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【レポート 】鈴木ユキオ コンテンポラリーダンス公演『Roomer』

みる・きく
会場
サントミューゼ

鈴木ユキオ コンテンポラリーダンス公演『Roomer』

2月16日(土)・17日(日) 14:00~ サントミューゼ大スタジオ

 

 

 

国内外で活躍し、上田でもこれまで圧巻のパフォーマンスの数々を魅せた振付家・ダンサーの鈴木ユキオさん。
今回の新作『Roomer』では、上田市出身で世界的に評価された商業写真家、ハリー・K・シゲタ(1887〜1963)に焦点を当てました。

 

客席までの通路にはシゲタの略歴や写真作品を展示し、彼の世界観に触れながら会場へと向かいます。

 

 

舞台下手には巨大なパネルが立ち、上手にはカメラや文房具が置かれた木の机が据えられていました。

 

満席で開演。低音と高音が入り混じった唸りのように不思議な音が響くなか、暗闇に現れたのは真っ白な衣服に身を包んだユキオさん。
音と呼応し合うように大きく腕を振り上げては下ろす姿が、影となって背後のパネルや黒い幕に映し出されます。

 

 

指の先まで注意深く、自分の体を確かめるかのように。全身で、時に手のひらで羽ばたく鳥を思わせる動きは、次第に躍動的な動きへ。

パネルには舞台上のものとも似た、机を描いた絵画が映し出されました。
部屋の中を歩いているように絵がゆっくり横へ流れていき、現れたのは海を眺める窓辺のシーン。
15歳でアメリカへ渡り、多くの困難を乗り越えて成功を収めたシゲタ。その旅立ちを想起させます。

ユキオさんは動きのベクトルをさまざまに変えながら、時にパネルの奥の海に向き合う「静」の時を挟みつつ、空間の余白を楽しむように伸びやかに踊り続けます。

 

やがてスクリーンに大きく映し出されたのはシゲタのモノクロ写真。
静寂が訪れ、ユキオさんが机の椅子にゆっくり腰を下ろすと、その影がもう一人の存在のようにパネルに大きく映し出されます。

 

 

机上部の空間には、大きなスクリーンが斜めに吊り下げられていました。机の上をライブでモニタリングした映像が、モノクロで映し出されます。
写真をめくったりオルゴールを回したり。今そこにいるユキオさんの動きですが、スクリーンに映ると時間を隔てたような不思議な感覚です。
壁に映る影もあいまって、虚像と実像が入り混じる心地よい混乱が生まれていました。

 

机の上にパールの粒を落とす乾いた音、手巻きオルゴールの音色。それをサンプリングした音楽が、空間を包んでいきます。
ユキオさんが以前話していた「シゲタさんが写真の修整を行う時に“ズレ”と“増幅”を取り込んでいたことをヒントに加工できたら」という言葉が蘇りました。

 

ユキオさんの手からさらさらとした白い砂が机のまわりにこぼれ落ち、その上を自身がゆっくり這うように歩きます。
砂の上に残される手足の跡。砂の山に光があたって現れた柔らかな陰影は、穏やかなコントラストのシゲタのモノクロ写真を思わせるよう。

 

 

そして暗転。
暗闇の中、赤い光を放つ電球が一つ、上方から下りてきます。赤い光を浴びて砂の上に座るユキオさんには、ただならぬ雰囲気が漂っていました。
時折電球を揺らすと、暗闇に光の残像がぼんやりと浮かび上がります。
暗室を思わせる真っ赤な世界で見せる研ぎ澄まされた動き、舞い立つ白い砂。小さく唸るような音をバックに響く、美しいアコーディオンの音色。時折パッと閃光のように光る白は、ストロボのイメージなのでしょうか。

 

 

赤い光がやみ、明るく照らされたステージは、胎内から新しい世界へと生まれ出たかのようでした。
ユキオさんの動きも大きく、目を見開いて、前へと向かっていく雰囲気です。

 

白く強い光を浴び、激しく躍動する一つの体。ほとばしる汗と熱が客席まで伝わってきます。
心臓の鼓動とノイズが混じったかのような音楽は次第に大きくなり、観る者の感情を高ぶらせます。

 

 

 

スクリーンにはシゲタの写真。横からの強い光が、踊るユキオさんの影をパネルに大きく映し出しました。
そこへ歩み寄る、もう一つの淡い影。ステージにいないはずのこの影は誰なのだろう?もしかするとシゲタかもしれない、と思ったときに言い知れぬ感動が押し寄せます。
けれどそれは明らかではなく、ユキオさんの内面にいるもう一つの人格かもしれない。躍動するユキオさんと対照的に、ゆっくりと机の椅子に座るもう一つの影。
先ほど座ったユキオさんの影のリフレインでしょうか。

 

ユキオさんはもう一つの影と対話するように、向かい合ったり近づいたり、影に合わせて椅子を置いたり。
二人の緩急の対比は違う人物のようでもあり、同じ人の別の表情を見ているようでもあります。
もう一人の影がゆっくりと客席側に近づいてきたとき、まるでシゲタが現れたかのようで、一つの物語を見ている感覚でした。

 

 

影が消え、音楽も消えた会場に響くのはオルゴールの小さな音色。

余韻を残し、去っていくユキオさん。
舞台に立っていたのはユキオさんただ一人でしたが、去来する影と対話するかのようなパフォーマンスは、身体表現の豊かな可能性、イマジネーションを広げる楽しさを教えてくれました。