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【レポート】高橋多佳子ピアノ・リサイタル ベートーヴェンからショパンへ~ピアノへの情熱

みる・きく
会場
サントミューゼ

高橋多佳子 ピアノ・リサイタル
2019年11月16日(土) 14:00開演 サントミューゼ小ホール

 

今年度のレジデント・アーティスト、高橋多佳子さんのリサイタルを開催しました。
9月・10月は小学校でのクラスコンサート、地域ふれあいコンサート、そしてこのリサイタルに向けてのアナリーゼ・ワークショップなど、上田市内の多くの地域を巡ってきた高橋さん。
滞在を締めくくるリサイタルには、多くのお客様が足を運ばれました。

1曲目はベートーヴェンの『エリーゼのために』。
おなじみの曲ですが、高橋さんの演奏では、ベートーヴェンの繊細さがより際立って聞こえます。

 

 

今回は、ベートーヴェンとショパンがテーマです。
来年2020年は、ベートーヴェン生誕250周年、ショパン生誕210周年という節目。
「人類にとって最も大切な作曲家」と高橋さんはとらえ、それぞれの魅力をしっかり味わえるプログラムを用意しました。
上田には毎年のように演奏活動で訪れていて、住みたいくらい大好きな街なのだとか。
「もしショパンが上田に来たら、この美しい自然の風景に魅了されて、きっと上田が好きになったんじゃないかなと想像します」と話してくれました。

 

 

前半はベートーヴェンの作品が続きます。
2曲目は『ピアノソナタ 第9番 ホ長調 作品14-1』。ベートーヴェンのピアノソナタとしては簡素だと評価されることの多い9番ですが、非常に豊かで優れた内容で、ベートーヴェンの緻密な曲作りが遺憾なく発揮されています。

3曲目は『ピアノソナタ 第23番 へ短調 作品57「熱情」』。高橋さんが「演奏には非常に強いエネルギーが必要です」と言うだけあって、冒頭の厳しいリズムでホールの空気が一変します。
弾き手のすべてをぶつけることで、はじめて紡ぎだされるようなどこまでも美しく緊張感のある演奏に、会場の温度も上がっていくように感じられました。

 

 

休憩をはさんで、後半はショパンのプログラムに進みます。
ショパン1曲目は『ポロネーズ 第9番 変ロ長調 作品71-2 遺作』です。
「ショパンといえばエレガントな作風と思われがちですが、シューマンが『花束の中に隠れた大砲』と評したように、男性的な表現も魅力のひとつです」と、
高橋さんがショパン作品の魅力について語ります。
本来は優美でゆったりした舞曲であるポロネーズに、若いショパンの感性が融合した華々しさが伝わってきます。

 

 

続いては『4つのマズルカ 作品17』。ポロネーズ同様、ショパンの祖国ポーランドの舞曲であるマズルカ。
ポロネーズが貴族的な舞曲であるとしたら、マズルカは村々で古くから愛されてきた民俗的で素朴な舞曲の総称です。
ショパンは生涯にわたって何曲ものマズルカを作り続けました。
「独り言のような心の声をそっと書き留めるつもりで作っていたのではないかと思います」と高橋さんが言う通り、内省的な雰囲気が漂います。

次の『ロンド 変ホ長調 作品16』は、高橋さんが最近新しく取り組んでいる曲だそうです。
ショパンの作品としてはあまりメジャーとは言えませんが、「これから先、何度も弾いていきたいです」と語るように、テクニック的にも難しく、弾きごたえのある作品です。

 

マイクを手にした高橋さんは
「今日のプログラムはちょっと重かったかもしれません。安心して弾ける曲がひとつもありません」
と笑いを誘い、会場からは温かな拍手が起こりました。

 

 

最後の2曲は、『舟歌 嬰へ長調 作品60』と『ポロネーズ 第6番 変イ長調 作品53「英雄」』。

『舟歌』はショパン最晩年の最高傑作で、イタリアはヴェネツィアの運河をゆくゴンドラの情景が目に浮かぶようです。
幸福感に満ちた曲ですが、この時期のショパンは体調が悪く、恋人ジョルジュ・サンドとの別れも近いどん底の状態でした。

『ポロネーズ第6番「英雄」』はショパンがパリに出てから12年後の32歳の時に書かれました。

20歳の時、初めて作曲したコンチェルトを携え、ウィーンを経て父の祖国フランスへ向かったショパン。その後、生きている間にポーランドに戻ることはありませんでした。

「ポーランドを世界に誇るような気持ちでこの曲を書いたのではないか」
と高橋さんが想像するように、愛国者だったショパンの思いが炸裂するような曲です。

聴きごたえあるプログラムの最後にふさわしい、すべてを出し切った演奏に、大きな拍手が送られました。

 

 

アンコールは『子犬のワルツ』と、ドビュッシーの『月の光』。
前夜、見上げた月が美しかったからと選んだ『月の光』は、白く輝く月を音で感じさせる、透明感のある演奏でした。

終演後は、小ホールロビーにてサイン会を行い、多くのお客様と談笑をしていました。
中には、兵庫や埼玉から駆け付けたファンの方も。

お母様と2人の弟妹と聴きに来た中学3年生の女の子は、高橋さんの丸子文化会館でのふれあいコンサートにも行かれたそうです。
「響きや雰囲気がよく伝わってきました。特に『熱情』は伝わってくるものが強く、聴いているこちらも熱くなるほどでした」。
親戚どうしでお越しになった女性お二人にも感想を伺いました。
「おばに誘われて来ました。聴いているだけでいろんな感情が自然と出てきて、想像以上でした。柔らかく明るいトークとのギャップも良かったですね」。
「国内外さまざまなコンサートを聴きに行っていますが、今日の演奏は本当に素晴らしかったです!」。

 

 

高橋さんは、12月20日(金)のヴァイオリニスト小野明子さんのリサイタルに、共演者として参加されます。

詳細はコチラ

 

 

【プログラム】
ベートーヴェン:「エリーゼのために」イ短調
ベートーヴェン:ピアノソナタ 第9番 ホ長調 作品14-1
ベートーヴェン:ピアノソナタ 第23番 へ短調 作品57「熱情」
ショパン:ポロネーズ 第9番 変ロ長調 作品71-2 遺作
ショパン: 4つのマズルカ 作品17
ショパン: ロンド 変ホ長調 作品16
ショパン: 舟歌 嬰へ長調 作品60
ショパン: ポロネーズ 第6番 変イ長調 作品53「英雄」

【アンコール】
ショパン:子犬のワルツ
ドビュッシー:月の光