サントミューゼ(上田市交流文化芸術センター・上田市立美術館)

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【レポート】群馬交響楽団 上田定期演奏会-2025春-

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オーケストラ

群馬交響楽団 上田定期演奏会-2025春-

開催日
時間
15:00~
会場
サントミューゼ 大ホール

指揮:小林研一郎
管弦楽:群馬交響楽団

2025年春の群馬交響楽団(以下、群響)の定期演奏会は、“炎のコバケン”ことマエストロ小林研一郎さんの指揮で、ベートーヴェンの交響曲「第1番」と「第3番《英雄》」をお届けしました。上田城千本桜まつりが始まったうららかな春の日、大ホールのホワイエではドリンクを楽しんだり、歓談したりしながら開演を待つお客様の姿がありました。

若きベートーヴェンの才気あふれる第1番

お客様の期待がにじむ温かな拍手で迎えられた小林マエストロは、「今日の2曲は2つの全く異なる世界に存在しています」と切り出します。そして、ベートーヴェンがモーツァルトに才を認められた時のエピソードを鮮やかに語ります。「とてつもない才能で世界を騒がせることになるだろう」とモーツァルトに言わしめた若きベートーヴェンが、満を持して世に問うた第1番。小林マエストロが一礼して振りはじめると、古典派の影響はありつつも、ベートーヴェンの独創性が散りばめられたシンフォニーの世界が立ち上がりました。祈るような小林マエストロの指揮で群響の厚みある弦楽器5部が存分に響き渡り、それまでの交響曲の常識を打ち破る充実した編成の管楽器が、さまざまな表情を与えます。

小林マエストロが世界一という群響の“英雄”

聴覚を失ったベートーヴェンが絶望の果てに「ハイリゲンシュタットの遺書」をしたためた直後から着手した第3番も、約50分という長い演奏時間、葬送行進曲を取り入れるなど新しさに満ちています。「私、絶対的な自信があります」と言う通り、パワフルな楽曲を小林マエストロの円熟の指揮が高みへと導いてゆきます。小林マエストロが世界一と太鼓判を押す群響の演奏は、最後は大きく震えるような爆発的な響きで強い印象を残しました。

ベートーヴェンの神髄を存分に味わわせてくれる指揮と演奏に客席から熱い拍手が沸き起こり、スタンディングオベーションや「ブラボー!」という声も飛びます。小林マエストロは、32歳の時に初めて群響で振った時のことを話し、群響創立80周年の節目に再び指揮する感慨を噛みしめ、何度も感謝の言葉を述べていました。アンコールは一転、心をなだめるような「ダニー・ボーイ」を弦楽器のみで演奏しました。

群馬から来たご夫妻は「本拠地より盛り上がっていたかもしれません。曲も指揮も素晴らしかったです」と感想を話してくれました。アンコールの「ダニー・ボーイ」には、一緒に来た娘さんとの思い出を呼び起こされたそうです。お子さんに「本物の音楽を聴かせてあげたい」と家族5人で来られた女性は、初めての群響の公演にさまざまな思いが去来したようでした。

【プログラム】
ベートーヴェン/交響曲 第1番
ベートーヴェン/交響曲 第3番「英雄」
【アンコール】
アイルランド民謡/ダニー・ボーイ

取材・文:くりもときょうこ
撮影:金井真一