【レポート】三原未紗子 ピアノ・リサイタル
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三原未紗子 ピアノ・リサイタル
日時 2025年11月22日(土)14:00~
場所 サントミューゼ小ホール
11月の上田でのアーティスト・イン・レジデンスを経て行われた、ピアニストの三原未紗子さんのリサイタルをレポートします。
色彩豊かな音色で描き出すラヴェルの世界

暗闇の中、月に照らされたように浮かび上がるピアノから紡がれた1曲目は『月の光』。澄んだ音の奥底に力強さがあり、最後の音の余韻まで魅了しました。
続く『火祭りの踊り』では、一転して赤や橙の鮮やかな色彩を表現。そしてラヴェルの詩的な世界へ。柔らかな中に音の粒が際立つ『亡き王女のためのパヴァーヌ』、水に人格が宿っているような『水の戯れ』、『夜のガスパール』からは情感や静寂、不穏な音色がもたらす不思議な心地良さが届けられました。

多彩な情景と魂で魅了する『展覧会の絵』
後半は組曲『展覧会の絵』全曲を演奏する豪華な内容。この曲にぴったりと一目惚れしたというカラフルなドレスで登場し、「学生時代の師匠の演奏に感銘を受けた曲。ついに夢が叶った思いです」と万感の表情で語りました。

高揚感あふれる『プロムナード』に始まり、牛車が近づく臨場感と遠ざかっていく変化が立体的に感じられる第4曲、にぎわう市場を描く第7曲、生死を感じる第8曲と、美術館を歩いているかのように豊かな音世界。「弾いていて一番楽しい」と話す第9曲は疾走感に満ち、速いテンポながら一音一音が凛と響く圧巻の演奏でした。第9曲バーバ・ヤーガから第10曲キエフの大門に切れ目なく演奏されていくクライマックスは壮大で、表情と手の動きからも情熱が伝わってきます。演奏後、少し間を置いて笑顔で立ち上がった三原さんに盛大な拍手が送られました。

坂城町から来られた親子は「『展覧会の絵』がダイナミックで感動しました」と話し、上田市の男性は「公民館コンサートやアナリーゼも参加しました。集大成のリサイタルでこれまでの演奏や解説がすべてつながって感じられ、素晴らしかった」と話してくれました。

【プログラム】
C.ドビュッシー/〈ベルガマスク組曲〉より「月の光」
M.ファリャ/〈恋は魔術師〉より「火祭りの踊り」
M.ラヴェル/亡き王女のためのパヴァーヌ
M.ラヴェル/水の戯れ
M.ラヴェル/夜のガスパール
「オンディーヌ」「絞首台」「スカルボ」
M.ムソルグスキー/展覧会の絵
〈プロムナード〉
第1曲 グノームス
〈プロムナード〉
第2曲 古城
〈プロムナード〉
第3曲 テュイルリー
第4曲 ブイドロ
〈プロムナード〉
第5曲 卵の殻をつけたひなどりのバレエ
第6曲 ザムエル・ゴールデンベルクとシュムイレ
〈プロムナード〉
第7曲 リモージュの市場
第8曲 カタコンブ ―ローマ時代の墓
第9曲 にわとりの足の上に建っている小屋(バーバ・ヤーガ)
第10曲 キエフの大門(古都キエフにて)
【アンコール】
M.ラヴェル/亡き王女のためのパヴァーヌ
取材・文:石井妙子
撮影:金井真一
三原未紗子 クラスコンサート
日時 2025年11月14日(金)
場所 上田市率長小学校
2025年度のレジデント・アーティストであるピアニストの三原未紗子さんは、上田市内の小学校に演奏を届けました。そのうちの1コマ、長小学校5年生の回をレポートします。

