【レポート】レジデント・アーティスト事業 マームとジプシー『線に宿る 点を巡る 夜を歩く』
読了目安時間: 12分
レジデント・アーティスト事業 マームとジプシー『線に宿る 点を巡る 夜を歩く』
- 開催日
- 時間
- 14:00開演
- 会場
- サントミューゼ 小ホール
劇作家・藤田貴大さんは、2023年から上田の街のフィールドワークと作品発表を行ってきました。3年目となる2025年度は、上田で出会った景色や人、その記録を手がかりに、夜の中で上田の街を描く新作を発表。2日公演の初日の様子を取材しました。
連想ゲームのように過去と今を行き来する
サントミューゼから千曲川を定点で捉えたタイムラプス映像が流れるロビーから小ホールに入ると、舞台手前両脇に流木とベンチが、スクリーンには映像が流れ、車の走行音とザ・ビートルズの音楽が交錯します。

prologue「dusk」は”わたし”こと青柳いづみさんのモノローグではじまります。昭和40年代の上田市の姿が語られます。人が多くてスリがいる。今はもうないデパート。高校帰りにコーヒーを飲んだ喫茶店……現在に戻り、夜の街を歩きながら、アパートの四角い窓の中の人と暮らしに思いを馳せます。

chapter1「線に宿る」。部屋の中で横になっているわたしの妹こずえ(髙宮梢さん)は、人から言われた言葉にモヤモヤして眠れない様子です。わたしは、人間の二足歩行についてこずえと話したと回想。「約200以上もの骨が私を支えていて立つこと歩くことは奇跡だと思う」。

おばあちゃんのお墓参りにこずえと行った時の回想で、犬のモコと一緒に入りたくてお墓は抽選で1年待ったこと、お葬式の時には“塩ゆでのます”が出ることと、エピソードが語られます。「点があって、点と点を結ぶ線があることを知る。私たちは点と点を結ぶ線の上に常にいて、生きているということは何かしらの線の上にいる。線に宿るものを想像している」。

千曲高校脇にかつてあった滑走路から特攻隊が飛び立った話へ移り、interlude1「1945」へ。

わたしは、旧日本軍が上田市仁古田につくった飛行機建設用の地下壕へ向かいました。そこから10分くらい行けば別所温泉――高校の頃、別所から通っていたはるかを想起します。彼女は、とあるアニメのキャラクターの関係性になぞって、わたしのことを”みちる”、彼女のことを”はるか”と互いに呼び合う仲でした。「東京には行きたい。別所は背後が山だから、目の前にしか何も広がっていない感じがする」。的場裕美さん演じるはるかは、パジャマ姿で手鏡をのぞき込んでいます。
chapter2「点を巡る」。

「もしもし、おつドラ~」。どうせ眠れないからとテンション高く電話するはるか。「眠れない私は夜、私はコスプレをするという二次創作をしている」。高校生のはるかとわたしの会話では、興奮して早口で話すはるかと、はるかと話しているところをクラスメイトに見られたくないわたしの微妙な関係性が表出します。高3の時、とあるバス停ではるかと再会した時のことが回想されます。「どうしてはるかは真夜中のバス停にいたんだろう?」「みちる、あれから私友だちできたよ。あの頃の私は独りぼっちだった気がする」。

長い夜の先で出会う夜明け
ミシンでコスプレ衣装を縫うはるかがスクリーンに大写しされます。わたしは、風景写真や風景画もある意味二次創作と言い、「その土地に住んでいる人たちの日々を、どうして作品にしようとするの?」と疑問を広げます。「そうしないと感じられないんだよね。その土地に住んでいる人のその日々について、誰かが語らないと届かないんじゃないか」。

interlude2「late night radio」。

ミシンの前に座るはるかの耳に、トイピアノのジングルが。女性DJのおしゃべりから深夜ラジオ独特の温もりが伝わってきます。

chapter3「夜を歩く」。


「今夜はなんでだろう。あの頃のいろんな人のことが思い出される。こずえのこと、はるかのこと、今度はこうが」。17歳、こうが(古田恒河さん)と千曲川のほとりでとりとめのない話をしています。

子ども、コスプレ衣装を着たはるか、パジャマ姿の男性……いろんな人が舞台に上がり、円を描きながら踊り歩きます。「夢の中、もう会えなくなった人たちがみんな生きている。会えることになったら、何を話そう。今度はきちんとお別れを言えるかな?」。

epilogue「dawn」。

「街がコバルトブルーに染まる。蚕の卵を孵化させることを“あおませる”と言う」――今日と同じ明日は訪れない。昨日と同じ今日がなかったように。しかし過去と同じ今が訪れてしまってはいないか。結ばれてはいけない過去と今がイコールで結ばれて――わたしは、「飲み過ぎたな」と自嘲して大の字に寝転びました。
夜明けの千曲川を背景に、わたし、こずえ、はるか、こうがが揃います。Fishmansの『Night Cruising』が響いて終演、舞台は大きな拍手に包まれます。

上田在勤の男性は、観劇自体が今回初めてだったそうです。「上田のお話だったので、興味を持ちました。楽しくて引き込まれてしまいました。今度はもっと前の席で役者さんの表情を見たいです」。藤田さんの作品が好きという男性は「上田に住んでいなくても妙に懐かしく感じました」と話していました。
取材・文:くりもときょうこ
撮影:金井真一