サントミューゼ(上田市交流文化芸術センター・上田市立美術館) おかげさまでサントミューゼは10周年

JA

【レポート】田畑真希 コンテンポラリーダンスワークショップ

体験する
会場
サントミューゼ

田畑真希 コンテンポラリーダンスワークショップ

2019年5月11日(土)・12日(日)

 

国内外で活躍する振付家・ダンサーの田畑真希さんによるダンスのワークショップを開催しました。
一日目は、気軽にコンテンポラリーダンスにふれられるワークショップ、そして2日目は7月に田畑さんと一緒に舞台に立つ、市民参加公演に向けての出演者ワークショップでした。

 

【5月11日(土)14:00~16:00 at サントミューゼ大スタジオ】
この日集まったのは、中学生から中高年の方まで年齢も性別もさまざまな11人。

全員でストレッチした後、互いにぶつからないようスタジオ中を動き回りました。「歩いて!」「走って!」の声に合わせて動きを変える参加者は、息を切らしながらも楽しそう。さらに「1本足で止まって」「3本足で、そのまま歩いて」とのユニークな指示に笑いが起きつつも、体全体を使って楽しんでいました。

 

 

「天井までめいっぱい、100%体を伸ばして」、その後「100%から0%になって!」との声を受けて一気に床に崩れ落ちます。
「上から吊られていた糸を切られたように」と言われますが、これが意外と難しいもの。

次はスローモーションで「100%から0%」「10%から20%、30%……」と、体の伸び具合を微調整するワーク。
途中でキープするのはつらそうですが、末端まで神経を尖らせ、筋肉を意識しているのが分かります。

ここで突如、奇妙な音の笛を吹き始めた田畑さん。
それに合わせて参加者たちは、自然と体を動かし始めました。音の高低差や長さに合わせて、時にリズミカルに、時にゆっくりと、どのように表現するか考えながら。
さらに「右手だけ」「左肘だけ」「おへそ」と体のパーツを指定すると、体の部分に集中しつつ見えない力に操られるように動く体たち。
それを見て「上田の人たち、いいね!」と田畑さん。

 

続いて二人一組で「体の質感」を意識するワーク。
一人の体が「凍った状態」になり、もう一人が相手の体を触るうちに自分も凍り、するともう一人は溶けて動き出す……という動きが連鎖するというものです。

「溶ける時の質感、変化を考えて」

相手にくっつくことで思いもよらないポーズが生まれ、溶ける動きはスローかつ相手の形を壊さないよう緊張感を宿してと、相手がいるからこそ生まれる発見がありました。

 

 

人差し指の先や肘など、二人が体の一箇所をくっつけたまま動くワークでは、予定調和でないやりとりから、有機的かつダイナミックな動きが生まれます。

「どちらかが『動かす役目』になると体が離れてしまいます。相手を聞いて反応し合えば自然に動き続けるし、おもしろい動きも出てきますよ」

その言葉を踏まえ、「皮膚の下に水袋があると想像して、それを壊さず二人で互いの水を循環させるイメージで動くワーク」。
体の境界を意識し、相手の動きを探りながら織り成す動きは、緻密な美しさがありました。
終了後は「難しかったけど、だんだん溶け合う感じになった」との感想が。

今度は同じワークを、目隠しでスタート。当たっても痛くない「丸い体」を心がけながら触感を研ぎ澄まし、ゆったりと繊細に動きます。

さらに目隠ししたまま広い空間を歩き回り、偶然出会った人と「水を循環させる動き」を始めるワーク。

そろそろと足を踏み出した参加者同士が出会うと、まるで何かの儀式のように丁寧に、互いの「水」をゆっくり循環させます。
自分は今誰と触れ合っているのか、体はどのようにつながっているのか。触感を研ぎ澄ませ、注意深く。
4、5人が群れのようにつながる瞬間もあり、くっついたり離れたり低くなったり高くなったり、その動きは意思を持った一つの生き物のようで、空間全体の見え方さえも変化していました。

終了後、目隠しを取った参加者は「ここが頭?など、かなり想像をめぐらせた」と、楽しそうに感想を話しました。

 

 

最後に、「体が凍る」と「水を循環させる」をつなげて行うワーク。
参加者は楽しそうな様子で、最初の頃に比べると姿勢や空間の使い方ものびのびとしていました。

「ダンスを作る時は『何から作っていけばいいか』を毎回考えるんですが、最近は『能動的な体』と『受動的な体』、色々に変わっていけたらいいなと思っています」
と田畑さんは終了後に語ってくれました。

参加した女子中学生は
「相手を『聞く』ことが大事だと分かったし、普段の生活にも活かせそうな気がする」
ダンスのワークショップに参加するのが2回目という女性は
「言葉の意味を考えてしまうクセがあるので、もっと素直に感じるようになれたら。難しいんですけどね」
と感想を語りました。

 

 

【5月12日(日)14:00〜16:00 at サントミューゼ大スタジオ】

 

