上手から揃いのフリースジャケットを着た6人のキャストが登場。

 

かつては海の中だった上田市の山中で、1500万年前のシナノイルカの化石が発見されました。

その復元に取り組んでいるのが「シナノイルカサークル」。

毎週金曜日の深夜、メンバーが集まってきます。

 

大学教授でサークル代表と思しき遠野先生、塾講師の西尾先生、産婦人科医の三溝先生、教員の沓掛先生と同僚で新入りの渚先生と、メンバーは全員“先生”です。

 

 

西尾先生が管理する山中の倉庫、通称“シナノイルカハウス”に集まり、化石の復元作業をしながら展開される会話の中で、それぞれの個性的な人となりが見えてきます。

 

そんな会話の最中、渚先生はサークルメンバーの面々から衝撃の事実が告げられます。

 

それはなんと、イルカハウス地下に広がる洞窟に水脈があり、そこで泳ぐイルカを発見したということ。

 

新入りの渚先生にとっては俄かには信じられない様子。

しかし西尾先生に洞窟へ案内され、実際に目の前に広がるイルカが泳いでいる様子を確認するとショックを受けます。

 

 

しばらくして、ついに化石の復元に成功した一同。

 

地下水脈に泳ぐイルカたちの発見も相俟り、遠野先生はサークルを法人化、「シナノイルカハウス」オープンに向け、本格的に活動をはじめようと宣言。

そのために西尾先生は塾講師をやめ、三溝先生は獣医師になるために大学に入り直すと言います。

 

そこで沓掛先生は、教員を辞めることと同時に衝撃の内容を打ち明けます。

妊娠していて、お腹の子どもはイルカであると。

 

暫しの沈黙。

 

混乱するメンバーをよそに、沓掛先生は異種間でも受精・出産はできること、さらにゆくゆくは自分の卵子を使って”ヒトイルカ”を産みたいことを、キラキラした目で話し続けます。

 

すると三溝先生が「私も産みたい」、さらに男性である西尾先生までが「僕は、イルカを産むことが出来ないんでしょうか?」と言い出します。

 

狂気的とも思える会話に、渚先生は混乱の極みに陥り「ここで見た事は誰にも言いませんから」と言い残して逃げるように立ち去ってしまいました。

 

 

渚先生が去って以降のある日、イルカハウスに集まった三溝先生とお腹が大きくなった沓掛先生が、遠野先生と連絡が取れないとこぼします。

 

すると突然外から「動物虐待!」と叫ぶ人々の声。

中心には動物愛護団体のハチマキをした遠野先生の姿が見えるではありませんか。

 

遠野先生と相対し、三溝先生と沓掛先生は「私たちは何も悪いことはしていない。話し合えば分かってもらえる」と訴えます。

 

しかし「あなたたちの暴走を止められなかった私の罪は重いと思います」と遠野先生。

そして沓掛先生がイルカを妊娠したいと言った時から、心底恐ろしいと思いながらも表面上は賛成しているふりをしてきたこと告白。

 

その後も三溝先生と沓掛先生は話を聞いてくださいと説得を試みますが、遠野先生は「あなたの言葉は私に通じない」と冷たく切り捨て。

数日中にイルカハウスから出ていくよう通告し、動物愛護団体のもとへ戻っていってしまいました。

 

 

3人は愕然としながらも、意気軒高にSNSを通じた反撃やイルカハウス籠城を画策。

 

その時、イルカの赤ちゃんが沓掛先生のおなかを蹴って存在を主張します。

 

窓にはなかなか帰らない動物愛護団体の車のライトが差し、絶望の淵に立たされるなか、今やイルカの赤ちゃんだけが希望となり、3人は懸命に祈るのでした。

 

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公演を観たお客様の感想です。

 

「リーディング公演は初めてです。想像をはるかに超える不思議で詩的な世界に誘ってもらいました」と話してくれたのは、お芝居が好きな女性。

 

他にも、上田が舞台の戯曲であることに関心を寄せて来たという女性は、「実在する化石の話から奇想天外な展開で『そう来たか!』と驚きました。話せば伝わる、伝わらないという点は現実に通じるなと感じました」と感想を話してくれました。

 

 

作:髙山さなえ(髙山植物園)

演出:土田英生(MONO)

出演:

黒岩力也(わかち座)……西尾先生 役

小松順子……ト書き

姫凛子……遠野先生 役

松﨑晃……渚先生 役

石丸奈菜美(MONO)……沓掛先生 役

高橋明日香(MONO)……三溝先生 役

 

スタッフ:

舞台監督……村上梓

照明……伊藤茶色

音響……唐川恵美子

制作……根岸佳奈子(百景社)

宣伝美術……yone michiru