【レポート】津野田圭ハープリサイタル~天空の響きに包まれて~
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津野田圭 ハープリサイタル 〜天空の響きに包まれて〜
2018年9月15日(土)14:00開演 at 小ホール
指先まで神経を行き届かせた構えの姿勢から、凛とした気配を漂わせるハープ奏者の津野田圭さん。
最初に披露した曲はアッセルマン作曲「泉」。流れるようなアルペジオが、日の光にきらめく泉の水を思わせます。ひとつひとつの音色がみずみずしく響き、ハープの豊かな音の世界を楽しませてくれました。
あいさつに続き、演奏する楽器「グランドハープ」について説明しました。
「高さは180センチ、重さは40キロあります。よく『どうやって運ぶんですか?』と聞かれますが、管楽器のように分解できないので、この大きさのまま専門業者さんが運びます」
演奏する時は、楽器を自分の右肩に傾けて。重そうに見えますが、
「実は楽器が自立するポイントがあるので、あまり重さは感じません」。
弦は47本あり、演奏に使う指は小指以外の両手8本。さらに足も使うと話し、「足元にドレミファソラシに対応するペダルが7本ついています」と言うと客席からは小さなどよめきが。
ハープはこのペダルで音程を変え、例えばドのペダル位置を上・中・下と変えることで「ド♭、ド♮、ド♯」と一つの弦で3つの音を出すことができます。
続く「即興曲」の作曲者フォーレは、「泉」を作曲したアッセルマンの教え子の一人。曲の後半が似ていることから「アッセルマンが作曲を手伝ったのでは?」という説もあるそう。華やかに始まった曲は、時に哀愁を漂わせながらハープらしい華麗な響きで楽しませてくれます。きらびやかに響く高音と、味わい深い低音とのコントラストも印象的でした。
「演奏会用練習曲」の作曲者ゴドフロアは、高い演奏技術を誇った人物です。この曲には、指で弦の中央付近を押さえることで弦が短くなったような状態にして高音を出す「ハーモニクス奏法」が数多く登場。
柔らかな高音が、幻想的な雰囲気を作り出していました。
続く「朝に」はフランス人作曲家、トゥルニエの作品。
津野田さんはレッスンで先生から「トゥルニエの作品を弾きたいならフランス語を覚えなさい。音楽は彼からの手紙なのだから」と告げられたそう。
譜面に多彩な指示が書き込まれているのも理由の一つです。
繊細なメロディー、幻想的なアルペジオの温かな響きがホールに広がっていきます。
休憩中、ステージには自らチューニングをする津野田さんの姿が。後半の幕が開きステージに登場すると、
「ハープは演奏者自らチューニングを行います。47本の弦を1本1本チューニングするので『面倒ではないの?』とよく聞かれますが、自分の心も整っていくような感じがして、私はチューニングの時間が好きなんです」
と話しました。
後半1曲目はドイツの作曲家、シュポアによる「幻想曲」。切なく叙情的なメロディーが、歌声のように語りかけてきます。
津野田さんがハープを始めたきっかけは、60歳で突然ハープを始めたという自身の祖母に誘われたこと。
そんな祖母との思い出の曲の一つが、グリンカ作曲「ノクターン」。小学生の時に参加した軽井沢のハープのサマースクールで、祖母がこの曲の楽譜を買ってくれたのだそう。
「ハープの音色を奏でると、祖母と心がつながっていられるような気がします。ノクターンは日本語で夜想曲と言い、夜に人を想うロマンチックな曲。大事な人を想いながら聴いてください」
一音一音が甘やかに、悲しみや憂いも包み込むように優しく響きます。
ドビュッシー作曲「アラベスク第1番」は有名なピアノ曲。「ハープのために書かれた曲ではありませんが、すごくハープに合うのです」と語った通り、冒頭のロマンティックなメロディーから深みのある低音まで、ハープの音色が幻想的な世界を織り成します。
最後は女性作曲家タイユフェールによる「ハープのためのソナタ」です。軽やかで緩急あるリズムが楽しい第1楽章、妖艶な音色やスリリングな展開で聴かせる第2楽章、そして速いテンポがリズミカルに続き心を高揚させる第3楽章と、色彩豊かに魅了しました。
終演後のホワイエではサイン会が行われ、津野田さんは優しい表情で一人ひとりと言葉を交わされていました。
訪れたお客様からは「ハープだけの演奏は初めてで、感動しました」「演奏の間のコメントも素晴らしく、小さな頃の思い出を語った曲が心に残りました」との声が。小学生の女の子は「きれいな音だった。音の中でハープが一番好きです」と話してくれました。
【プログラム】
〈第一部〉
A.アッセルマン:泉 op.44
G.フォーレ:即興曲 op.86
F.ゴドフロア:演奏会用練習曲 op.193
M.トゥルニエ:朝に op.39
〈第二部〉
L.シュポア:幻想曲 op.35
M.グリンカ:ノクターン
G.ドビュッシー:アラベスク第1番
G.タイユフェール:ハープのためのソナタ
第1楽章 アレグレット
第2楽章 レント
第3楽章 「無窮動」
〈アンコール〉 サルツェード:夜の歌