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【レポート】鈴木ユキオ コンテンポラリーダンス公演『Roomer』 オープンスタジオ

みる・きく
会場
サントミューゼ

鈴木ユキオ コンテンポラリーダンス公演『Roomer』オープンスタジオ

2月2日(土)15:00~ at サントミューゼ大スタジオ

 

 

国内外のダンスフェスティバルやレジデントプロジェクトなどで活躍し、繊細かつ強靭な身体とダンスで魅了する振付家・ダンサーの鈴木ユキオさん。1月中旬から約1カ月に渡って上田に滞在し、2月16日・17日に公演する新作『Roomer』の制作やワークショップを行っています。

今作のテーマは上田市出身で国際的に高い評価を得た商業写真家、ハリー・K・シゲタ。

鈴木さんが彼の作品と向き合い生み出すのは、どのような表現なのでしょうか。

 

 

この日行われたのはオープンスタジオ。

作品の制作過程を公開し、鈴木さん自身の言葉で解説して作品の一部を参加者に体感してもらう試みです。

 

会場は本公演と同じ大スタジオ。制作真っただ中の現場で行われ、参加者はステージと地続きの客席で鑑賞します。ステージ片側には巨大パネルが据えられ、スクリーンとして様々な風景やパターンが代わる代わる映し出されていました。

そしてもう片側には、白い光に照らされた木のデスク。上には古びた文具やオブジェ、写真などが置かれています。

 

 

 

「今はこの会場を使って、演奏と照明の組み立てを試行錯誤しているところです。その過程の断片を見てもらえたら。ハリーさんの作品にはいろいろな写真がありますが、一つひとつの写真の部屋、いろいろな側面を旅していくイメージでタイトルを『Roomer』としました」

と挨拶した鈴木さん。

 

最初に上田市立美術館の学芸員、松井宏典よりハリー・K・シゲタの解説が行われました。

上田市に生まれ、15歳で美術を学ぶため単身アメリカに渡ったシゲタ。絵のためにモデルを撮影するうち、絵とは違って現実を写すしかない写真の「不自由さ」に興味を持ち、写真の修整という分野に着手しました。

ネガに鉛筆で書き込んで現像することで絵画のように豊かな表現を行い、商業写真家としても成功を収めます。

 

 

 

今作は音楽を井上裕二さん(Dill)、映像を山田晋平さんと、これまで鈴木さんの作品に関わってきた二人が制作から参加し作り上げています。

今日は鈴木さんの身体表現に合わせて音と映像、照明プランを構築していく様子をライブで見せてくれました。

 

井上さんらに「試しなので、いろいろ遊んじゃって大丈夫」と伝えた鈴木さんがパネルの前に立ち、自由に踊りを始めます。

パネルにはたゆたう海の波の映像、そして躍動する鈴木さんの影。そこにピアノとヴァイオリンの静かな音色が聴こえてきます。

 

 

客席後方にいる井上さんと山田さん。鈴木さんの動きに合わせて映像や照明を合わせ、音楽はその場でパソコンとキーボードなどを使って生で演奏しています。

研ぎ澄まされた緊張感の中でも「こんな風にできる?」「これいいね」などフランクに言葉を交わしつつ試行錯誤する様子が伝わってきました。

 

「音や映像のプロと一緒に作ると、『こういうこともできるんだ』と自分の想像を超えてくるのが楽しい。照明や映像、音が入ってくると、体一つのダンスがすごく広がっていく。そうした集団作業なので、今日は創作の裏側の世界を見てほしかったんです」

と鈴木さん。

 

ステージのデスクはシゲタの仕事場をイメージしたもの。オルゴールを鳴らしたりパールの粒を天秤の皿にパラパラと落としてたり紙をぐしゃっと丸めたり、デスク上の物でいろいろな音を出していく鈴木さん。

デスクにセットされたマイクが拾った音を、録音しリフレインさせたりさらに音を重ねたりと、現実との微妙なズレが不思議な感覚をもたらします。

 

デスク上部には四角いスクリーンが斜めに吊り下げられ、鏡のようにデスク上の様子を反転しモニタリングするユニークな仕掛け。

パフォーマンス中に山田さんが鈴木さんの立ち位置の変更を提案してスクリーンへの映り方を変えたり、照明の明るさや角度調節も並行して行われ、さまざまな表現を試していきます。

 

 

 

「シゲタさんが写真の修整を行う時に“ズレ”と“増幅”を取り込んでいたことをヒントに、うまく加工できたらと考えました。今は、できることを探って試している段階です。全員でいろいろなアイデアを出し合って、最後に引き算をしながら仕上げていきます」

と鈴木さんは語ってくれました。

 

さらにシゲタの略歴の断片を音読しながらデスクの周囲を歩き、デスク上の物を手に持って床に置くことを繰り返します。何もなくなったデスクを倒し、ぽっかりと空白になった場所で静かな熱量を感じるダンス。

暗室のように赤い光で染めたり照明の角度を変えたり床一面に映像を映したりと、変化するステージの様相。環境音のようなものからメロディアスなものまで、音によってイメージがさらに増幅していきます。

 

 

 

 

 

終了後、「ハリーさんの生き方と自分の人生の重なるポイントを見つけられたら、と思いながら制作しています」と語った鈴木さん。

身体と音、光、映像で一体どんな世界を構築するのか。公演への期待が高まります。

 

公演の詳細はコチラ

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