【レポート】群馬交響楽団上田定期演奏会-2026冬-
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群馬交響楽団上田定期演奏会-2026冬-
日時 2026年2月22日(日)15:00~
場所 サントミューゼ大ホール
指揮:クリスティアン・アルミンク
ピアノ:エリック・ルー
ソプラノ:渡邊仁美(ジークリンデ)
テノール:片寄純也(ジークムント)
バスバリトン:志村文彦(フンディング)
共演:広島交響楽団メンバー
今回の群馬交響楽団定期演奏会は、前半はアメリカのピアニスト、エリック・ルーさんを迎えたピアノ・コンチェルト、後半はオペラの一幕という構成でした。ルーさんが2025年のショパン国際コンクールで優勝したこともあり、チケットは完売御礼。満席の大ホールはお客様の期待と熱気にあふれていました。
世界の頂点を極めたピアノ

ピアノ・コンチェルトはベートーヴェンの第3番。ピアノとオーケストラが交互に音楽を奏でる協奏曲です。導入は陰鬱でシリアスな雰囲気に満ちています。ルーさんはオーケストラの音にじっと耳を傾け、音楽に合わせて小さく身体を揺らしていました。いざピアノを弾きだすと、柔らかく繊細なタッチと、非常に丁寧でエレガントな音づくりが伝わってきます。アルペジオやトリルの粒立ちは素晴らしく、弱音はもちろん弱音と強音の間の音の表現力も抜群です。第1楽章後半のピアノ・ソロが印象的でした。夢の中のような第2楽章、そして第3楽章は軽やかに指が駆け巡ります。曲が終わると、ほっとした表情でアルミンクさんと抱き合います。ホール中が鳴り響く拍手は鳴りやまず、3回のカーテンコールに応えていました。

オペラはドラマと音楽の総合芸術

後半のオペラ「ワルキューレ」は、ティンパニ2組、ワーグナーチューバ、ハープも含む大編成。ステージの両脇には歌詞が表示されるモニターが設置されています。序奏の「嵐の動機」は、特にチェロとコントラバスの低音部が強い印象を残します。不穏さが極まったところにティンパニが鳴り響き、闘いで傷つき疲れたジークムントを演じる片寄純也さんが歌い始めます。舞台は宿敵フィンディングの館。妻ジークリンデを演じる渡邊仁美さんは、警戒しながらも突然の訪問者への好奇心をにじませます。水を与えひと息ついたジークムントの語りから、ジークリンデは生き別れた双子の妹であることが分かります。望まない結婚で絶望の中にいたジークリンデは、結婚式に現れた片目の老人がトネリコの木に剣を刺し、これを引き抜いた者が持ち主にふさわしいと告げたことを話します。互いへの愛を歌い上げ、ジークムントは剣を見事引き抜きます。片寄さんの歌には、過酷な運命に傷つきながらも英雄としての矜持を失わないジークムントの強さを感じました。渡邊さんは、絶望から希望へと振り幅の大きいジークリンデの変化を細やかに表現していました。志村さんのバスバリトンは、深みと説得力がありフンディングの姿が目に浮かぶようでした。

お客様の感想です。
オペラは初めてという上田市の女性です。「人の声はあんなにも迫力があるんだと驚きました」。お友だちとふたりで東御市から来た女性は、「エリック・ルーさんを上田で聴けるなんて、サントミューゼも群響もグッジョブです!」とリサイタルを満喫されたようでした。
【プログラム】
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲 第3番 ハ短調 Op.37
ワーグナー:楽劇「ワルキューレ」第1幕(演奏会形式)
取材・文:くりもときょうこ
撮影:齋梧伸一郎
関連プログラム
楽劇「ワルキューレ」レクチャーコンサート
日時 2026年1月28日(水)19:00~
場所 サントミューゼ大スタジオ
出演 渡邊仁美(ソプラノ)
城谷正博(ピアノ/新国立劇場オペラ音楽ヘッドコーチ)
2月下旬の群馬交響楽団定期演奏会で予定されている演目「ワルキューレ」の世界を、オペラ指揮者・城谷正博さんの解説とソプラノ歌手・渡邊仁美さんの歌声で深めるレクチャーコンサートが開催されました。平日夜にもかかわらず、50名以上のお客様が詰めかけました。

ワーグナーのオペラ世界を熱く語る
「ワルキューレ」は、ワーグナーが16年かけて作曲した4部からなる『ニーベルングの指環』という舞台祝典劇の一部。全体としては世界を支配できる魔法の指環を巡る壮大な物語で、ワルキューレは北欧神話に基づく“戦乙女”を指します。第1幕は双子の兄妹ジークムントとジークリンデ、ジークリンデの夫でありジークムントの敵であるフンディングの3人が登場するシンプルな内容、そして美しいメロディとアリアで、世界中で親しまれています。

この超大作の構成・内容を解説する城谷さんのいきいきとした語り口にお客様は引き込まれ、楽しそうに聞いている様子が伝わってきます。ワーグナーを鑑賞するヒントは短い主題、「ライトモティーフ」にあると城谷さんは言います。ワルキューレには6つの人物や状況、キーとなるアイテムにそれぞれ固有のテーマが与えられています。それらが登場する時に奏でられることで、筋が追いやすくなっているのです。
難しい役をじっくり深めていく

不幸のどん底から希望を見出すまでと振れ幅が大きいジークリンデを演じる渡邊さんが、ワーグナー佐作『ヴェーゼンドンク歌曲集』の「エンゲル」(天使の意)と、ワルキューレ第1幕の一部を歌いました。澄んだ美しいソプラノが響きわたります。城谷さんからジークリンデを演じることについて尋ねられた渡邊さんは、こう答えました。「この作品に取り組んでから草木に惹かれ、部屋に観葉植物が増えました。音域の低い出だしでは大地を感じます。灰色の硬い土から植物が芽吹くイメージを持っています」と、歌いながら深めている様子を共有してくれました。さらに、「表情が大きく変わる難しさを感じていますが、ジークリンデの希望の強さという精神性に共感しています」と、公演への意気込みも語りました。お客様からの「オペラ歌手になろうと思ったきっかけは?」という質問に、宝塚歌劇団やミュージカルとの出会いという意外なエピソードを披露してくれました。最後、「今日の話で、公演当日も楽しめること請け合いです」という城谷さんの言葉に、大きな拍手が送られました。

取材・文:くりもときょうこ
撮影:齋梧伸一郎