【レポート】仲道郁代 ピアノ・リサイタル 関連プログラム
読了目安時間: 5分
アナリーゼワークショップ Vol.85~仲道郁代(ピアノ)
日時 2026年9月30日(水)19:00~
場所 サントミューゼ 小ホール
お話 仲道郁代(ピアノ)
10月18日のリサイタルを前に、ピアニストの仲道郁代さんのアナリーゼ・ワークショップが開催されました。仲道さんのプロジェクト「The Road to 2027リサイタル・シリーズ」、今年の秋は複数の舞曲を束ねた「組曲」がテーマです。

ともに踊る中で生まれる調和と相手を慮る心
上田でのリサイタルは今年で9年目になる仲道さんは、今回「調和と心慮」というタイトルをつけた経緯を話しました。「神への捧げものとして調和を旨としたバロック時代の音楽に、ロマン派のような感情はないかもしれません。けれど調和の中にこそ聞こえる感情というものがあるのではないかと私は思います」と切り出しました。西洋の宮廷舞踏は、ルイ14世の時代に厳格なルールをもって体系的にまとめられました。踊りに欠かせない舞曲で構成された組曲を見ていくと、相手と呼吸を合わせて踊ることによって響き合い調和する人の心を感じると仲道さんは言います。
1曲目はバッハの『パルティータ 第1番』。最初の“プレルディウム”は前奏曲で、入場や礼などの場面を想起させます。5つの舞曲それぞれを、踊りの映像を交えながら解説していきます。仲道さんのお話によって、組曲が歴史や文化の背景を伴って鮮やかに立ち上っていくようです。
2曲目のラヴェルの組曲『クープランの墓』は、第一次世界大戦で犠牲になった友人たちを追悼する曲です。「舞曲が使われることで、その秩序が懐かしさをもたらしているように感じます」と仲道さん。細かいレースの編み物のように音が連なる前奏曲“プレリュード”、時代を超える感覚を持つ“フーガ”、北イタリアの優美で端正な舞曲“フォルラーヌ”、躍動的な“リゴドン”、美しさと愁いが同居する“メヌエット”、そして休みのない無窮動を「命あるものは動き続ける」と仲道さんが表現する“トッカータ”と、ラヴェルらしい技巧と豊かな表現に彩られた曲です。

調和が取り去られれば音楽もまた滅びる
3曲目は再びバッハで『イタリア協奏曲』。「今回唯一組曲ではない曲ですが、調和を感じます」。2段鍵盤のチェンバロのために書かれました。第2楽章の“アンダンテ”について、仲道さんは「大胆な推測ですが」と前置きして、ラヴェルの『ピアノ協奏曲 ト長調』と似たフィーリングを感じると弾き比べをしてくれました。
4曲目はバッハの『パルティータ第2番』。第1番の“コレンテ”と同じ3拍子の“クーラント”は実は同じ「走る、流れる」という意味を持ち、“コレンテ”がイタリア風、“クーラント”がフランス風という違いがあります。仲道さんは弾き比べると、“クーラント”のほうが重たく感じるそうです。
5曲目はグリーグの組曲『ホルベアの時代より』。ホルベアはグリーグと同じノルウェー生まれの多才な作家で、生誕200周年を記念して彼が生きていたバロック時代に合わせた組曲として書かれました。「この曲を弾いていると、グリーグが生きていた時代とホルベアが生きていた時代、そして私たちが生きている今と、人々の生活の悲喜こもごもがリズムやハーモニーに溶け合って、同じ感動を覚える気がします」。第3曲の“ガヴォットとミュゼット”は、バグパイプ状の楽器ミュゼットの持続音も表現されています。
最後に、ホルベアが書いた言葉が紹介されました。「私が最良と考えるのは芸術家の心に適い、しかも大衆の耳に障らぬ響きである。音楽と調和とは同義としよう。調和が取り去られれば音楽もまた滅びる」。
仲道さんは「踊る人たちがお互いを慮るからこそ生まれる調和、慈しみを今回のプログラムの作品から見出していきたいと思います」と締めくくりました。客席から送られる大きな拍手に、リサイタルへの期待の高まりが込められたアナリーゼ・ワークショップとなりました。

取材・文:くりもときょうこ