【レポート】辻 彩奈 ヴァイオリン・リサイタル
読了目安時間: 5分
辻 彩奈 クラスコンサート
開催日 2025年7月16日(水)
会場 上田市立北小学校
ピアノ 五十嵐薫子
2025年度のレジデント・アーティストであるヴァイオリニストの辻彩奈さんは、ピアニスト五十嵐薫子さんとともに、上田市内の小学校に演奏を届けました。そのうちの1コマ、北小学校5年2組の回をレポートします。

間近で感じるヴァイオリンとピアノの迫力
音楽室に登場したおふたりはまず、39名の児童にエルガーの『愛の挨拶』を聴かせます。2曲目は、北小の設置が決まった年と同じ1927年に、ラヴェルが作曲した『ヴァイオリン・ソナタ ト長調』の第2楽章です。「ブルース」の名がついたこの楽章は、弦をかき鳴らす奏法、多用されるピチカートなどに彩られたジャジーな展開で、リズムに合わせて体を揺さぶる男の子もいました。3曲目はビゼーのオペラ『カルメン』をピアノ1台で表現する『カルメン幻想曲』。目で追えないほどの速さで五十嵐さんの指が88の鍵盤の上を駆け回り、音圧にも圧倒されます。


ここで、学校のヴァイオリンを弾いてみることに。「今日、お誕生日の子はいるかな?」という辻さんの呼びかけに、男の子がひとり手を挙げました。クラスメイトから「ファイト!」と応援が飛びます。初心者には難しい楽器ながら、男の子はきれいな音を出し、拍手が沸き起こりました。学校のヴァイオリンは2017年生まれですが、辻さんのヴァイオリンはなんと350年前のもの。子どもたちが驚きます。

質問とリクエストに次々手が挙がる
4曲目は『ツィゴイネルワイゼン』。フラジオレット奏法、左手のピチカート、弱音器を使って音色を変えるなど、技巧的で華やかな演奏に子どもたちは釘付けです。「ふだん気をつけていることは?」「他の演奏テクニックは?」「楽器を始めたきっかけは?」といった質問が飛び出し、おふたりの楽器を習い始めたエピソードに続いて、「何がきっかけで続くか、仕事になるかは分かりません。今、好きだから続けていることを、楽しみながら続けてほしいです」と、辻さんからメッセージがありました。

最後はスタジオ・ジブリ作品の『千と千尋の神隠し』『魔女の宅急便』『天空の城ラピュタ』から1曲。子どもたちの「絶対、コレが聴きたい!」という気持ちが挙げる手から伝わってきて、『天空の城ラピュタ』が選ばれました。合唱で歌ったことがあるという主題歌『君をのせて』を口ずさむ声と、おふたりの演奏が重なります。音楽のシャワーを一身に浴びた児童たちの感動が伝わってくるクラスコンサートでした。


【プログラム】
エルガー/愛の挨拶
ラヴェル/ヴァイオリン・ソナタ ト長調より第2楽章
ホロヴィッツ/カルメン幻想曲
サラサーテ/ツィゴイネルワイゼン
久石譲/君をのせて
取材・文:くりもときょうこ
撮影:金井真一
アナリーゼワークショップ Vol.78~辻 彩奈(ヴァイオリン)
日時 2025年7月18日(金)19:00~
場所 サントミューゼ小ホール
お話 辻 彩奈
ピアノ 五十嵐薫子
8月31日のリサイタルに向けて開催されたアナリーゼワークショップは、『ヴァイオリン・ソナタ第1番』(サン=サーンス)と『悲劇的な詩』(イザイ)の2曲が取り上げられました。

曲の構造と背景、聴きどころを丁寧に解説
『ヴァイオリン・ソナタ第1番』は、サン=サーンスが子ども2人を相次いで亡くした時期に書かれ、絶望ややりきれなさ、激しい感情の爆発が反映されています。楽譜を映写しての解説で、ソナタ形式の第1主題とキャラクターの違う第2主題、主題のバリエーションである展開部、そして1音変わることで趣が変わる再現部と、第1楽章の構造がよく見えます。第2楽章はヴァイオリンとピアノが同じ音形を繰り返すスケルツォ。最後は高まる緊張感から輝きと喜びに至り、ふたつの楽器の魅力が詰まった曲であることが伝わってきました。

『悲劇的な詩』はイザイが生涯8作遺した詩曲のひとつで、辻さんは「隠れた名曲のひとつ」と紹介します。『ロミオとジュリエット』に触発された作品で、悲痛な場面が続きます。一番の特徴はヴァイオリンの調弦を変える点で、ヴィオラのような深みのある音がとても効果的であることが分かります。最後は『ツィゴイネルワイゼン』でしめくくり、大きな拍手が沸き起こりました。

取材・文:くりもときょうこ