この日は、7月15日に開催する田畑さんのダンス公演の市民出演者に向けてのワークショップ。
10名の参加者の中には、昨日から続けて参加する人もいます。

ストレッチから始まり、スキップや小走り、あえて音楽に合わせず跳ねたりと、運動を通して体の骨が一つずつ動くのを確認して体をほぐします。

 

 

 

歩きながらスピードを「100%から40%に。次は10%、9% ……」と減速していくワークでは、歩くという動作が細分化され、体重移動や足の軌跡など、普段は気にとめないことに意識を集中させていました。

 

続いてはまっすぐに立ち、頭が風船のようにどんどん高く、軽くなっていくことをイメージ。
さらに足の裏の体重を前後左右に移動してみます。そして「細胞と細胞の隙間を均等にするように意識して」ゆっくりジャンプ。
ジャンプを止めてみると、全員がまっすぐきれいな立ち姿になりました。歩いてみると「体が軽い!」と驚きの声が漏れます。

さらに、「空気を足の裏から入れて親指から抜く」「腰から入れて耳から抜く」など、毛穴から空気の出し入れを意識するワーク。
体は大きく動きませんが、一点に集中していることが分かります。
「風通しのいい体のまま、空気を出し入れしてみて」と田畑さん。
まつげの生え際や肩甲骨の間、前腿……。普段意識しない部分に空気を出し入れするイメージから、ほど良く力が抜けてしなやかな体になっていきました。

 

 

さらに「普段伸ばしたことのないところをぐーっと伸ばして」。伸ばしたら、次は緩める動き。ゆっくり伸ばしてパッと緩めるか、パッと伸ばしてゆっくり緩めるかでも、動きは変わります。

「どこからどう緩めるか、確かめながら。体の表面から内側、胃袋、子宮、肝臓……」
内臓まで意識を促され、それぞれ目を閉じて集中する参加者たち。「伸ばす」「緩める」と声に合わせてダイナミックに伸び縮みする9つの体はとても美しく、力強い印象です。

「振り付けでも、手をゆっくり上げるかパッと上げるか、下げる時にどこから緩めるのか、色々な方法があります。実践するには、ニュートラルな体を作っておくこと。ニュートラルな動きに、一番その人の個性が出るのではないでしょうか」

田畑さんが市民参加ワークショップでこうした話をするのは初めてだそう。
今日は全員の集中力が高いため、「より深度を深めてみたい」と話してくれました。

 

さらに「立つ・歩く・座る」だけで空間をデザインする試みへ。

広い空間を囲むように、全員が壁際に立ちます。そこから自由に、空間の中を歩いたり座ったりして「時間と空間を作る」ワークです。
もちろん、空間に出ていかない選択もOK。

「立つ位置や向き、座り方、相手との距離や位置関係でも印象は違います。『空間と時間の余白を作っていく』を共通認識に」

静寂の中、一人、また一人と空間に歩み出していきます。そしてある場所で立ち止まる、座る。歩くスピード、方向によってもリズムが生まれます。

 

 

 

二人が背中合わせに立ったり、一人が後ろをついて行ったり、誰かのまわりをぐるぐる歩き回ったり。物理法則に則ったかのようなリズムを感じる瞬間もありました。
位置関係一つで見る者にさまざまなドラマを想起させ、距離感や動きの速さで印象が変化するのもおもしろいところです。

全体を群像として見ると、全員ストップしている、かと思えば誰かが一分子のように動き出し、次の動きを呼び起こして……と、自由に動きながらも全員で空間を作っていくダイナミズムは見ていて高揚感さえ覚えました。

 

 

 

15分ほどで「ストップ!」の声がかかると、無言だった参加者が一転、「楽しかった!」と笑顔に。

「シンプルな動きほど、タイミングや向きなど相手との駆け引きが重要になります。みなさん、だんだん時間と空間を認識するようになりましたね」

さらに、「人との関係性」を意識して同じワークをもう一度。
「あえて作ろうとしなくていいんです。『即興』に間違いはないから、自信を持って」と田畑さん。

何人かで並んだり、輪になったり、それを分断したり。言葉を交わさず即興で、動きをつなぎます。
手の動きや視線で意図を感じさせたり、また流れる音楽でも受ける印象は変化しました。時間がたつうち、無表情だった参加者に表情が生まれ始める瞬間も。

 

 

終了後、「みなさん、“受け入れる人たち”だなと思いました。いいチームワークですね!」と笑って話した田畑さん。

参加者からの「関係性を作るというテーマが出たとたん、どうしていいか分からなくなった」との声に田畑さんは、
「観ている側は、ただ並んでいるだけでも関係性を探ろうとする。考える『余白』ができるんです。その余白を作ってくれたらおもしろいですね」と語りました。

シンプルな動きの中に一人ひとりの個性が際立ち、大勢で場を作り上げる楽しさも味わえたワークショップ。
本番公演は7/15。7月からはいよいよクリエーションが始まります。どうぞお楽しみに。

 

 

田畑真希 市民参加コンテンポラリーダンス公演の詳細はコチラ