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【レポート】澤菜穂子&三浦友理枝~アーティスト・イン・レジデンス

みる・きく
会場
サントミューゼ

澤菜穂子(ヴァイオリン)&三浦友理枝(ピアノ)

クラスコンサート in 上田市立東小学校

2020年2月26日(水)

 

 

2019年度レジデント・アーティストの、ヴァイオリニストの澤菜穂子さんとピアニストの三浦友理枝さん。2020年1~2月にかけて上田市内で、アウトリーチプログラム、クラスコンサートなどを実施しました。

 

今回、3月7日(土)のリサイタルは新型コロナウィルス対策のため残念ながら中止となってしまいましたが、2月26日(水)に開催された、東小学校でのクラスコンサートの模様をレポートします。

 

この日の午後は、5年2組の児童たち約25名が対象。音楽の先生の声かけでおふたりが音楽室に入り、子どもたちの拍手で迎えられました。

 

1曲目はバルトークの「ルーマニア民俗舞曲」。6曲のうち「棒の踊り」と「足ぶみの踊り」を披露します。

独特のリズムと和声が、澤さんのビビッドで情感たっぷりのヴァイオリンによって、目の覚めるような音楽に昇華していきます。

 

 

演奏が終わると自己紹介し、「コンサートホールに行ったことがある人はいるかな?」と子どもたちに問いかけます。

舞台と客席に距離があるコンサートホールと違って、「私の息づかいまでみんなに聞こえるほどの、これだけ近い距離で聴くことはあまりないと思います。私と三浦さんがどうやって息を合わせているのかも、見てみてください」と、リラックスして楽しんでほしいという気持ちを伝えます。

 

1曲目の舞台はルーマニアで、「あえてみんながよく知らない東欧の国の曲を取り上げました」と澤さんが話します。

ルーマニアの民族衣装の写真を子どもたちに見せて、イメージを膨らませる手助けをします。

 

民俗舞曲は、ヴァイオリンもピアノもない時代からある音楽です。

「どうやって音楽していたと思う?」と問いかけると、「手拍子」「歌!」という声がすかさず飛び、澤さんは「完璧!」と笑顔で応じます。

「棒の踊り」はステッキを使った男性の踊りなので、曲も勇ましいです。「足ぶみの踊り」は足ぶみをピアノが表現して、ヴァイオリンは口笛のような音でエキゾチックな音色を奏でます。

 

 

次は、三浦さんのピアノ・ソロでラフマニノフの「鐘」です。三浦さんが改めて挨拶をして、この曲について解説をします。

 

ラフマニノフはロシアの作曲家・ピアニストで、2メートル近い長身の男性でした。背が高いだけでなく手足も長くて手も大きく、ドからオクターブを超えてラの音まで指が届いたというのは有名な話です。

 

ヨーロッパには、どんな小さな町にも教会が必ずあり、毎正時に鐘が鳴ります。

この曲は、遠くの鐘と近くの鐘、高い音の鐘と低い音の鐘というように、いろんな鐘の音や遠近感を表現しています。

実際に三浦さんが弾くと、幾重にもかさなる鐘の音が感じられます。

 

 

そして、3曲目はグリーグの「ヴァイオリン・ソナタ第3番」より第3楽章を。

グリーグはノルウェーの作曲家です。東欧のルーマニア、さらに東のロシアときて、今度は北欧です。子どもたちもあまりイメージがないのではと思いきや、「オーロラ」というキーワードが出てきます。アニメーション映画『アナと雪の女王』は北欧が舞台だと澤さんが話すと、子どもたちも一気にイメージが湧いてきたようです。

 

さらにグリーグの写真を子どもたちに見せると、「アインシュタインに似ている!」という声が。

グリーグは小柄な人で、演奏会の時は緊張しないように、大事にしているカエルの小さな置物をポケットに忍ばせていたそうです。

 

ここである音源を流します。グリーグ作曲「ペール・ギュント」から「朝」です。

「聴いたことがありますか?」と尋ねると、「上田城で朝、流れている」という地元ならではの答えが飛び出し、澤さんと三浦さんは驚きつつ笑顔に。

 

 

 

グリーグは、「ヴァイオリンソナタ第3番」を、妖精の住む丘と言われる場所に建てた作曲小屋でつくったそうです。

北欧で妖精といえば「トロール」。そこで、トロール人形の写真を見せます。毛むくじゃらで小さく愛嬌のある姿に、子どもたちは大笑い。

 

第1主題は、まるでトロールが登場するような雰囲気だと澤さんは話します。素朴な雰囲気に満ち、トロールが木を切っているのか、川のそばを歩いているのか……。

「いろんな場面を思い浮かべながら聴いてほしい」と伝えて、演奏に入りました。

 

速弾きや歌うようなメロディなど、ヴァイオリンの美点をたっぷり味わえる曲は、時に民族音楽的な味わいも顔を出し、独特の世界をつくりだします。

子どもたちはしばし、グリーグの音楽世界に身を浸します。

 

 

 

質問コーナーでは「いつから(楽器を)やっていますか?」「そのヴァイオリンはいくらしますか?」という質問が出てきました。

澤さんと三浦さんは、子どもたちの率直な質問に驚きつつも、丁寧に答えていました。

「ヴァイオリン本体もですが、実は弓も重要です。木の部分のバランスをつくるのが難しいので、弓だけで1000万円、2000万円するものもあります。弓の値段を尋ねたほうが『通だな』と思ってもらえるかもしれません(笑)」。

 

最後にアンコールとして、先ほどのグリーグ「ヴァイオリン・ソナタ第3番」の第2楽章から抜粋して演奏しました。

 

演奏が終わり、おふたりは大きな拍手で見送られます。

音楽の先生が「弦楽器のことについては、また次の授業の時間でやりましょう」と、この体験を大切にしたいという想いを子どもたちに伝え、クラスコンサートは終わりました。