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【レポート】NEW ORDER”『七人の部長』

みる・きく
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サントミューゼ

【レポート】演劇ユニット「NEW ORDER」”リーディング公演”『七人の部長』

 

2016年2月11日(木・祝)に行われた演劇ユニット「NEW ORDER」の”リーディング公演”『七人の部長』。サントミューゼで開館当初から企画・実施している「レジデンス・カンパニー」事業に参加した高校生たちが「もっと演劇がしたい!」という思いから誕生した企画です。それぞれ異なる高校の演劇部員が集まったユニット「NEW ORDER」が、高校演劇界の定番作品『七人の部長』を熱演した様子をレポートします。

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会場を訪れると、開場前の時間にもかかわらず、すでに大勢の行列ができていました。その顔ぶれは、役者と同世代の高校生はもちろん、親子連れから演劇好きな年配の方まで、まさに老若男女さまざま。この公演に対する観客の期待値の高さがうかがえます。

 

そして、通された会場は大ホールのホワイエ。いわゆる高さのある「ステージ」とは異なり、役者も観客も同じフラットな空間を共有するスタイルです。床席も設けられた不思議な雰囲気が、さらにワクワク感を高めてくれます。

 

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そもそも『七人の部長』のストーリーとは。

 

「…とある女子校の生徒会室に、七人の部長が集まってきた。これから『部活動予算会議』が始まる。しかし、会議は脱線また脱線。演劇部の予算が少なすぎると、予算案は否決の方向へ向かったのだが…」

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これは、2000年に作者の越智優氏がコーチを務める愛媛県立川之江高校演劇部のために書き下ろしたもので、数々の賞を受賞してきた作品。現在までに高校演劇部やアマチュア劇団を中心に、300件以上上演されています。上演時間は60分程度。登場人物は7人の女子高生で、今回は5人の男子高生と2人の女子高生が演じます。つまり、男子高生も女生徒になりきるのです。

 

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さて、開演とともに、生徒会室に見立てた舞台上には7人の部長が集まってきました。すると、女装をして登場した男子高生の役者に対してクスクスと笑いが。これはもしかして、演劇の中身ではなく見た目のコメディになってしまうのではないかと一瞬不安がよぎりましたが、そんなものは老婆心だとすぐに気づきます。

ユーモアがふんだんに散りばめられたストーリーのおもしろさはもちろんのこと、現役高校生のリアルでみずみずしい演技や客席にも話しかけて観客も巻き込む演出、さらに男子が女子を演じる独特のアンバランス感も含め、どんどんと会話劇に引き込まれていきました。

 

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そして、全員がきっちりと自分のキャラクターや立ち位置を理解し、個性豊かに演技に挑む姿からは、高校生たちの柔軟性と可能性も感じられました。また、何より彼らが生き生きと演技をし、演劇ならではのライブ感を楽しんでいるのも伝わってきて「若いって素晴らしい!」と純粋に感動するとともに、自分の高校時代を振り返って、こんなに一生懸命に打ち込むものがあったっけ、と思い、「もうここには戻れないんだな」という思いも生じて、うらやましさも覚えたのです。

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もちろん、作品の流れとして見たときに、作り込みが粗削りな部分もありました。しかし、その雰囲気もまた、急遽招集をかけられて足並みが揃っていない会議の様子のうまく伝える要素になっていたともいえます。

 

しかも、今回の公演には「リーディング公演」のおもしろさもありました。役者は台本を手にはしていますが、座り続けることはなく、限られたスペースでシーンに応じて動き回って演技もします。特に今回の場面は予算会議のプリントをめくるように台本もめくるので、「読んでいる」行為もナチュラルに感じられました。一見すると「台本を読むのだから、セリフを覚えなくて楽じゃないか」と思ってしまいそうですが、そうではなくて、リーディングだからこその難しさがこの公演にはあると思います。しかし、彼らは制約があるなかで、アイデアを駆使して演技ができることに楽しみを見出してもいるようでした。

 

 

 

加えて、観客としては先述のように観客に向かっても呼びかける演出によって、会場が一体となって舞台をつくりあげている醍醐味を感じることもできました。

 

そんな彼らの演技は、皆それぞれに印象的でしたが、なかでも特に印象に残っているものを挙げるとすれば、男子高生が演じる剣道部部長・椎名と女子高生が演じるアニメ部部長・岬の対立から仲良くなるやりとりです。

 

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10代後半の異性同士が作品を作る場合、思春期特有の恥じらいのようなものが、見る側を現実の世界に引き戻すこともあります(それが初々しくて繊細であるという効果もありますが)。

しかし、本作に関しては男女の演技だというのを忘れてしまうくらいに、女子同士の争いからの仲直りというシーンが見事におもしろおかしく描かれていました。いい意味で、高校生の今だからこそできる演技が表現されていて、全体を通して素直に高校演劇の醍醐味を楽しめたのです。そして、観客として今この空間を共有している高校生たちもまた「いい体験をしているな」と思えたのでした。

 

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それに、今回の劇団「NEW ORDER」は、学校単位という枠を超え、「同世代・演劇部」という共通項による独特の連帯感があるのも印象的でした。演出においては、これまでに「レジデンス・カンパニー」事業に携わり、演劇界の第一線で活躍する演出家で、南河内万歳一座座長の内藤裕敬さんからアドバイスを受けましたが、その贅沢感すら自然に受け止めている彼らの今後に期待せずにはいられません。サントミューゼと高校演劇の可能性の広がりを感じました。

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