風・虫・水・火と自然をテーマにした選曲
24名の5年生の大きな拍手迎えられて、笑顔の三原さんが颯爽と現れます。1曲目はショパンの『エチュード 第1番』。「エオリアン・ハープ」という愛称で知られる曲です。一貫して奏でられるアルペジオは、自然に吹く風が弦楽器エオリアン・ハープを鳴らすように優しく響きます。弾き終わった三原さんは「ピアノという素敵な楽器を知ってほしくてやってきました。今日は自然をテーマにしたいろんな曲を伝えたいと思います」と語りかけました。2曲目の『タランテラ』では、曲の由来となった、巨大化した毒蜘蛛タランチュラが人々を襲う物語の絵を見せて、曲が描く情景を伝えます。

3曲目に移る前に、ピアノにまつわるクイズが挟まります。子どもたちは鍵盤が88あることに驚き、弦の数が230本以上あると知るとさらに驚いていました。次の『エリーゼのために』では、ピアノの周りに集まります。下を覗いたり、弦を見たり、三原さんの手元を見たり、寝転んで聴いたりと、思い思いにピアノの迫力を身近に感じていました。さらに、ピアノの部品である木製のハンマーが配られます。圧縮した羊毛がついた先端で弦を下から叩いて音を出すことを学びました。みんな興味津々です。

続いてはラヴェルの『水の戯れ』とファリャの『火祭りの踊り』。アニメ「ポケットモンスター」のポケモン属性でイメージを喚起しつつ、水と火の違いを感じてほしいと三原さんが話します。演奏が終わると、子どもたちから「火は低い音がメインだった」「水は優しくて、火は強く弾いていた」と感想が飛び出しました。

ショパンの名曲がピアニストへの道を決定づけた
最後は三原さんが「いちばん大切にしている曲」です。三原さんは小5の時、ピアニストになるかどうか悩んだことがありました。発表会で憧れのお姉さんが弾いたショパンの『幻想即興曲』を聴いたことが、ピアニストの道へ進むきっかけになったそうです。「今日みんなに会えて、ピアノを続けてきてよかったと思いました。そう思わせてくれたみんなに感謝しています」。子どもたちの心に鮮やかな印象を残す、情感あふれる演奏でした。演奏後に子どもたちが話してくれた「指の動きがなめらかだった」「全部難しそうな曲で一つひとつに意思を感じました」という感想に、心からの感動がこもっていました。

【プログラム】
ショパン:エチュード 第1番 変イ長調
ブルグミュラー:25の練習曲より「タランテラ」
ベートーヴェン:エリーゼのために
ラヴェル:水の戯れ
ファリャ:火祭りの踊り
ショパン:幻想即興曲
取材・文:くりもときょうこ
撮影:齋梧伸一郎
アナリーゼワークショップ Vol.80~三原未紗子(ピアノ)
日時 2025年11月12日(水)19:00~
場所 サントミューゼ小ホール
お話 三原未紗子
リサイタルをより深く楽しんでいただくために、公演で演奏される楽曲の魅力を演奏者が分かりやすくお伝えします。

リサイタルで演奏する組曲「展覧会の絵」は、作曲家のムソルグスキーが親友の画家ハルトマンの急逝後に追悼展を訪れ、絵画を鑑賞する視点と会場を歩く体験を音楽で表現した作品です。興味深いのは、構成する10曲のモチーフとなった絵画が研究でおおよそ判明していること。全10曲と絵画のつながりをまとめた三原さんによる資料を元に、演奏を交えて解説しました。

例えば楽曲「チュイルリー」のモチーフとされるのは子どもを描いた作品。曲には子どもが遊んだりケンカをしてすねたりする様子が描かれています。三原さんの楽譜にも「ケンカ」「手を引かれて帰る」など解釈が書き込まれ、表情豊かに演奏しました。

組曲には曲の間をつなぐ短い曲「プロムナード」が繰り返し登場します。ハルトマンが地下墓地を訪れた時の絵から生まれた曲「カタコンブ」の後のプロムナードは調性が変わり、「死者へ何かを呼びかけているかのようです」と三原さん。「美術と音楽を共存させ、永遠に残る存在として構築した作品」という表現が印象的でした。

取材・文:石井妙子